第316話 旅行
翌朝。
身支度を整えて部屋から出ると、美香さんと唯さんは既に準備を終えていた。
昨日は結構遅くまで食事会をしていたため、唯さんはともかく、美香さんはまだ眠っていると思っていた。
「おはようございます。よく起きられましたね」
「おはよ! だって、私寝てないもん! 娯楽部屋でドラゴンボール読んでた!」
悪い顔でそう言った美香さん。
ただ、目はとろんとしており、かなり眠そうだった。
「えっ、寝なかったんですか? 寝ないで大丈夫なんですか?」
「まだ若いから平気! ドラゴンボールが入荷したって聞いて、読まずにはいられないから!」
「美香、眠くなったからって不機嫌にならないでくださいね。散々注意したのを破って徹夜したんだから」
「大丈夫だって! 今日の夜まではハイテンションを維持する!」
そう言って両腕で力こぶを作った美香さんだったけど、馬車に乗るなり眠ってしまった。
アッシュの馬車のため、王都までは約10分ほど。
馬車の中で寝る分には問題ないけど、仮眠にしては短すぎるからなぁ。
起きるのを拒否したり、不機嫌にならないか心配だったけど、王都に着いたらスッと起きてくれた。
「ふぁーあ。ちょっとでも寝ると全然違うね!」
「この短時間でよく眠れますね。とりあえず、蓮たちと合流しましょうか」
向かったのは高級宿。
蓮さんたちは1階に隣接する食堂で朝食を食べていた。
「蓮、将司! 佐藤を連れてきたよ!」
「おー! 佐藤さん、来てくれたのか!」
「わざわざ来てくれてありがとう。来られたってことは、数日間は空いているって認識でいいのか?」
「はい。秋の作物を植えるまでは暇ですので、数日間は空いています」
「それなら良かったぜ! ちょっと飯を食っちまうから待っててくれ!」
蓮さんと将司さんは、すごい勢いで残っていた朝食を一気に平らげた。
そんなに急いで食べることはないと伝えたんだけど、私の言葉には一切聞く耳を持たず、胃の中に詰め込むように食べてしまった。
「ふぅー、食った食った!」
「ねね、どこに行くのかは決めてあるの?」
「ああ。色々話し合ったんだが、ジレットの街に行こうかと思ってる」
「ジレットの街ですか。私はいいと思います」
「私も賛成! めちゃくちゃ面白そうだし!」
蓮さんの案を聞いて、唯さんと美香さんは乗り気になっていた。
聞き馴染みのない地名のため、私には良いかどうか判断できなかったけど、4人が満場一致でいいと言うなら間違いないはずだ。
「佐藤さんも今回の目的地はジレットで大丈夫か?」
「ええ、問題ありません。王国内でも知っている場所は少ないですし、4人に全てを任せます」
「佐藤はジレットの街を知らないんだ!」
「有名なところなんですか?」
「超有名! ジレットの街自体には何もないんだけど、近くに廃神殿があるんだよ!」
廃神殿?
以前、シーラさんの説明で聞いたことがある。
確か、サレヴォ廃神殿。
美香さんが超有名と言うくらいだから、本当にすごい場所なのだろうか。
「廃神殿は聞いたことがあります。確かサレヴォ廃神殿ですよね?」
「そうそう! なんだ、知ってるじゃん!」
「名前は知っていますが、何があるかは何も分かりません」
「王国で一番大きかった神殿らしいぜ! 俺たちも行ったことはないから詳しくは知らないんだけどよ!」
「分かりやすく説明すると、廃れてしまった伊勢神宮みたいな感じの場所です。造りは和風ではないので、あくまでも例えですけど」
伊勢神宮には行ったことがある。
神秘的なのはもちろん、とにかく大きい。
管理されているからこその美しさや神々しさを感じたけど、廃れてしまったとなると恐ろしさの方が際立つかもしれない。
それに、この世界では本当に神の力が残っていそうだからね。
「面白そうではありますが、怖さもありますね」
「祟りとかはないようですが、危険な魔物が潜んでいるという噂話を聞いたことがあります」
「廃神殿に住む危険な魔物は見てみたいぜ! 聖なる気を蓄えた魔物なんかな?」
「いや、廃れてるんだから邪気に変わってるんじゃないか? サレヴォ廃神殿自体は有名だけど、中の情報は少ないし、行ってみないと分からない」
「だね! まぁ何かあっても私たちが守るから大丈夫! ということで、早速出発しよう!」
話もまとまり、王都に来て20分もしないうちに出発することになった。
目指すのはサレヴォ廃神殿の近くにある街――ジレット。
廃神殿には恐ろしさもあるけど、今はそれ以上に興味と関心が勝っている。
期待に胸を膨らませつつ、私たちは馬車に乗り込み、ジレットの街へ向けて出発したのだった。