第302話 水鉄砲
縁日の準備を進めていく中、今日は久しぶりの猛暑日。
さらにヤトさんが遊びに来ていることもあり、農作業を早めに切り上げて川遊びをすることにした。
気温は32度前後だと思うのだけれど、普段は30度以下が当たり前なので、かなり暑く感じてしまう。
「久しぶりに来たのに暑すぎるのじゃー! 汗で気持ち悪い!」
「あとは裏山を登るだけですので、頑張って登りましょう」
「佐藤、おんぶしてほしいのじゃ!」
「む、無理ですよ。私も暑くてヘトヘトなんですから」
無茶を言うヤトさんを宥めながら、私たちは裏山を登り、いつもの小川へやってきた。
裏山に入ると日陰も多くなり、自然の力で少し涼しくはなっていたものの、今回は荷物を大量に持ってきていたため汗が止まらない。
一度荷物を置いてから、まずは汗を流すために川に飛び込む。
山の水ということもあって水温は低く、とても気持ちが良い。
全員が川に入ってプカプカと浮かびながら、体が冷えていく心地よさを味わっている。
この小川の近くにサウナを作ってもいいかもしれない――なんて考えながら、体が冷え切るまで泳いでいた。
「佐藤さん、気持ちがいいですね。先ほどまで鬱陶しいと思っていた暑さも、いいなと思えてくるので不思議です」
「本当に気持ちがいいですね! 僕はもう完全復活しましたよ!」
「わらわもじゃ! 元気が出たら、魚捕りがしたくなってきたの!」
ヤトさんは泳ぐ魚を目で追いかけていたが、今日は魚捕りはしない。
涼みに来ただけではなく、やりたいことがあってここまで来たからだ。
「それでは、そろそろ始めますか?」
「やりましょう! 僕、早く撃ちたくてウズウズしてたんです!」
今日ここまで来た理由は、みんなで水鉄砲で遊ぶため。
この水鉄砲は縁日のためにロッゾさんが用意してくれたもので、今回は試し撃ちも兼ねて遊ばせてもらう。
ルールは簡単。3対3に分かれて水鉄砲で撃ち合うだけ。
それぞれに破れやすい紙で作ったゼッケンを身につけ、破れた時点で脱落。
最後まで残っていたチームの勝利となる。
川の水でゼッケンが濡れてしまうため、基本は陸での戦いになるだろうが、水を汲むために小川へ行かなければならないのが肝。
意外にも戦略の幅が広そうで楽しみだ。
「それではグーとパーで分かれましょうか」
グーパーで決めた結果、私・ジョエル君・ヘレナが同じチームに。
相手はシーラさん・ヤトさん・ミラグロスさん。
模擬戦なら絶対に敵わない組み合わせだけれど、今回は水鉄砲。
いくらでもやりようはある。
小川を挟んで陣取り、互いに準備と作戦を練った。
「マスター、よろしくお願いします」
「佐藤さん、ヘレナさん、よろしくお願いします! 作戦とかって決めますか? それとも自由に戦いますか?」
「細かい作戦はかえって混乱を招くので、シンプルにしましょう。基本は各自自由に戦い、私の合図で3人一斉に攻撃する。これでどうですか?」
「異論はありません。絶対に勝ちます」
「僕も大丈夫です! うぅー、ワクワクしてきたー!」
ジョエル君が飛び跳ねるのと同時に、対岸でヤトさんも飛び跳ねていた。
始まる前から楽しんでくれているようで何よりだ。
「それでは開始します。始め!」
私の合図とともに、ヤトさんとジョエル君が撃ち合い始めた。
ロッゾさん特製の水鉄砲だけあって対岸まで届くものの、距離があり当たりはしない。
その様子を見て、先に仕掛けてきたのは敵チーム。
ヤトさんが小川に入り、ズンズンと近づいてくる。
そして、その後ろに隠れるようにシーラさんとアシュロスさんも川を渡ってきた。
小川を渡られてしまえば射撃の腕は関係なく、身体能力でやられてしまう。
「ジョエル君はその位置から。ヘレナは奥に回って!――ヤトさん狙いで発射!」
射線を広げ、前を進むヤトさんに3方向から集中射撃。
撃ち返す相手を迷っている間に、ヤトさんのゼッケンは破れた。
すると、ヤトさんを盾にしていたシーラさんとアシュロスさんが一気に突っ込んできた。
数的有利を取ったとはいえ、ここで焦ってはいけない。
「――アシュロスさん狙いで発射!」
シーラさんは無視し、アシュロスさんに集中攻撃。
3方向からの水鉄砲で、アシュロスさんのゼッケンも破ることに成功した。
その間に、シーラさんは川を渡りきり、正面のジョエル君のゼッケンを破ってみせた。
……ただ、状況は私とヘレナで挟む形の2対1。
安全圏から撃ち続け、まずはシーラさんの水切れを待つ。
そして水が切れて撃てなくなった瞬間、一斉射撃でシーラさんも撃破。
ヤトさんを盾にして距離を詰める作戦は良かったが、こちらの「射線を広げて一斉攻撃作戦」が見事にハマった。
「やったー! 僕たちの勝ちです!」
「悔しいのじゃ! もっかいやらせるのじゃ!」
「もちろんやりましょう」
暑くなれば小川で休みながら、私たちは水鉄砲勝負を繰り返した。
水鉄砲なんて小学生以来だったが、本気でやるとこんなにも面白いのかと驚きつつ、日が暮れるまで遊び尽くしたのだった。