第301話 変貌
2羽のオーラバードには、それぞれ「ハニー」と「シアン」と名付けた。
ハニーは蜂蜜色から、シアンはそのままシアン色から取った名前だ。
鳥かごでの生活も問題ないようで、私たちがいるときに鳥かごから出してあげると、部屋の中を元気に飛び回っている。
今のところ魔力の譲渡は試していないが、可愛いので癒しとして大活躍中だ。
機嫌が良くなると歌うのも特徴的で、私たちも一緒に歌うとノリノリになる。
ハニーとシアンのために、音楽プレーヤーかラジカセを購入してもいいかもしれない。
そんな感じで、ここ5日ほどは平和に過ごしていたが……ゆっくりしていられるのも束の間だった。
近々開催予定の縁日のために、そろそろ動き出さなければならないのだ。
縁日の運営はサムさんにお願いするつもりなので、そのために王都へ行く必要がある。
事前にしっかりアポを取った上で、私は1人で王都へ向かうことにした。
待ち合わせ場所は前回と同じ。
今日は農作業を途中で切り上げ、予定の時刻よりも早めにやってきた。
今回、王都に早めに来たのは、クリスさんへの手紙を届けるためでもある。
帰りの馬車の中で結論は出ていたが、王都に来る機会がなく、返事を出せずに今日まで来てしまった。
今日を逃したら次のチャンスがいつになるか分からない。だからサムさんとの話し合いの前に手紙を渡しておきたかった。
私は街の人に道を尋ねながら、指定された『ニールマート』を探す。
大きなお店だと勝手に思っていたせいか、探すのに意外と手こずった。
ようやく情報を頼りにたどり着いたのは、小さな個人経営の道具屋さんだった。
「いらっしゃい。何かお探しかね?」
レジ横に座っていたのは、優しそうなお爺さん。
にこにことしていて、店を間違えたかと思ったが……間違いなくここが『ニールマート』だった。
「あの……クリスさんへのお手紙を渡したくて、このお店に来たのですが、合っていますか?」
「チッ、そっちの客か。手紙は預かるからそこに置いて、とっとと出ていっとくれ」
先ほどまでにこやかだったお爺さんは、クリスさんの名前を聞いた途端に態度を一変。
怪訝そうな顔で吐き捨てるように言った。
態度の変わりようが怖すぎるけど、逃げ出さずにグッと堪えた私は、指定された場所に手紙を置いた。
その間も睨まれ続け、このお爺さんとクリスさんの関係が良好でないことが一目で分かる。
「よ、よろしくお願いします」
そう告げてから、私は逃げるように『ニールマート』を後にした。
こんな扱いを受けるとは思っておらず、心臓がドキドキしている。
とりあえず手紙は渡せたし、あとはクリスさんからの反応を待つだけだ。
急いで店を離れたせいで、予定よりかなり早く喫茶店に着いてしまったが、中で待つことにした。
前回と同じように待ち合わせだと伝えると、余計なことを聞かれることもなく、席に通された。
そこには既にサムさんがいて、コーヒーを片手に挨拶してくれた。
「やあ、随分と早かったね」
「サムさん、こんにちは。早いというのは私のセリフですよ。こんなに早くから待っていてくださったんですか?」
「ふふ、別に待っていたわけじゃないさ。ここだと仕事が捗るから、作業していただけだよ」
そう言って、つい先ほどまで作っていた資料を見せてきた。
「なるほど、そういうことだったんですね。既に座っていたので、時間を間違えたのかと思って焦りました」
「焦らせて悪かったね。それより座ったらどうだい?」
促されて私は席に着き、注文をする。
『ニールマート』での緊張もあって喉が渇いていたので、コーヒーではなくミックスジュースを頼んだ。
「ミックスジュースとは、分かっているね。ここのは美味しいんだ」
「そうなんですか。知らなかったので、飲むのが楽しみです」
「期待していいよ。それで本題だが……今回はお祭りを開催したいんだったな。具体的な案はあるのかい?」
「はい。屋台を出すお祭りで、出店は基本的に自由ですが、“ゲーム性のあるもの”に限っています」
「ゲーム性?」
サムさんはいまいちピンときていないようだったので、縁日の屋台について詳しく説明した。
この世界にはない文化なので理解に時間はかかったけど、最終的には面白がってくれて、すぐに乗り気になってくれた。
「なるほど。面白そうな祭りじゃないか。もとより引き受けるつもりだったが、正式に引き受けさせてもらうよ。屋台についてもある程度任せてくれ。私の方で趣旨に合いそうな人に声をかけてみよう」
「サムさん、ありがとうございます! 今回はきちんと報酬をお支払いしますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく。ふふ、今から楽しみだ」
その後も祭りについて話し合いを進めた。
今回は打ち上げ花火も予定しており、こちらはロッゾさんの知り合いに依頼している。
去年以上に大きなお祭りになりそうで、今から私も楽しみだ。
書籍情報が解禁されましたので、告知させて頂きます!
本作の書籍版がSQEXノベルさんから出版されます。
イラストレーターは卵の黄身先生であり、シーラやベルベットを可愛く描いて頂いている他、ライムやマッシュなどの魔物も素晴らしいデザインで描いてくださっております!
加筆修正もしており、web版を読んでいる方でも楽しめる一冊に仕上げておりますので、発売したら是非お手にとって頂けたら幸いです!
発売日が決まり次第、告知させて頂きますので、書籍版の方もどうか何卒よろしくお願い致します!!