第300話 馬車での相談
人が多くなる前に私たちは東側を後にして、すぐに宿へ戻って就寝。
翌朝には馬車に乗って、ルダークの街を後にした。
移動の時間を使い、昨日クリスさんから提案された話をシーラさんとベルベットさんに全て報告。
2人がどう思っているかを尋ねたところ、シーラさんは受け入れ賛成派。
ベルベットさんは否定派で、意見が分かれる結果となった。
「私は受け入れてあげたいという気持ちが強いですね。武力で解放したのはいただけないという気持ちはありつつも、奴隷にされた方に非はありません」
「私は反対派。奴隷を購入するのは金を持っている奴らだからね。『DMR』は私でも聞いたことがあるし、度々問題として挙げられていた組織。奴隷を受け入れてあげたい気持ちも分かるけど、もしそのことがバレて、『DMR』との繋がりまで疑われたら……ちょっと危険すぎる」
ベルベットさんは『DMR』を知っていたのか。
ベルベットさんが言うように、奴隷を買えるのは金持ちだけだろうし、金持ちということは権力も持っている。
権力者を相手にするのは、私も怖い部分が大きい。
移住者もどんどん増えているし、私だけの考えで軽率に動くことはできないからね。
「どちらの意見もよく分かります。……どうしたらいいんでしょうか」
「佐藤さんが決めて大丈夫です。どんな決断でも私はついていきますので」
「私もシーラと同じ意見。リスクは説明したし、バレたら危険が及ぶ可能性が高い。そのことを踏まえて、佐藤はどうしたいと思っているの?」
「…………私は受け入れたいです。もう屈したくはないので」
この世界の奴隷の方たちからしたら、まだ幸せすぎる環境かもしれないけど、私も社畜として心身ともに壊れた経験がある。
もちろん私自身だけでなく、先輩や同僚、後輩が潰れていくのも何度も見たし、当時の私は何も提言することはできなかった。
この世界に転移してきたときから、ブラック労働には断固反対している。
奴隷制度なんかその最たる例でもあるため、私には力がないから解放運動は起こせないけど、受け入れ先くらいにはなりたい。
「……まぁ佐藤ならそう言うと思った。オドオドしているように見えて、信念があるし意志も固いもんね」
「私も佐藤さんならそう言うと思ってました。受け入れると決めたのなら、ここからはどうするかを考えないといけませんね」
「普通に働かせるのは、やはりバレてしまうリスクが高いですかね?」
「村から出なければ大丈夫だと思うけどね。私は私で、もしバレた時のために根回ししておく」
「私は一緒に元奴隷の方たちができる仕事を考えるのと、何かあったときのために強くなります」
頼もしすぎるシーラさんとベルベットさんの言葉。
私は本当に恵まれていると改めて実感する。
「ありがとうございます。本当に頼もしいです」
「シーラの強くなるって言葉で考えたけど、冷静に考えたら佐藤の戦力って国家並みよね? 勇者一行に私とドニー。強すぎる従魔、夜刀神率いる龍人族にエルフの国。もしかしたらバレても大丈夫かもね」
羅列してもらって気づいたけど、確かに一大勢力を築いているのかもしれない。
もちろん私自身の力は何もないし、戦い上等のスタンスでいくつもりもないけど。
「大丈夫なのかもしれませんが、争いはしたくないのでバレないようにします。シーラさん、ベルベットさん、相談に乗っていただきありがとうございました」
「お礼なんかいりません! 私はいつも佐藤さんに助けられてばかりですから。何があっても味方です!」
「私も同じく。それに、佐藤を助けるのは私のためでもあるからね。佐藤は絶対に守りきる」
シーラさんもベルベットさんも、目に火を宿して熱く宣言してくれた。
幸せに感じながら馬車に揺られていると、いつの間にか到着したみたい。
ルダークの感想や、クリスさんとの間にあったことの経緯説明。
そして、どうするかの相談に乗ってもらったこともあり、感覚的には行きよりも早く着いた気がする。
「何だかあっという間でしたね」
「話が盛り上がったからね。あっ、ヘレナとライムが出てきた」
私たちが帰ってきたことに気づいたのか、ヘレナとライムが出迎えてくれている。
休日は同じだけ設けているけど、いつもお留守番させてしまっているのは申し訳ないな。
「マスター、お帰りなさい! 旅行はいかがでしたか?」
「おかげさまでゆっくり羽を伸ばすことができました。私たちがいない間、何か問題は起きませんでしたか?」
「何も起きてないです。それより……シーラさんの肩に乗っているのは何ですか?」
ヘレナとライムはオーラバードに興味を向けているようで、近づいて観察するように見ている。
「旅行先で購入した新しい仲間です。優しくしてあげてください」
「分かりました。どこで飼育するのですか?」
「基本的には鳥かごの中にいてもらおうかなと思ってます。逃げないみたいなので、裏山に放し飼いでもいいのかなとも思いましたが、他の動物や魔物に襲われたら大変ですからね」
「それなら、私もマスターと一緒にお世話いたします。よろしくお願いいたしますね」
ヘレナはオーラバードにペコリと頭を下げ、2羽のオーラバードは返事をするように小さく鳴いた。
このオーラバードたちにも、名前をつけてあげないといけないな。
名前は明日までに考えるとして……今日は移動疲れを取るためにも、ゆっくり休みたい。