第299話 怪しい相談
最後に良いお店を紹介してもらえたことで、大満足の旅行となった。
東地区に行く前から楽しかったけど、ここのお店は頭一つ抜けて面白かったなぁ。
「オーラバードを1羽ずつのお買い上げね。どうやって持ち帰る?」
「鳥かごが欲しいんですが、鳥かごは別で購入という形でしょうか?」
「別で購入じゃないわよ。ただ、鳥かごなしでも逃げないから聞いただけ」
「えっ? 逃げないんですか?」
「ええ。オーラバードのくちばしに指を出すの。つついてくるから、魔力を分け与えれば主として認めてくれるわ」
しつけの方法もファンタジーチックだなぁ。
でも、私は魔力の出し方が分からないため、主として認めさせることができない。
「シーラさん。私は魔力を分け与えられないので、2羽ともシーラさんが分け与えてください」
「いいのですか?」
「もちろんです」
シーラさんが1羽ずつ、オーラバードに魔力を分け与えた。
すると、2羽のオーラバードは嬉しそうにシーラさんの肩に飛び乗った。
楽しそうに歌っているようで、とても可愛らしい。
「これで大丈夫よ。鳥かごも一応持って帰る?」
「はい。私が持って帰らせて頂きます」
「分かったわ。それじゃ、こっちに来て」
私は鳥かごを取りに行くため、お店の裏まで案内された。
ただ、クリスさんは鳥かごを取ることはせず、こちらに向き直ると人さし指で私の胸を突いてきた。
「鳥かごの前に一つ相談があるの。聞いてくれる?」
「そ、相談ですか? な、なんでしょうか?」
暗いバックヤードで、色気のあるクリスさんと二人きり。
近づいてきたことで凄く良い香りもするため、思わずドギマギしてしまう。
「あなたに相談したいことというのはね……奴隷について」
「ど、奴隷ですか?」
「他言無用でお願いしたいんだけど、私は積極的に奴隷解放を行っている『DMR』って組織のリーダーを務めてるの」
「奴隷解放を行う組織……ですか?」
「ええ。襲撃して、無理やり奴隷を解放させる組織。王国内ではかなり嫌われている組織ね」
奴隷という存在がいることに驚いたけど、奴隷を解放する組織のリーダーがクリスさんということにも驚く。
何も知らない身からすると良い組織なのではと思ってしまうけど、嫌われているということは武力をもって解放しているということだよね。
「そうだったんですね。……もしかして、私もその組織に加入しろということでしょうか?」
「そんなわけないじゃない。あなた、とても弱そうだし。私があなたに頼みたいのは、解放した奴隷の受け入れ先を作って欲しいの。少し調べたけど、人里離れたところに村を作っているのよね?」
クリスさんとは会って間もないし、ろくに自己紹介もしていない。
それなのに、私が村のようなものを作っていることを知っていることに、若干の恐怖を覚えてしまう。
「ええ、そうですが……なんで知っているんですか?」
「これだけの商品を集めることができて、『DMR』のリーダー。東側はもちろん、西側にも私がかかわっているお店はいくつもあるの。そして、ここは貿易都市。王国だけでなく、他の国にもパイプができるから、集めようと思えば情報は簡単に集まるのよ」
出会ってから一番の笑顔で言い放った、悪の親玉のようなセリフに少しゾッとする。
「そういうことだったんですね……。それで、私が村のようなものをやっていると知って、今回の件を提案したと」
「そういうこと。もちろん、断ってくれてもいいわ。このことを他言しなければ、断ったとしても私が何かするということはないから安心して」
うーん……どうしようか。
来るもの拒まずがモットーだし、奴隷という環境にいた方たちなら積極的に受け入れてあげたいという気持ちはある。
ただ、無理やり解放しているとのことだし、奴隷を匿っていることを悟られたら、村に危険が及ぶのではという心配が強い。
どう決断するにも、シーラさんとは相談がしたいな。
「受け入れたい気持ちはあります。ただ、危険がある以上は簡単に返事はできません。向こうに残っている方とは相談してもいいですよね?」
「……うーん、分かったわ。王女様に相談するのはやめてほしかったけど、仕方がないね。ただ、2人以外への相談はやめてくれるかしら? 3人で相談して決められないなら、断ってくれた方がいいから」
「分かりました。それでは相談してから、早いうちにお返事をします。お手紙をお送りすればいいですか?」
「王都にある『ニールマート』というお店宛に手紙を出してくれればいいわ。そこから私の下まで手紙が届くから」
「分かりました。『ニールマート』にお返事の手紙を出させていただきます」
「ええ。良い返答を期待しているわ」
クリスさんはそう言ってから、鳥かごを取って私に渡してくれた。
何だか凄い話をしてしまい、心臓がいまだにドキドキしているけど、シーラさんもベルベットさんもオーラバードと戯れているため、私が少し挙動不審なことに気づいていない。
そんな中、バーネットさんだけはクリスさんを軽く睨んでおり、裏で何かしたことに気づいている様子。
クリスさんもその視線に気づいたようで、バーネットさんに睨み返しており、その視線の交わし合いはまるで蛇とマングースのようで……少し怖かった。