第296話 オーラバード
シーラさんはまじまじとオーラバードを見つめており、購入しようか悩んでいる様子。
ただ、保護対象ということに引っかかりを覚えているようで、購入までは踏み込めないみたいだ。
「オーラバードって、綺麗なだけじゃないんですか?」
「魔力を溜めることができて、その魔力を譲渡する能力も持っているって話は聞いたことがある」
「私も同じですね。だからこそ、大量に乱獲されたみたいです」
「へぇ! この鳥って、そんな能力を持ってんのか!」
ベルベットさんとシーラさんの話が本当なら、可愛いだけでなく、すごく有益な鳥。
ミラグロスさんのワープゲートには魔力が必要になるって話だし、オーラバードが複数いれば足しになるはず。
それ以外にも、モージやヘレナの魔法を使った農作業の負担も減らせるし、シッドさんの建物の建設にも魔法は使われている。
一気に購入したい欲が高まってきたけど、私も引っかかるのが「保護対象」という点。
「可愛くて、使える能力を持っているなら購入したいんですが……オーラバードは保護対象なんですよね?」
「そう。保護対象になる前の個体なら、販売や譲渡は許可されているけど、ここに売られているのは真っ黒だと思う」
「オーラバードは前々から気になっていたんですが、そのせいで購入には踏み切れないんです」
「東側に連れてきておいてなんだけど、購入はやめるのをおすすめするわ」
シーラさんはガックリ肩を落とし、オーラバードの購入を諦めた様子。
ここで購入してしまうと、またオーラバードが密猟されてしまうからね。
私も断腸の思いで諦め、次の店へと向かうことにした。
この通りは、黒寄りのグレーゾーンなだけあって、昨日訪れた市場よりも気になるものが多い。
魔道具やアーティファクトなんかも平気で売られており、値段の安さも驚きのポイントの一つ。
「このアーティファクトは、念じた相手の動きを一瞬止めることができる代物なんだわ。金額は白金貨1枚。欲しいだろ?」
「安いですね。そんな金額でいいんですか?」
「特別価格だぜ。すぐ売り切れちま——」
「そのアイテムの入手経路を教えてください」
「それは……秘密だな」
「なるほど。佐藤さん、行きましょう」
「ちっ、冷やかしなら帰れ!」
他のアーティファクトと比べても安く、気になったアイテムだったけど、シーラさんに引っ張られるように連れ出された。
この感じからして、オーラバードと同じく、手を出さない方がいいものなんだと思う。
「さっきのアーティファクトは駄目なやつでしたか?」
「はい、怪しすぎですね。良くて贋作、悪ければ強盗して盗んだものだと思います」
「安いとは思いましたが、安いのも駄目なんですね」
「良い商品は高くても売れますからね。好意で安くしてくれることはありますが、訳ありだと思うのが吉です」
こんな感じで、購入したいと思うものはあるんだけど、購入までは踏み切れないもどかしい感じが続いた。
通りをすべて見終えたけど、結局購入したものはなし。
怪しすぎるが故に、手を出せなかったな。
「誰も何も購入しなかったのかよ! 多少怪しくとも買っちまえばいいのに!」
「立場的にも、そうはいかないのよ。でも、バーネットのおかげで安心して見て回れた」
「ですね。購入はしませんでしたが、すごく新鮮で面白かったです。バーネットさん、ありがとうございました」
護衛をしてくれたバーネットさんに、深々と頭を下げてお礼をする。
絡まれないどころか、避けられていたからね。
バーネットさんのおかげで、危険な場所なのに安全に見て回ることができた。
「礼を言うのはまだ早いぜ? 次の場所もあるからな! 引き受けた以上は仕事を全うするし、次は購入に踏み切れる可能性のある場所だ!」
「バーネットは次に行く場所を知ってるの?」
「ああ! 一応リクエストしたからな! ……と、噂をすれば戻ってきたぜ!」
バーネットさんが指をさした方向に視線を向けると、黒頭巾の店主さんが歩いてきていた。
「アポを取ってきた。忙しくなる前なら自由に見ていいとのことだから、すぐに向かいたいが大丈夫か?」
「さすがだぜ! かっこつけちまってたから、交渉に失敗してなくて良かったわ!」
「次はどこに行くんですか?」
「それは着いてからのお楽しみだ! 時間も限られているし、さっさと向かうとしようぜ!」
ノリノリのバーネットさんについていき、次の目的地に向かうことになった。
どこに行くかは教えてもらえなかったけど、この自信のありようからして、期待していいと思う。
最初に訪れたこの通りが面白かったし、私はワクワクしながらバーネットさんの後をついていったのだった。