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第294話 威圧感


 心境としては、完全に蛇に睨まれた蛙。

 体が硬直して動けずにいると、シーラさんが私とバーネットさんの間に入ってくれた。


「はじめまして。シーラと申します」

「ん? お前はなかなか強そうだな! 後ろのお前はずいぶんと弱そうじゃねぇか!」


 差し出したシーラさんの手を無視し、私のほうに近づいて手を伸ばしてきた。

 めちゃくちゃ怖いけど、手を差し出されたら握手するしかない。


 バーネットさんの手は非常に大きく、私の1.5倍はある。

 手の皮も岩のように硬く、同じ人間とは思えない威圧感があった。


「手も柔らかくて女みてぇだな! お前みたいなのが、なんでベルベットと友人なんだ?」

「い、いえ……色々とありまして……」

「バーネット。粗相はしないでと言ったでしょ?」

「普通に話しかけただけだろうがよ! 単純に疑問に思っただけだ! 怖がらせちまって悪ぃな!」


 バーネットさんは、子どもをあやすように私の頭をポンポンと叩いてから、席に戻っていった。

 正直、めちゃくちゃ怖かったが、悪い人ではないと思う。

 私が勝手に雰囲気に飲まれ、萎縮してしまったのだ。


「話を戻すけど、護衛の方は大丈夫なの? 朝からお酒を飲んでいたみたいだけど」

「こんなの、飲んだうちに入らねぇよ! 任せとけって! ベルベットに何か悪さしてこようもんなら、オレがぶっ飛ばしてやっから!」


 岩のような拳を固め、笑顔でそう言ってきた。

 悪い人には鉄拳制裁を加えるだけで、悪い人ではないはず。……多分。


 東側にいる悪人よりも、バーネットさんへの恐怖が上回りかけているが、時間も限られているため、東側へと向かうことにした。

 冒険者ギルドに入ってきたときは、多方面から視線を浴びたのだが、バーネットさんがいるからか、誰も視線を向けてこない。

 怖さと頼もしさを感じながら、私たちは冒険者ギルドを出て東側へと移動することにした。


 冒険者ギルドからは意外と近く、10分ほど歩いて街の東側に到着。

 話に聞いていた通り、雰囲気からアンダーグラウンドな空気をひしひしと感じる。


 お酒なのかドラッグなのか分からないが、道の端で倒れている人がゴロゴロとおり、昼間で明るいのに非常に暗い雰囲気だ。

 お店も開いている様子はなく、西側と同じ街とは思えない異様な空間だった。


「す、すごいですね。治安の悪さがもう分かります」

「この辺りにいる人は何もしてこないから大丈夫。見ていて気分はよくないけどね」

「何か危害を加えてこようとしたら、私が全力でお守りいたします」


 シーラさんの心強い言葉に励まされながら、東側の怪しい通りを進んでいく。

 ぶっ飛んでいる人ばかりではあるものの、ベルベットさんが言っていた通り、私たちに絡んでくる人はいない。


 何なら避けられている節もあり、先頭を歩いているバーネットさんの存在が大きいのだと思う。

 そんな私たちがやってきたのは、寂れた廃墟のような建物。


「ここが一軒目のお店。東側にある店の中では、かなり健全なほうだと思う」

「マイルドなところから紹介してくれたんですね」

「それでも完全にアウトな店ではあるけどな!」


 豪快に笑いながら、バーネットさんはお店の扉を開けた。

 外観は廃墟そのものだが、ちゃんと営業はしているようで、中には商品がずらりと並んでいる。


 置かれている商品は小汚いものが多く、装備品や戦闘アイテムばかりだ。

 冒険者を相手に商売している店なのだろうか?


「おーい! 来たぜー!」

「誰かと思ったらバーネットか。売りに来たのか? それとも買いに来たのか?」


 お店の奥から現れたのは、黒い頭巾のようなもので顔を隠した怪しい男性。

 バーネットさんとは知り合いのようで、かなりフランクに接している。


「今日は知り合いを連れてきた! 東側の店に興味があるみてぇだから、パイプ役になってもらおうと思ってな!」

「客じゃないなら帰ってくれ。――と言いたいところだが、バーネットは敵に回したくない。手を回しておく」

「おう、ありがとな! 一応、店も見させてもらうぜ!」


 帰ってくれと言った後、バーネットさんの鬼の形相を見て引き受けた店主。

 まだ出会って間もないし、名前ぐらいしか知らないけど……バーネットさんがどんな人なのか分かってきた。


 もしかしたら、東側にいる悪党よりも、危険なのはバーネットさんなのかもしれない。

 くれぐれも怒らせないようにしようと心に誓いつつ、このお店の商品を見させてもらうことにした。


「ここのお店って、冒険者向けなんですか?」

「そうだぜ! 基本的に、死んだ冒険者が身につけていた装備やアイテムを売ってる店だ! だから、値段もお手頃価格になってる!」

「この国の法律では盗品扱いにはならないから、東側では一番健全なお店ではあるの。……白とも言いきれないけどね」

「なるほど。このお店が一番まともということは、ホワイトなお店は東側にはないということですね。ようやく気構えができた気がします」


 一番まともで、死体から剥ぎ取った遺留品を売っているお店かぁ。

 先行きが不安すぎるけど、ディープな世界すぎて逆に面白くもある。


「ざっと見ましたが、基本的に定価の半値ですね。ルダークの冒険者は死亡率が低いと聞いたことがありますが、その理由が分かった気がします」


 なるほど。

 グレーゾーンを攻めているがゆえに、装備品を買えない低ランク冒険者を救っているのか。

 その情報を聞いてしまうと、一概に悪いこととも思えなくなってしまうから、難しいなぁ。



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