第291話 シールドレーク
近づいて見てみると、明らかに普通の作物とは異なる異様な雰囲気を放っている。
もともとこの世界の作物は変わったものが多いけれど、シールドレークは禍々しさすら感じる。
「これがシールドレークですか……。他の作物と比べて、明らかに異質な感じですね」
「間違いなくシールドレークです! 諦めていたので、まさか見つかるとは思いませんでした」
「多分だけど、この1つしか残っていなさそうね。端っこにあるお店だし、他のお客さんにも見つからなかったんじゃないかしら?」
「そうだと思います。早速交渉します」
シーラさんの興奮具合からも、どれだけ希少なのかがよく分かる。
値段についてだが、このシールドレークには値札が置かれていないことからも、直接交渉しないといけないのだろう。
「すみません。ちょっといいでしょうか?」
シーラさんが声を掛けると、屋台の奥から店主さんがやってきた。
店主さんは築地にいそうな感じの、いかにもな中年男性だ。
「あんだい? 何か欲しいもんでもあんのかい!」
「このシールドレークに興味があるのですが、いくらで売ってくれますか?」
「ほー! お目が高いお嬢ちゃんだなぁ! そのシールドレークは白金貨10枚だぜ! 今日入荷したばかりのもので、新鮮かつ質も大きさも一級品! ここを逃したら買えないぞ!」
1つで白金貨10枚……!
買えない額ではないけれど、非常に高額だ。
私たちが育てている作物は、高くても1つ銀貨5枚だからね。
200倍と考えると、私は手を出すのに躊躇してしまう。
「うーん……。相場よりも高いですね。安くはできませんか?」
「可愛いお嬢ちゃんの頼みだから答えてあげたいところだが……難しいなぁ! まける代わりといったらなんだが、おまけでハクミン草をつけるぜ?」
「ハクミン草はいらないですね。おまけなしで、白金貨8枚は難しいですか?」
「無理無理! そんなに安くしたら赤字になっちまう!」
「なら、間を取って白金貨8枚と金貨5枚では?」
「全然間になってねぇぞ! 間は白金貨9枚だろ?」
「えっ? 白金貨9枚でいいんですか? ありがとうございます!」
「言ってねぇけど……んー、まぁ白金貨9枚ならいいか。特別だからな」
「ありがとうございます!」
無茶苦茶な交渉術で、無理やり白金貨1枚分値切ってみせたシーラさん。
私にはできない芸当だけに、素直に感心してしまう。
シーラさんは白金貨9枚と引き換えにシールドレークを受け取り、大事そうに鞄の中にしまった。
白金貨9枚でも高額ではあるが、シーラさんの反応を見る限りでは破格の値段で購入できたのだと思う。
とりあえず、これで目的の一つは達成。
シールドレークを探し回ったことで、必然的に異国の品が売られている市場は一通り見終えたし、次の場所に移動したいな。
「シールドレークを無事に購入できて良かったですね。次はベルベットさんが行きたい場所に行きますか?」
「そうしてくれると嬉しいかな。ただ、もうお昼ぐらいだし、この市場でご飯を食べてからにしない?」
「私もベルベット様の意見に賛成ですね。シールドレークを探しながら、美味しそうな料理を提供している場所をいくつか見つけましたので、そこのどこかに行きましょう」
「もちろん私も賛成です。二人のパッションで決めていいですよ」
「知らない料理ばかりだろうし、誰が決めても同じだもんね。なら、これと思ったところにしましょう」
ということで、ベルベットさんが行きたい場所に向かう前に昼食を取ることにした。
市場なだけあって、食事を提供している店はたくさんあるけれど、異国の料理ということもあり、変わった食べ物が多いらしい。
私はというと、グレイラン王国の食べ物にもまだ慣れていないので、どのみち変わったものばかりに感じてしまうのだけどね。
どのお店にするか話しながら、私たちが入ったのは精肉を取り扱っているお店。
外で売られているお肉を中で調理してもらえるらしく、一番無難そうという理由でこの店を選んだ。
「おすすめのものを三人前頼めるかしら?」
「もちろん大丈夫だぜ! すぐに焼くから席で待っちょれ!」
シールドレークを買った店の店主さんと同じような雰囲気の店主さんで、おすすめの部位を焼き始めてくれた。
外飲みができる居酒屋のような雰囲気で、若干の汚さもあるけど、それも味になっている。
「待たせたな! パンはサービスじゃけぇ、肉と交互に食べるといいぞ!」
「ありがとうございます。いただきます」
新鮮なお肉が焼きたてということもあり、匂いからして非常に美味しそう。
変な色のソースも持ってきてくれたけれど、自前のお塩を振っていただくことにした。
期待感マックスということもあって、一気に口の中に入れたのだけど……匂いがかなりキツい。
噛むたびに獣臭が鼻から抜けて、とても「美味しい」と思える一品ではなかった。
「かなり独特ですが、悪くない味ですね」
「確かに。ソースがいいのかな?」
私が食べたお肉をなんとか飲み込んだ一方で、シーラさんとベルベットさんはケロッとしている。
どうやら、変な色のソースが臭み消しになっているようで、ソースにつければ美味しくいただけるらしい。
美味しい肉には塩が合うと思ったのが、完全に裏目に出てしまったことを後悔しつつ、私も二口目からはソースにつけて食べていった。
ソースをつけても「美味しい!」という感じではなかったけれど、まぁ、良い体験はできたと思う。