第27話 トマト
この世界の食材は美味しくないし、美香さんは食が細くなっていた可能性がある。
食べないと力が出ないし、そりゃ気だって滅入ってしまうよな。
「ここに来たときは暗くてあまり見えなかったけど、こんな立派な畑を作ってたんだ! それにしても、トマトを作ってるって凄い!」
「凄いってことはないと思いますよ。ただ、この世界の食材は美味しくないので、非常にありがたいですが」
「そう! そうなの! 全部変な臭いがするし、味も雑味が混じっているくせに薄味だから本当に美味しくない!」
「美香さんはご飯の喜びがないから滅入ってしまったのかもしれませんね。頑張っても楽しみがないと辛いだけですから」
「そう……なのかな?」
美香さんを連れて畑までやってきた後、すぐにトマトが成っているところまで案内した。
昨日は緑色をしていたが、今日は真っ赤でみずみずしいトマトが実っていた。
「本当にトマトだ! ……食べてもいい?」
「ええ。食べていいですよ」
「おじさん、本当にありがとう。いただきます!」
美香さんは心の底から祈るように食前の挨拶を行った後、トマトを一つもぎ取ってかぶりついた。
「――美味しい! 本当に美味しい。生のトマトなんかあんまり美味しいと思ったことなかったけど、涙が出そうになるくらい美味しい」
涙が出そうになるくらいと言っていたが、美香さんの目からは涙が溢れていた。
この世界の食材の質の悪さはすぐに気づいていたし、早いところ四人を招待するべきだったかもしれないな。
……いやでも、NP的に料理を振る舞えるわけでもなかったし、そこの塩梅は非常に難しい。
現時点でも、NPの使い方には常に頭を悩ませているしなぁ。
「……ねぇ、もう一個だけ食べていい?」
「ええ、どうぞ。食べてください」
「ありがとう!」
それから更に3つのトマトを食べた美香さんは、満足そうにお腹を擦っている。
トマトを計4つで元気を出してくれたのなら、安い出費と言えるだろう。
「本当に美味しかったし、何より元気が出た! 本当にありがとうございました!」
「同じ異世界転移者ですし、これぐらいのことは気にしないでいいですよ。元気を出してくれたみたいで良かったです」
「私もお礼に何かしたいな。……あっ、スライムが入り込んでる! とりあえずあれを討伐――」
「駄目です! あのスライムは私の従魔なので」
「従……魔? おじさんのペットってこと?」
「そういうことになりますね。懐いてくれていますので可愛いですよ」
「トマトの栽培にスライムをペットにしているって……一体何者?」
「ただの異世界転生に巻き込まれた一般人ですよ」
そう返答しつつ、私は美香さんをライムの下まで案内する。
ベルベットさんも気に入ってくれたし、美香さんも気に入ってくれるはず。
そんな思いからライムを触らせると……ひんやりぷよぷよとした触り心地にハマったようで、ベルベットさん同様に抱きついている。
流石は人たらしのライムだ。
「ぷよぷよしていて気持ちいいし、何だか可愛いかも!」
「悪いスライムではありませんので、ライムのことも可愛がってあげてください」
「へー、君はライムっていうんだね。好きな食べ物とかはあるの?」
「何でも食べるのでよく分からないんですよね。今のところ、料理をあげてもゴミをあげてもどれも同じ反応です」
「ふーん。ねね、色々あげてみていい?」
「ええ。ライムが嫌がらなければ大丈夫ですよ」
許可を出すと、美香さんは背負っていたリュックから色々と取り出してライムに食べさせ始めた。
私はそんな光景を横目に、農作業を行うことにする。
シーラさんがいないため、いつもよりも頑張らないといけない。
本当は美香さんにも手伝ってもらいたいところだけど、落ち込んでここに来た人には流石に手伝えとは言えないからな。
それから、ライムと美香さんが戯れている声をBGM代わりに作業を行うこと一時間。
この間、ライムに色々とあげていた美香さんだったが……急に何か驚いたような声を上げた。
「ねぇおじさん! ライムが変になっちゃった!」
私はその言葉に反応し、すぐにライムの様子を見に行くと……確かに変な風になっている。
体の中心部分にある核が光り輝いており、更にいつもはまん丸な体が波打っているのだ。
「美香さん、一体何をしたんですか?」
「魔物が落とす魔力塊が一番食いつきが良かったから、手元にある分をとにかく上げてたら……急に光り出しちゃった。私、変なことしちゃったかな」
「私も初めて見るので分からないです。でも、魔力塊ですか……」
なんとなくだけど、死んでしまうとかではない気がする。
不安そうな美香さんと共に、光り輝いているライムを見守っていると、5分ぐらいで核の輝きが収まり始めた。
そして、さっきよりも体の色が黒くなっている気がする。
魔力塊を食べたことで、体に変化が起きたのだろうか。
「ライム、大丈夫ですか?」
私が声を掛けると、ライムはいつもと同じようにぽよんぽよんと跳ね始めた。
何ならいつもよりも元気そうだし、色以外には特に変化がないような気がする。
「体の色が変わった? 魔力塊を上げすぎて変になっちゃったのかな?」
「分からないですが……とりあえずシーラさんが戻ってくるまでは、もう何も与えないでくださいね」
「分かった。ライム、もう食べるの駄目だって」
ライムはおねだりするように美香さんの足元にくっついているが、流石にもうあげられない。
一体何が起こったのかを後でシーラさんに聞くとして、ひとまずライムは大丈夫そうだし私は再び作業に戻るとしようか。
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