第285話 水田作り
模擬戦大会が終わり、ダークエルフを迎え入れたこともあり、あっという間に春が終わってしまった。
過ごしやすい気候のうちに遠出でもしたかったんだけど……忙しすぎて、そんな時間は一切なかったなぁ。
そろそろ少し長めの休暇を取りたいところだけど、水田作りが待っているからね。
さらに、春の期間で溜まったNPの使い道についても決めたいし、長期休暇が取れるのはもう少し先になりそうだ。
人が増えれば楽になると思っていたけど、現状ではまったく逆の印象。
今のところスローライフ感が薄れつつあるのが気がかりだけど、それ以上に毎日が楽しいからなぁ。
ここが踏ん張りどころだと思って、夏も全力で頑張りつつ、イベントも開催して活気づけていきたい。
自分で自分に気合を入れてから、まずは夏の作物の種・苗植えから始めていく。
夏の第1日目ということもあり、基本の農作業は午前中で終了。
ここからは水田を作るため、私が選んだメンバーに集まってもらった。
「これからここに田んぼを作っていきたいと思います。前々から説明していたと思いますが、大まかな形状は把握できていますか?」
「マスター、バッチリです。水の張った畑というイメージで大丈夫ですよね?」
「はい。そのイメージで大丈夫です。それでは、早速作っていきましょうか」
私が水田の大きさを決め、そこをヘレナとモージが一気に耕し始める。
水を張れるように深めに掘ってもらい、水が下に漏れていかないよう、私とスレッド、そしてライムで押し固めていく。
特に体を硬質化させたライムは大活躍で、人力だけでは1週間以上かかりそうな工程を、あっという間に終えることができた。
事前に説明しておいたことも功を奏し、ここまでは順調に水田作りが進んでいる。
「これで大まかな田んぼは完成です。ただ、ここからが大変な作業になりますので、二手に分かれて作業していきましょう」
「私とモージはシーラの指示に従って、水路作りを行っていきます」
「こちらはスレッド、ライム、それからマッシュにも手伝ってもらい、あぜを作っていきますね」
ということで、私たちは二手に分かれて作業を行っていく。
水が漏れ出さないようにするためのあぜ作りは、かなり慎重にやらなければならない。
普通の畑が近い位置にあるため、水が漏れ出たら普通の畑に影響が出てしまうからね。
時間は気にせず、みんなでゆっくりとあぜを作り、しっかりと押し固めていく。
作業自体はかなり地味で、かつ力も必要だ。
疲労を感じないアンデッドのスレッドが大きな役割を担ってくれており、ひたすらスコップで押し固めてくれている。
そこから1週間ほどは、朝に農作業を行い、その後に水田作りを進める日々。
途中、ブリタニーさんやルーアさんが手伝いに来てくれ、最後にはドレイクさんを含む龍人族の協力もあり、ようやくあぜが完成した。
想像以上に大変だったけど、ここまでは完璧な水田になっている。
あとは、シーラさんたちが作ってくれた水路から水が流れるかどうかを試すだけ。
無事に流れてくれれば水田の完成となり、時期的には少し遅いけど、田植えも行う予定だ。
田植えについても色々と悩んだ。
水田をかなり広く作ったこともあり、機械で一気に田植えをしたい気持ちもあるけど……今回は手で植えるしかないと思う。
ドロドロになるのは確実だけど、今はそれよりも、ちゃんと水が張るかどうかが最重要。
「ふぅー、中々に緊張の瞬間ですね。ちゃんと本に書かれていた通りに作りましたので、きっと水が流れていくと思うのですが……やはり怖いです」
「私もシーラさんと同じ感想です。あぜがちゃんと機能してくれることを祈るばかりです」
水が通らないのであれば、まだ手の打ちようはある。
ただ、あぜが崩れて水が流れ出てしまったら取り返しがつかない。
もちろん入念に確認はしてあるので大丈夫だとは思うけど……怖いものは怖い。
ドキドキしながら、川から引いた水が水路を通って田んぼに流れていくのを見守る。
水路はしっかり機能しており、流れ出た水は無事に田んぼへと注がれていった。
あぜもしっかりと役割を果たし、水をきちんとせき止めてくれている。
「おおー! ちゃんと水田になっていますね! この状態じゃないと作れない作物があるということですよね?」
「はい。異世界料理のベースになっているお米は、この水田でないと育たないんです。もう少し水が張るのを待ってから、さっそく苗を植えていきたいと思います」
「水田に苗を植えるんですか……。ドロドロになりそうですね」
「上手くやれば、足と腕だけが泥で汚れるだけで済みますよ。ただ、バランスを崩して転んでしまうと大変なので、くれぐれも気をつけてください」
泥濘で足を取られるし、中腰での作業になるため、疲労が溜まってバランスを崩しやすくなる。
泥の汚れはなかなか取れないから、転ばないようにだけは十分注意してもらいたい。
そして、水がしっかり張るのを待った後、全員で田植えを行った。
田植えは大変なイメージしかなかったけど、久しぶりの田植えは意外にも面白く、多くの人が手伝ってくれたこともあり、あっという間に水田一面に苗を植えることができたのだった。