第280話 アスと山遊び
宿の相談をした日から1週間が経過した。
この1週間は農作業をこなしながら果樹園作りの準備も進めており、かなりハードな日々を過ごしていた。
来週には移住希望のダークエルフたちがやって来るため、今週も頑張らなくてはいけないのだが……。
そんな今朝、ミラグロスさんに連れられてアス君が遊びに来たのだ。
ここまで来るには相当量の魔力が必要であり、模擬戦大会もあったことから「すぐに遊びに来る」と言っていたアス君も、なかなか来られずにいた。
期間が空いてしまったぶん、今日のアス君の気合いの入りようは一目で分かるほどだった。
「佐藤さん、遊びに来たよ!」
「アス君、お久しぶりです。ミラグロスさんも、模擬戦大会以来ですね」
「うん。今回はまだ来る予定じゃなかったけど、アスがどうしても行きたいって言うから連れてきちゃった。……大丈夫だった?」
「もちろんです。いつでも大歓迎ですよ」
「わーい! 僕、佐藤さんといっぱい遊びたい!」
「アス、佐藤さんに迷惑をかけちゃ駄目だから」
跳びはねて喜ぶアス君を見て、思わずほっこりした気持ちになる。
今日は果樹園の準備をする予定だったけど、これだけ楽しみにして来てくれたのだから、アス君と遊ばないという選択肢はない。
果樹園の準備は、ダークエルフの皆さんが来てからでも何とかなるだろう。
「お昼過ぎまで仕事をしなくてはいけないのですが、終わり次第遊びましょう」
「うん! お仕事が終わるまでは待ってる!」
「外にライムというスライムの従魔がいまして、一緒に遊んでくれると思いますよ」
「スライムの従魔? 佐藤さんは魔物を飼っているの?」
「飼っているというより仲間ですね。お友達です」
「そうなんだ! 一緒に遊んでくれるか聞いてくる!」
非常に飲み込みの早いアス君は、勢いよく外へ飛び出しライムに会いに行った。
ジョエル君やハリー君も幼いと思っていたけれど、アス君は完全な子供。
その行動や言動は、いちいち可愛らしくて癒されてしまう。
「佐藤さん、ごめんね。アスが迷惑をかけると思う」
「迷惑だなんて思っていませんので大丈夫ですよ。ミラグロスさんはどうされますか?」
「何をしでかすか分からないから一緒に残る。私は農作業を手伝うから安心して」
「ありがとうございます。助かります」
人手が増えるのは本当にありがたい。
私はやる気を見せてくれているミラグロスさんと共に外へ出て、アス君と早く遊ぶため、いつも以上に気合いを入れて農作業に取り組んだ。
いつもより気合いを入れたことや、ミラグロスさんの手伝いもあって、夕方前には農作業を終えることができた。
その間、アス君はというと、ライムやライムの友達のスライムたちと遊んでおり、鬼ごっこや戦いごっこをした後、ついさっきまで一緒にお昼寝をしていたようだった。
お昼休憩のときに見たときには、すでに遊び疲れている様子だったけど、お昼寝によって回復したのか、朝よりも元気になっている。
子供の回復力に加えて、ライムには治癒力を高める力があるから、一気に回復したのだろう。
「佐藤さん、お仕事終わったの?」
「はい。終わったので、今から夜まで遊べますよ」
「やったー! ねえねえ、何するの!?」
「すぐにできることと言えば、ゲームか裏山で川遊びですかね? アス君は何がやりたいですか?」
「えー! えーとね……両方やりたい!」
大ジャンプしながら全部やりたい!と言ってきたアス君だけど……さすがに両方は難しいかなぁ。
とりあえず裏山に行って、お風呂に入ってご飯を食べた後にゲーム、という流れで進めるのが無難だろう。
「それでは、まず裏山に行きましょうか。他の人も呼んできますね」
「わーい! 僕はライムを呼んでくる!」
二手に分かれ、私はシーラさんに護衛を依頼。
二つ返事で了承してくれたほか、ミラグロスさんも「アス君のお守りとしてついていく」と言ってくれた。
アス君はというと、ライムの上に乗って登場。まるでスライムナイトのような姿だ。
その後ろにはマッシュもおり、どうやらマッシュも裏山に行きたいようだった。
「それでは裏山に行きましょうか。今回の目標は食糧調達にしましょう。食べられるものを見つけて、夜ご飯の材料を集めますよ」
「すごく面白そう! ここの裏山には食べられるものがあるの!?」
「たくさんありますよ。ただし、毒を持っているものも多いので、勝手に食べるのは禁止です」
「はーい! 冒険みたいでワクワクする!」
ウキウキのアス君を乗せたライムが先導し、私たちはその後に続く。
ルートとしては、山道でキノコ類や木の実、山菜を採りながら、小川まで行って魚捕り。
まだ水は冷たい上に、魚が捕れるかは微妙だが、捕るつもりでいることが何より楽しい。
私も子供の頃は無人島生活に憧れていたし、きっとアス君もワクワクしてくれているはず。
このウキウキした様子が、私に気を使ってのものではないことを祈りつつ、私たちは裏山へと足を踏み入れていったのだった。





