第275話 攻撃のバリエーション
吹っ飛ばされた位置から動かず、ライムの出方を窺っている美香さん。
常にゴリゴリに押しまくっていた美香さんが、今大会で初めて見せた様子見の姿勢。
試合が硬直するかと思ったけど、ライムは堂々と分身すると、一気に攻めに転じた。
透明化は使わず、あえて堂々と攻撃するスタイル。
ただし、すべての分身がノーモーション攻撃であり、攻撃を読み切れない美香さんは、避けるしか選択肢がない。
こうして改めてライムの攻撃を見てみると、ノーモーション攻撃は溜め攻撃に比べて、かなり動きが遅い。
メリットしかないと思っていたけど、明確なデメリットもあり、動きに慣れられてしまえば反撃を食らってしまいそうな速度感。
美香さんもすぐにその事実に気づいたようで、いつもの明るい様子からは想像もつかないほど、恐ろしい目つきでライムを観察している。
複数の金色のライムが連続して襲いかかっているのに、的確に避け続けている美香さん。
十数秒ほどで早くも見切り始めたのか、避ける動作が徐々に小さくなってきている。
このままでは完全に攻撃を見切られてしまう。
そう思い始めたタイミングで、なぜか美香さんの体がくの字に曲がった。
「クリーンヒット! 1-0でライム!」
レフェリーのコールによって、ライムの攻撃が命中していたことが分かった。
ただ、何がどうなって攻撃を食らったのかは私には分からない。
見切り始めたタイミングでの被弾。
美香さんも困惑した表情を見せる中、ライムはさらに分身の数を増やし、猛攻に転じた。
分身の数が増えたことで、ようやくライムの行動の意図が見えてきた。
ノーモーションで攻撃する分身と、溜めてから攻撃する分身に分かれており、視覚外からの溜め攻撃による高速アタックで、美香さんはクリーンヒットを受けてしまったようだ。
緩急を巧みに使い分けており、客観的に見ているからこそ理解できるが、美香さん視点では混乱の極みだろう。
さらにもう1発、背後からライムの突撃を受けてしまい、これで2-0。
美香さんは追い詰められる形になったが、どうやら今の攻撃でようやく「溜め攻撃をしている分身」の存在に気づいたようだ。
ここから美香さんの動きはガラリと変わり、ノーモーションの攻撃は避けつつ、溜め攻撃にはカウンターを合わせる動きに。
追い込まれたことで研ぎ澄まされたのか、背後からの高速攻撃に完璧なカウンターを合わせ、ここで美香さんが1本返した。
今の一撃を返されたとなると、今度はライムが溜め攻撃を行いづらくなるはず。
ただ、ノーモーションによる連続攻撃も見切られていることから、溜め攻撃をやめた瞬間に美香さんの猛攻が始まるのは目に見えている。
追い込んだはずが、いつの間にか追い込まれているライム。
どう対策するのか注視していたが、ライムは特に気にする様子も見せず、先ほどまでの攻撃を繰り返している。
カウンターはたまたまだと判断したのかは分からないが、これはあまりにも無策だと、素人ながらに思ってしまう。
そして、試合を見ていた観客全員が察した通り、背後からのライムの攻撃に再びカウンターを合わせた美香さん。
ライムの分身体が情けなく宙を舞い、これで2-2の引き分け。
流れは完全に美香さんに傾いており、勝負あったと思ったその瞬間――。
またしても、なぜか美香さんの体がくの字に曲がった。
レフェリーも何が起こったのか分かっていなかったようで、少しの静寂が流れた後……。
「勝負あり! 3-2で勝者ライム! よって、第3回模擬戦大会の優勝者はライム!」
私を含む観客全員が何が何だか分かっていなかったが、とりあえず優勝者の名前が聞こえたため大歓声を送る。
何が起こったのかは分からないけど、去年の雪辱を果たしたライムが初優勝。
ライムは最弱の称号を覆し続け、とうとう頂点にまで上り詰めた。
強いだけじゃなく可愛いし、まさに最強の存在だと思う。
「くあー! ライム、つっよー! 悔しいけど完敗だ!」
美香さんはゴロンと仰向けに倒れ、悔しさを吐露している。
何があったのかは後で尋ねるとして、まずは表彰式から。
「決勝戦が終わって間もないが、時間も限られているから表彰式に移らせてもらう! ベスト4の4名は前に出てきてくれ!」
サムさんに呼ばれたローゼさん、マージスさん、美香さん、ライムの4名。
ライムはいつにも増してツヤツヤピカピカで、表情はないけどドヤっているのが伝わってきて面白い。
「まずはこの4名に大きな拍手をお願いしたい! 表彰台入り、おめでとう!」
大きな拍手とともに、ローゼさんから賞金と賞品が渡されていく。
ベスト4でもそれなりの賞金と賞品を用意していたため、きっと喜んでくれるはずだ。
「そして、優勝者のライムには優勝トロフィーの授与! さらに、賞金の白金貨50枚と優勝賞品が佐藤から渡される!」
「えー! 今回から優勝トロフィーあったのー! いいなぁー!」
隣で美香さんが羨ましがる中、私は前に出てライムに優勝賞品を渡した。
そして、今回の優勝賞品はスマートフォン。
異世界には電波がないため、機能としては半減以下もいいところだけど、それでも便利なグッズ。
ただ、ライムには必要ない可能性が高いため、何かしらライムにとって良い品と物々交換してほしい。
「ライム、おめでとうございます! そして、私なんかの従魔になってくれてありがとうございます! ライムは誇りです!」
私がそう伝えると、ライムは勢いよく飛びついてきた。
強いけど可愛いライムに癒されながら、大盛況のうちに表彰式は終わったのだった。





