第269話 激熱カード
1回戦は順当に進んでいき、とうとう最終戦。
対戦カードはドニーさん対シーラさんという激熱カード。
ドニーさんの横をシーラさんがすぐに決めたことで決まったカードであり、シーラさんが望んで組んだカードでもある。
私的には優勝候補の対戦なんだけど、これまでの対戦はドニーさんが1敗したのみ。
それも、コンタクトレンズをつけていなかった状態で負けただけで、目が良くなった状態ではシーラさんに1度も負けていない。
それも相性の良し悪しではなく、実力差での負けのため、勝敗予想はドニーさんに軍配が上がってしまう。
「1回戦最終試合。ドニー対シーラを始める! 両者位置についてくれ!」
「シーラとは意外にも久しぶりの対戦だな。知っているとは思うが、女子供であろうと俺は容赦しないぞ」
「知っていますし、手加減されて勝っても嬉しくありません。本気で来てください。返り討ちにします」
バッチバチに睨み合っており、試合開始前から火花が散っている。
見ているこっちが緊張してしまうけど、ここはシーラさん全力応援。
「それでは――試合始め!」
試合開始の合図と共に、両者一斉に動き出した。
スピードはシーラさんの方が速いけど、体格差が圧倒的。
2人が振り下ろした剣がぶつかり、シーラさんが吹っ飛ぶ――イメージをしてしまったんだけど、吹っ飛んだのはまさかのドニーさんの方だった。
40センチ近く身長差がある中、シーラさんがドニーさんをぶっ飛ばしたことで会場がドッと湧く。
ドニーさんも吹っ飛ばされることを想定していなかった表情を見せたことで、私もつい体に力が入り、シーラさんへの声援を飛ばしてしまった中……。
シーラさんだけは想定内だったようで、冷静に次の一手に動いていた。
ドニーさんが体勢を立て直す前に、次の攻撃へと移行。
バランスを崩されながらも、シーラさんの攻撃に対応していたが、次の攻撃も物凄い威力だったようで、ドニーさんは回転しながら地面を転がされた。
体勢を崩していたところへの攻撃だったとはいえ、明らかにシーラさんの攻撃の威力がおかしい。
その異常な攻撃力の高さについて考える間もなく、地面を転げ回ったドニーさんに対して追撃に向かった。
完全に倒れているドニーさんに上から容赦なく攻め立て、何とか回避しようとしていたドニーさんだが、腕に鋭い一撃を浴びてしまった。
その一撃でこの状態からの打開は不可能と察したようで、攻撃を食らってしまうのを覚悟で無理やり立ち上がった。
何とか起き上がりはしたものの、攻撃を2発食らった状態であり、ドニーさんは絶体絶命。
ジャイアントキリングが見たいシーラさんへの応援と、ドニーさんを優勝予想している人からのドニーさん応援で中々にカオスな状況になっている。
ここでシーラさんが満身をし、ドニーさんを舐めてかかりでもすれば逆転のチャンスは十分にあるけど、シーラさんはそういったタイプではない。
1本も取られてはいけないドニーさんが、守備重視のカウンター狙いに切り替えたことを察すると、トドメを刺しにいくことはせず、シーラさんも距離をとって試合に動きがなくなった。
試合時間は3分であり、このまま試合終了となれば負けるのはドニーさん。
つまり、動かなくてはいけないのはドニーさんの方で、大きな舌打ちと共に攻撃へと転じた。
シーラさんはこのままの逃げ切りを狙っているのかと思うほどの守り。
そんな強固な守りを崩そうと、ドニーさんが出力を上げたことで、鋭い袈裟斬りがシーラさんの右肩を捉えた。
――が、左手一本での突きがドニーさんの腹部を捉えており、これでシーラさんの勝ちが決まった。
まさかの番狂わせに、今日1番の歓声が上がる。
「そこまで! 3ー1で勝者シーラ!」
「はぁー……。やっと勝てました。ドニーさん、ありがとうございました」
「くっそ、完璧にやられた。俺を指名してきたのは作戦を立てていたからか」
「はい。ずっと戦いたいと思っていたので、借りを返すことができて良かったです」
「1回戦負けは流石に想定していなかったから悔しすぎる。ここの連中は本当に厄介極まりないやつばっかだ」
「ふふ、お褒めの言葉ありがとうございます」
「褒めてねぇよ。2回戦も勝てたらいいな」
「はい。全力で頑張ります」
2人は握手を交わし、シーラさんは笑顔で私のところにやってきた。
褒めてほしそうな表情をしており、私は間を置くことなく褒めちぎる。
「凄い一戦でした! ドニーさんに完勝って凄いですね!」
「佐藤さん、ありがとうございます。完勝ってわけではないんですけど、何とか勝つことができました」
「すぐに休みたいと思うんですが、1つだけ聞いてもいいですか?」
「もちろんです。何でも聞いてください。佐藤さんの質問になら何でも答えますよ」
そう言ってくれたし、気になったことを全て聞こうかとも一瞬悩んだけど、時間を取らせるのは申し訳ない。
ということで、予定通り1つだけ尋ねることにした。
「最初の一撃。ドニーさんと正面から斬り合って吹っ飛ばしてましたが、どうやって吹っ飛ばしたんですか?」
「ああ、あれはですね……スキルを使ったのと、本気で斬りかかったんです」
「本気で斬りかかる? いつもは本気ではなかったということでしょうか?」
「攻撃を行う時は、常に相手の出も窺うのが普通なんです。それは私だけでなく、ドニーさんや他の参加者も同じですね」
うーん……攻撃をする時でも、相手を警戒しなくてはいけないということだろうか?
当たり前のようで、あまり考えたことがなかったかもしれない。
「先の展開を考えるということですか?」
「そうですね。だから、全力で斬り掛かっているといっても、60%くらいしか使えないんです。そこを今回は100%で、それもドニーさんの動きを何も考えずに斬り掛かったって感じですね」
「なるほど。それで、ドニーさんに力勝ちした――と」
「はい。ドニーさんにすかされていたら、多分一瞬で私が負けていたと思います。ですので、完勝のように見えたかもしれませんが、ギリギリの戦いだったというわけです」
説明を聞いたことで、ようやくシーラさんが何をやったのか理解することができた。
初っ端から捨て身の攻撃をしたことで掴んだ勝利。
そう考えると、更に褒め称えたくなってしまうけど……まだ油断はしてほしくない。
褒める言葉をグッと呑み込み、私は労いの言葉をかけながらシーラさんを選手控え室へと送ったのだった。





