第267話 談笑
最初に出会ったのはフリースさん。
ひたすらお肉を食べており、近づいた私に気づかないほど夢中になっている。
「フリースさん、お久しぶりです。今回の模擬戦大会に参加してくれていたんですね」
「――んあ? 佐藤さんか。ここで大会が開かれると聞いて、参加せずにはいられなかったよ。この間の雪辱を果たさないといけないからねえ」
「明日の本戦ではドニーさんも出場しますので、勝ち上がって雪辱を果たせるように頑張ってください」
「佐藤さんも、ドニーから聞いていたんだねえ。なんか上から目線って感じで、ちょっと嫌な感じだよ。でも、食事が美味しすぎて、細かいことがどうでもよくなっちゃってるねえ」
「ご飯を喜んでもらえたみたいで良かったです。たくさんありますので、遠慮なく食べていってください」
「そうさせてもらうよ。ありがとねえ」
頬をパンパンに膨らませながら、食事を楽しんでいるフリースさん。
見下しているつもりはないけど、今日の試合を見る限りでは、ライムには勝てないと思ってしまう。
前回よりも仕上げているようではあったけど、ライムはさらに進化を遂げているからね。
ただ、勝負ごとはやってみないと分からない。
再戦が実現するのかどうかも楽しみにしよう。
続いてやってきたのは、シャノンさんのところ。
一言連絡をくれれば良かったのにと思ったが、改めて考えると、シャノンさんは私がここに住んでいることを知らない。
たまたま参加した模擬戦大会の主催者が私で、シャノンさんの方が驚いているだろう。
「シャノンさん、お久しぶりです。まさかここで会うとは思っていませんでした」
「あっ、佐藤さん! 私のこと、覚えてくれていたんですか? お店じゃありませんし、てっきり分からないかと思っていました!」
「よくしてもらったので覚えていますよ。今回は参加していただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ! 久しぶりに体を動かせて楽しいですし、何より食事が美味しすぎます! こんな素晴らしい場所で暮らしていたんですね」
そう言うシャノンさんのお皿には、大量のデザートが並べられていた。
序盤からデザートにいっているところを見ると、やはり女性は甘いものに目がないようだ。
「はい。何もない場所ですが、自然が多くていいところです。シャノンさんもよろしければ、今回の大会に関係なく、いつでも遊びに来てください」
「いいんですか? そう言ってくださるなら、お店が休みの日はたまに遊びに来させていただきます!」
「ええ、お待ちしております。それでは明日も頑張ってください。応援しています」
「ありがとうございます! 楽しませていただきます!」
シャノンさんは弾けるような笑顔を見せてくれた。
模擬戦大会は魔法職が不利だけど、シャノンさんの戦い方なら良いところまで行けそうな感じがある。
大会に関係なく遊びに来てくれると言ってくれたのも嬉しいけど、まずは明日の大会だろう。
良い結果を残せるように、私も応援させてもらおう。
デザートエリアを後にし、最後にハリー君のところにやってきた。
声をかけた中では唯一面識がないが、最年少ということで浮いてしまっている。
私も声をかけたいと思っていたし、話しかけるにはちょうどいいタイミング。
「ハリー君……で合っていますよね?」
「あっ、主催者の方ですが? わ、わ、わ、俺なんがに話しかけてくれで、ありがとうございまず」
「試合を見て、一番印象に残った方だったので、つい声をかけてしまいました。まずは予選突破、おめでとうございます」
「見ででくれだんですね! 主催者さんにそう言ってもらえて、良がっただぁ! それに、こんなに美味しい食べ物も食べさせでもらって、本当に感謝しかないだぁ!」
かなりの訛り方であり、もしかしたら遠いところから来てくれたのかもしれない。
この訛りも含めて、非常に初々しく感じられる。
「参加してくれたことへの感謝の方が大きいです。ハリー君はどこから来たんですか?」
「俺はマーブ村っていうところからやっでぎました! 村の中では一番強くて、村に来てくれる行商人の方がら、この大会のことを教えでもらっだんです!」
「そうだったんですね。村の中で一番強いんですか……。道理でフリースさんとも良い勝負をしていたわけですね」
「フリースさんは強がっただぁ。あんなに強い人と戦ったのは初めでで、あの人と戦えだだけでも、ここまで来た甲斐がありましだ!」
「そう思ってくれたなら、模擬戦大会を開催して良かったと思えます。明日はハリー君と同い年くらいの子も出てきますので、いろいろな刺激を受けていってください」
「同い年!? それは楽しみですねえ!」
オドオドしていたハリー君の目に、火がついたように感じられた。
こうなってくると、ハリー君対ジョエル君が見たくなってくる。
実力的にはどっこいどっこいだと思うし、2人にとって良い刺激になることは間違いない。
ただ、トーナメントは完全ランダムで行われるため、巡り合えるかは運次第。
明日の本戦が楽しみになってきたところで、私は一足先に食事を終え、先にお風呂に入りに行くことにしたのだった。





