第266話 第3回模擬戦大会
試合は順調に進んでいき、白熱した予選が繰り広げられている。
5勝が予選突破のボーダーラインの中、10組中8組が最多勝が6勝という接戦だった。
ただ、A組とG組は1位が全勝という抜きん出た力を見せており、そのうちの1人が、以前ここに遊びに来たフリースさん。
変わった方ではあるけれど、実力は本物のようでギリギリの試合はありつつも全勝。
何でもドニーさんの古くからの友人らしく、予選突破は固いと思っていた。
まぁ、ここまで圧勝するとは思っていなかったけどね。
そして、もう1人の全勝者は意外な人物。
その人物とは、ランゾーレの街で魔法屋を営んでいるシャノンさん。
私が誘ったわけではないが、噂を聞きつけて参加してくれたらしい。
本人は記念参加と言っていたけど、魔術学校を主席で卒業した実力は本物であり、魔法を駆使して有利に戦う姿は圧巻の一言。
近接戦でも引けを取らなかったし、本当になぜ魔法屋さんなのか分からなくなるほど強い。
この2人は間違いなく、明日の本戦でも暴れてくれるはずだ。
予選で特に強いと感じたのはこの2人だったが、私にはもう1人、気になる選手がいる。
予選の結果は5勝2敗で、直接対決の結果によって、何とかA組2位になった人物。
その人物は、ジョエル君と同い年くらいの男の子で、名前はハリー君。
最終予選の初戦は、ガチガチに緊張していて何もできずに敗北。
そこからはギリギリながらも勝ちを重ね、緊張も完全に解けた最終戦で、全勝中だったフリースさんと戦うことになった。
結果はフリースさんの勝利で終わったが、試合内容はほぼ互角。
何ならハリー君の方が押していたようにも見えたし、年齢や今後の成長を考慮すると、ダークホースになるのではと予想している。
明日の本戦にはジョエル君も出場するし、若い2人の試合はぜひとも見てみたい。
そんな感想を抱いたところで、1日目の全日程が終了。
全てが予定通りに進み、円滑に運営してくれたサムさんには感謝しかない。
ここからは一時解散となり、予選通過者は仮設施設に宿泊してもらう流れとなっている。
地球の料理も用意してあるので、きっと喜んでもらえるはず。
また、大浴場も開放予定であり、先日女性用の大浴場も完成したため、今日の疲れを癒してもらえると思う。
大会の途中でリラックスさせすぎるのはどうかとも思ったけど、せっかく参加してくれて、厳しい予選を勝ち抜いたのだから、精一杯もてなしてあげたい。
サムさんたちにも、おもてなしをしたかったしね。
「1日目お疲れさまでした。厳しい戦いだったと思いますが、明日が本番ですので、しっかりと疲れを癒してください。少し早めですが、18時からイベントホールにてお食事をご用意しております。食後には大浴場も開放いたしますので、ぜひご利用ください」
私は最後の挨拶だけ済ませて、すぐに台所へ戻り、夜ごはんの準備に取りかかる。
ジョエルさん、ジョエルさんのお弟子さん、ヤコブさんが料理を頑張ってくれていたため、私は完成した料理の味付けと運搬係を担当する。
別荘の台所も手狭になってきたし、大きな調理場が欲しいなぁ。
イベントホールまでの距離も微妙に遠いため、料理を運びながらそんなことを考えつつ、私は全ての料理をイベントホールに運び込んだ。
立食形式にはなってしまうけど、料理の量は十分に用意したし、お腹いっぱいになるまで食べてもらえると思う。
質については言うまでもないため、みんなの反応が楽しみだ。
予定時刻前には全員が集まったみんなに、ビュッフェ形式で料理を取ってもらい、食前の挨拶を行う。
美味しそうな匂いや見た目に気を取られて、皆の心ここにあらずといった様子のため、手短に挨拶を済ませる。
「遠慮なく食べてください。それでは、いただきましょう」
私の言葉のあと、それぞれが食前の挨拶をして、一斉に食事が始まった。
一口で美味しさを実感できたようで、もれなく全員、食べる速度が尋常ではない。
「……この料理は何なのだ? 流石に美味しすぎる! 佐藤さん、これってこの場所で作られた食材なのか?」
「サムさんのお口に合って良かったです。全てではありませんが、大半はここの畑で採れた作物を使用しています」
「とんでもない食材を育てているのだな! 佐藤のコネクションの多さは、異世界人というだけではなさそうだね。この場所には見たことのないものもたくさんあったし、仕事をもらえて本当に良かったよ」
「それはこちらのセリフです。サムさんに引き受けていただけて、本当に助かりました。食後には大浴場も開放予定ですので、ぜひ利用してみてください。きっとご満足いただけると思います」
「佐藤さんがそう言うなら、間違いないんだろうな。ふふ、絶対に利用させてもらうよ」
興奮気味のサムさんと握手を交わし、彼女はすぐにおかわりを取りに行った。
あとは……フリースさん、シャノンさん、ハリー君とも話がしたい。
私も料理を楽しみながら、3人を探してイベントホールを歩くことにした。





