第265話 快適
その後の話の通り、一度下見にやってきて、模擬戦大会の3日前から泊まり込みで準備に取りかかってくれた。
この時期は毎回バタバタしていたけど、すべてサムさんのチームが行ってくれるため、私の仕事はお茶を出すだけ。
無償にもかかわらず相当な人数を割いてくれており、王都でも今回の模擬戦大会の告知まで打ってくれていると話していた。
準備だけでもありがたいのに、運営まで行ってくれるのだから頭が上がらない。
「――よし。バッチリだね。あとは明日、明後日と模擬戦大会を運営するだけだ。きっちりと進行するから期待していてほしい」
「ありがとうございます。設営を見させていただきましたが、素晴らしい仕事で頭が上がりません。一番大きなイベントは模擬戦大会ですが、ここでは定期的にイベントを行っていますので、今後もサムさんにお任せしたいと思っています」
「ふふふ。私としては嬉しいけど、さすがに気が早すぎると思うよ。これからのことは、無事に模擬戦大会が終わってからにしよう」
「……ですね。それでは、明日からの2日間もよろしくお願いします」
「ああ。引き続き、よろしく頼むよ」
ここから大失敗しようが、私は今後もサムさんに頼むつもりだけど、サムさんとしてはまず目の前の仕事をこなしてからということなのだろう。
私は大会に参加もしないため、明日からの模擬戦大会を一人の観客として楽しむことができる。
気が楽どころか楽しみであり、ワクワクしながら就寝したのだった。
翌日の早朝。
模擬戦大会の当日であろうと農作業は行わなくてはいけないため、私はいつもよりも早く起きたのだけど……何やらすでに外が騒がしい。
窓から外の様子を窺ってみると、王都の方から人がやってきているのが見えた。
まだ人数は少ないけど、この時間帯から集まり始めているのは異常であり、ここからどれだけの人が集まるのか想像もつかない。
サムさんの要望で、1日目に勝ち残った人が宿泊できる仮施設は建ててあるが、一般客も宿泊できる施設を建てるべきだったかもしれない。
王都からはまだ近いとはいえ、それでも約10キロほど離れているからね。
ここに宿泊施設があれば、有料でも泊まってくれる人はいるだろうし、来てくれた人のためにも作るべきだったなぁ。
今さら考えても仕方がないけど、今後サムさんにイベントの運営を頼むのならば、簡易的なものでも宿泊施設を用意しよう。
次々にやってくる人たちを見て、私はそう決めたのだった。
「佐藤さん、おはようございます。朝から人が来ていますね。参加者の方でしょうか?」
「シーラさん、おはようございます。窓から見たんですけど、服装的に参加者の方だと思います」
「去年も規模が大きくなったと感じましたが、今年はさらにレベルアップしていますね。本来なら私たちが受付や案内をしないといけないところですが、こうしてゆっくりできているのがありがたいです」
「そこは心の底から同意ですね。設営の段階から感じていましたが、サムさんにお願いして本当に良かったです」
モーニングコーヒーを飲みながら、そんな感想を語り合う。
今回は無償で引き受けてくれているし、本当に頭が上がらない。
今日、明日と美味しいご飯を用意する予定ではあるけど、それでも足りないくらいだよなぁ。
追加報酬を渡したいところだけど、サムさんは受け取ってくれない気がする。
そこが少しだけモヤモヤしつつも、とりあえず私は私の仕事を行う。
ということで、試合を観戦するために私は気合を入れて農作業を行った。
みんなも早朝から作業をしてくれたため、お昼過ぎにはすべての仕事が片付いた。
私たちが働いている間も、参加者は続々と集まっており、合計で200人近い人が集まった。
ただ、お昼過ぎの時点で、すでに200人近かった参加者の半数以上は脱落しており、せっかく足を運んでくれたのに帰る人も多数いた。
それでも、去年同様に脱落した人でも楽しめるイベントを用意しているため、残って観戦してくれている方もいる。
今回はサムさんへの費用を渡さなくてよいということもあり、全員参加型イベントの景品が非常に豪華になった。
こちらの世界のお金を大量に用意しつつ、NPを使って用意したお菓子や便利アイテムもある。
去年のお菓子は好評だったようで、昨年も参加してくれた人は皆残ってくれているのが嬉しい。
こうやってリピーターを増やしていき、もっと活気づいてくれたら嬉しいな。
そうこう考えているうちに、最終予選が始まるようだ。
現在残っているのは80人で、8人1組のグループが10組組まれた。
各グループの上位2人が、明日の本戦に進むことができるらしい。
200人も参加してくれたのに20人まで絞られるのは厳しいけど、本戦にすでに出場が決まっている人も多いからね。
前回大会の結果を見ても、これぐらい厳しくしないと勝負にならないため、こればかりは仕方がない。
去年のシルヴァさんのようなダークホースがいるのか、予選から試合を見るのが非常に楽しみだ。





