第264話 イベンター
農業に漫画関連、ミラグロスさんとの交易、製造、建築関連と、やらなくてはいけないことが山積みだけど、忙しくなればなるほど時間が過ぎるのは早くなる。
冬の期間があれほど暇だったのが、今では遠い昔のようで、つい現実から目を背けたくなるけど……目を背けても現実からは逃げられない。
春のこの時期といえば、恒例行事にもなっている模擬戦大会のシーズン。
去年は関係ない方まで巻き込んで開催したこともあってか、今年も開催されるのかという問い合わせがかなりの数寄せられている。
ドニーさんのところにも色々と話が行っているようで、少なく見積もっても前回大会の倍は参加者が集まるだろうと話していた。
前回の規模でもてんやわんやだったため、それ以上の規模での開催は絶対に不可能だ。
そのため、開催するにはイベントを執り仕切れるイベンターの存在が不可欠。
ということで、私はベルベットさん経由で王様に連絡を取ってもらい、腕利きのイベンターを紹介してもらうことにした。
王様からの紹介ということもあり、すぐにアポイントを取ることに成功。
期間も迫っているため、私はすぐに王都へ向かった。
指定されたのは、お洒落なカフェ。
今回は一人でやってきたこともあり、おじさんが一人でお洒落なカフェに入るのは少々抵抗があったけど、意を決して中に入ることにした。
店内は女性客ばかりで、腕利きのイベンターらしき人物は見当たらない。
とりあえずウェイトレスさんに事情を説明して、席で待たせてもらうことにしよう。
「いらっしゃいませ。お客様は……お一人様でしょうか?」
「はい、1人ですが、ここで待ち合わせをしていまして、後で合流する予定です」
「待ち合わせですね。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「私の名前は佐藤です」
「佐藤様ですね。お連れ様がすでにお待ちですので、席までご案内いたします」
「えっ……」
まだ来ていないと思っていたが、どうやら既に到着しているようだ。
困惑しつつも、ウェイトレスさんが案内を始めてしまったため、私は黙ってついていく。
案内された席に座っていたのは、奇抜なファッションをした綺麗な女性。
名前はサムと聞いていたため、てっきり男性かと思っていたが、どうやらイベンターは女性の方だったようだ。
「はじめまして。君が佐藤さんかな? 私の名前はサムだ。今回はよろしくお願いするよ」
挨拶の仕方もお洒落で、容姿の良さも相まって、少し気後れしそうになる。
私はそんな気持ちをグッと堪え、自己紹介を行った。
「サムさん、はじめまして。私は佐藤と申します。今回はお引き受けいただき、本当にありがとうございます」
「王様経由でいただいた仕事だからね。引き受けない選択肢はなかったさ。今後にも関わってくるだろうし、全力で取り組ませてもらうよ」
「心強いです。よろしくお願いいたします」
私はサムさんとしっかりと握手を交わし、席についた。
そして、おすすめのメニューを注文し、早速仕事の話へと移った。
「それで、佐藤くんは私に何をしてもらいたいのかな? 詳しく聞かずに引き受けたから、内容はあまり把握していないんだ」
「そうだったんですね。サムさんにお願いしたいのは、模擬戦大会の運営・進行です。去年までは私が担当していたのですが、年々規模が大きくなり、今年の規模ではとても対応しきれないと判断しました。それで、プロの方にお願いしようと思ったんです」
「なるほど。とりあえず、前回行った模擬戦大会の流れを教えてくれるかな」
私はサムさんに、昨年の模擬戦大会の概要を簡潔に説明した。
かなり端折って話したつもりだったが、サムさんはすぐに理解したようで、軽く手を叩いた。
「なるほど。それくらいの内容であれば、それなりの準備で開催できるね。ぜひ私に任せてくれ」
「そんなにあっさり引き受けてくれるんですか? 費用については、どれくらいをお考えでしょうか?」
「私の伝手を使えば対応できる範囲だから、今回は無償でやらせてもらうよ。その代わり、王様にはよろしく伝えておいてほしい。それと、仕事の内容が良ければ、今後も贔屓にしてくれると嬉しいな。もちろん、次からは報酬を頂くけどね」
爽やかな笑顔を見せながらそう言ってくれたサムさん。
自信に満ちあふれており、容姿だけでなく発言も格好いい。
「本当にいいんですか? なかなか大変なお仕事だと思いますし、それに見合った額はお支払いできますよ?」
「二言はないさ。開催場所を地図に書いてくれれば助かる。1日かけて下見をして、模擬戦大会の3日前に現地入りさせてもらうよ」
「……分かりました。それでは、今回はよろしくお願いいたします。こちらでも色々とおもてなしさせていただきますね」
「ふふ、それは楽しみだね。それでは仕事の話はここまで。佐藤さんのこと、いろいろ教えてもらってもいいかな?」
そこからは本当に仕事の話をすることなく、私自身について根掘り葉掘り聞かれた。
王様とのつながりが一番気になっていたようだが、私が異世界人であることを知るとすぐに納得。
そこからは地球のことについて、予定の時間ギリギリまで話し続けたのだった。





