第257話 心の扉
アス君はシーラさんに面倒を見てもらい、私はキッチンでパパッとスイーツを作る。
今回作るのは、焼きバナナ。
作り方は非常に簡単で、フライパンでバナナを焼くだけ。
バター、シナモン、砂糖で香り付けと味付けを行い、冷やしておいたバニラアイスを添えてチョコソースをかければ完成。
バナナにチョコをコーティングしただけのチョコバナナですら美味しいのだから、焼いて味付けしたバナナが不味いわけがない。
自信満々でアス君とシーラさんのところに戻り、さっそく食べることにした。
「これまた美味しそうなデザートですね! バナナとアイスですか?」
「はい。バナナは焼いてありますので、冷たいアイスと抜群に合うと思います」
「……すごく美味しそう! 全部食べていいの?」
「もちろんです。全部食べてください」
両手を合わせてから、作ったデザートを口に運ぶ。
焼いたことで甘みが増しており、シナモンの風味とカリッとした食感が最高。
チョコもマッチしており、そこに冷たいバニラアイスを頬張る。
……ふぅ、まさに至福のひととき。
「美味しい! 佐藤さん、これすごく美味しいよ!」
「本当に美味しいですね! バナナがこんなに美味しくなるなんて、佐藤さんは天才ですね!」
「喜んでもらえて良かったです。誰も取らないので、ゆっくり食べてください」
「うんまーい! 僕、ここに来て良かった!」
先ほどまでシュンとしていたアス君だったが、今では満面の笑みで喜んでくれている。
作った甲斐があったし、これで警戒も解いてくれるだろう。
ミラグロスさんが来るまでの間、ずっと気を張り続けていたら体がもたないし、少しでもリラックスしてくれたら嬉しい。
あとはアス君が遊んでいられるものを用意してあげたいけど、これくらいの年ならSwitchを貸してあげればいいだろう。
アス君がこちらに迷い込んでから、3日が経過した。
予定通り、アス君にはSwitchを貸しており、夕方までは娯楽室にこもってゲームをしている。
夕方以降は農作業を終えたシーラさんたちと一緒に、スマブラの対戦を行っているらしい。
すっかりこの場所にも慣れたようで、ホームシックになっている様子もなく、私としてもホッとしている。
そして、そんな3日目の夜。
私がノーマンさんと一緒に夜ご飯の支度をしていたところ、窓の外が光り輝いたのが見えた。
多分だけど、ワープゲートが開いた光であり、きっとミラグロスさんがやってきたんだと思う。
私は料理をノーマンさんに任せ、すぐにワープゲートへと向かった。
「ミラグロスさん、お久しぶりです。こっちにアス君が来ていますよ」
「佐藤さん、久しぶり。やっぱりこっちに来てたんだ……。貯めていた魔力がなくなったと同時にアスがいなくなったから、こっちに来てるとは思っていたけど……ひとまず見つかって良かった」
ミラグロスさんはホッとしたように、大きく息を吐いた。
アス君は魔族だし、私たち以外に見つかったら大変だもんね。
私とシーラさんが早起きしていたから良かったものの、気づかないまま変な場所に行ってしまっていたら危なかった。
そう考えると、割とギリギリだったのかもしれない。
「保護できて本当に良かったです。娯楽室にいますので、来てください」
「うん。ありがとう」
ミラグロスさんを連れて、娯楽室にやってきた。
中ではアス君とジョエル君が対戦しており、白熱しているようでミラグロスさんに気づく様子がない。
「アス。入っちゃダメって言ったところに入ったでしょ」
「――えっ! ミラグロスお姉ちゃん! なんでいるの!?」
「私も同じところから来た。みんな心配してるから、すぐに帰るよ」
「えー……。まだ帰りたくない」
アス君はSwitchのコントローラーを握ったまま、小さくそう呟いた。
この場所を気に入ってくれたのは嬉しいけど、さすがに帰らないとまずい。
「アス君、ここは一旦帰りましょう。アス君の家族も心配しているでしょうし、ここにはまた来ていいので」
「えっ! また来ていいの? ……なら、帰りたくないけど帰る」
「佐藤さん、ありがとう。いろいろな報告も兼ねて、またすぐに来る。それじゃ、来たばかりだけど帰るね」
ミラグロスさんはアス君の手を握ると、娯楽室を出ていった。
アス君は私たちに笑顔で手を振っており、私たちも手を振って、2人を見送ったのだった。





