第254話 お泊り
プレゼントももらえたことだし、もうエデルギウス山を後にしようと考えていたんだが……。
ヤトさんに呼び止められてしまった。
「流石にもう帰ってしまうのは寂しすぎるのじゃ! 父と母もまた会いたがっておったし、今日は泊まっていった方がいいのじゃ!」
「いやでも、明日の農作業に間に合わなくなってしま……」
「ドレイクとマージスは、このままとんぼ返りなんてできんじゃろ! 行きだけでもかなりの距離を飛行したじゃろうし、ましてや人を乗せてのことじゃからな!」
それは完全に一理ある。
私の都合で日帰りにしようと思っていたけど、ドレイクさんとマージスさんの負担を考えたら、さすがに日帰りは厳しいのか。
「ん? 俺もマージスも全然帰れ——」
「ドレイク、黙るのじゃ! 事故でも起こしたら責任は取れんじゃろ!」
「ないとは思うが……事故ったら大変ではあるな」
「ということじゃし、今日はここで寝泊まりするといいのじゃ! 佐藤もそう思うじゃろ?」
「ヤトさんが良いと言ってくれるのであれば、確かに一泊してから帰った方がいいかもしれません。ドレイクさんとマージスさんには負担をかけてしまっていますし、体を休めてから帰りましょう」
「わーい! 泊まりなのじゃ! すぐにアシュロスに報告してくる!」
ヤトさんはそう言うと、ダッシュで応接室から姿を消してしまった。
無理やり言いくるめられた感は否めないけど、休憩ありとはいえ、日帰りで往復20時間の飛行を強いるのはブラックもいいところ。
車の運転ですら大変なのに、空を飛ぶとなったら事故が起こるのが普通だからね。
そう考えると、良い提案をしてもらった。
「アシュロスから許可をもらえたのじゃ! 佐藤とシーラは2階の部屋を使っていいからの!」
「なら、俺とマージスは実家に帰らせてもらう。冬は結局帰省しなかったし、一日だけでも帰省を味わわせてもらうぜ!」
「了解しました。ドレイクさん、マージスさん。今日はありがとうございました」
私のお礼に片手を上げて応えてくれたドレイクさんと、ぺこりと頭を下げていったマージスさんを見送り、私とシーラさんは2階の部屋へと向かうことにした。
こんなお屋敷に泊まる機会なんて滅多にないし、休憩が目的だったけど、すごく貴重な体験かもしれない。
龍人族の付き人の方に案内してもらい、使わせてもらう部屋へとやってきた。
それぞれ1部屋ずつ用意してくれ、どちらもとてつもなく広い部屋だった。
シーラさんもたじたじになりながら、ひとまず荷物を置いてから再合流。
ヤトさんは荷物を置いている間にどこかへ消えており、大きなお屋敷に二人で取り残された状態になっている。
「なんだかすごいですね。王城もすごかったですが、ヤトさんのお屋敷はまた雰囲気が違いますね」
「はい。私も王城で働いていましたので、大きな建物には慣れていると思っていましたが、歴史を感じる凄みがあります」
私とシーラさんはそんな感想を語りながら、ちんまりとしてしまう。
そこに、何やら忙しそうなアシュロスさんが通りかかった。
「あれ? 佐藤さんとシーラさん。廊下で何をしているんですか?」
「どこに行ったらいいのか分からず、ここでヤトさんを待っていたんです」
「部屋でゆっくりしていていいと思いますよ。お嬢様は自室で何やら探し物をしているようですので、もうしばらくかかると思います」
「そうなんですか。それじゃあ部屋で待たせてもらいます」
「ええ。私もあとで合流しますので、その時はよろしくお願いします」
去っていくアシュロスさんを見送りつつ、部屋に戻ろうかとも思ったけど……。
部屋は広すぎて落ち着かないんだよなぁ。
「……佐藤さんも、部屋に戻りたくない感じでしょうか?」
「シーラさんもですか? 広すぎて落ち着かないんです。何やら高価そうなものもズラリと並んでいますし、庶民的な感覚の私には居心地が悪いんですよね」
「まったく同じです! それでは、ここで雑談でもしていましょうか。きっと探し物が終わったら、ヤトさんが迎えに来てくれます」
「ですね。ここで待ってましょうか」
ということで、廊下で雑談をしながら待つことにした。
シーラさんとは基本的に今後の方針について話し合うんだけど、やりたいことが多いため話題が尽きない。
話し合いが白熱する中、ようやくヤトさんが姿を見せてくれた。
何やら球体を抱えており、あの球体を探していたんだと思われる。
「佐藤とシーラ! 廊下で何をやっておるんじゃ?」
「ヤトさんを待っていたんですよ。1人だと暇なので、こうしてシーラさんとお話しして待っていたんです」
「そうじゃったのか! 待たせて悪かったのう! これを探していて、遅くなってしまったのじゃ!」
「その球体はなんですか? 宝玉ってことはないですよね?」
以前見せてもらったのとは違い、綺麗な感じではない。
どちらかといえば薄汚れていて、宝玉ではないと思う。
「違うのじゃ! これは映像記録水晶といって、過去の映像を残すことができる水晶なんじゃ!」
「へー。そんな水晶があるんですね」
ビデオカメラのようなものだろう。
水晶で記録するというのはよく分からないし、こちらの世界のカメラには少し興味がある。
「わらわの子供の頃が記録されておるから、みんなで見ようと思ったんじゃ!」
「それは見たいですね。ヤトさんの子供時代は気になります」
こちら目線だと今も子供のような気がしてしまうが、ドラゴンのため幼く見えるだけで、ヤトさんは長生きしているみたいだからな。
生まれたての頃とかは想像がつかないし、映像を見るのが楽しみ。
単純に映像記録水晶そのものにも興味があるため、これは良いものを見られそうだ。





