第252話 エデルギウス山
エデルギウス山に着いてからは、農業を行っている方々と交流をした。
交流といってもアドバイスをしただけだが、龍人族の方々が喜んでくれたし、良かったと思う。
この調子なら、エデルギウス山でも問題なく農業を行うことができそうなのは嬉しい。
一つ気になる点は、ドレイクさんを含む、こちらに移住してきた方々の今後について。
エデルギウス山でも問題なく農業を行えるのであれば、わざわざこちらに留まる必要がなくなるからね。
寂しくはなるし、個人的には残ってほしいところだけど……去る者追わず、来る者拒まずがルール。
快く送り出してあげたいとは思っている。
そんなことを考えながら、私たちはドレイクさんの案内で、ヤトさんの元へ向かうことにした。
ヤトさんはエデルギウス山の山頂付近で暮らしているらしく、下からも見えたお城らしき建物が、ヤトさんたちドラゴン族の住まいらしい。
アシュロスさんも付き人としてあのお城で生活しているようなので、二人に会うには山を登らなければならない。
個人的にはまたひとっ飛びできると期待していたが、どうやらエデルギウス山ではドラゴン形態になるのはご法度のよう。
エデルギウス山では、攻め込まれたときのみ龍人族がドラゴンの形態になっていいというルールがあるようで、空を飛んで山頂に向かうことはできないと説明された。
ということで、山道を歩くこと約30分。
ようやくヤトさんが住んでいるお城に辿り着いた。
舗装されているとはいえ、なかなか大変な道のりだったな。
「ようやく着きましたね。意外と足腰にきています」
「佐藤さん、大丈夫か? そんな大した山道ではないと思うぜ!」
確かに大した山道ではないんだけど、ドレイクさんのペースが速すぎる。
汗もじんわりかいているし、予想以上に疲れた。
「水があるんだな。倒れないように気をつけるんだぞ」
「ありがとうございます。いただきますね」
マージスさんからお水を分けてもらい、少し息を整えてからお城の中に入る。
見た目通り、内装も洋風ではなく和風。
木彫りの龍像や龍の彫刻画も素晴らしく、なんというか神々しさを感じる建造物だ。
お城の大きさに対して、仕えている人は少ないようで、出迎えてくれたのは巫女さんのような格好をした龍人族の女性。
「ヤト様にご用でしょうか?」
「ああ、そうだ! 佐藤さんが来たって伝えてくれりゃ、ヤト様は分かってくれると思うぜ!」
「分かりました。少々お待ちください」
巫女風の女性はペコリと頭を下げると、建物の奥へと消えていった。
そして、奥に消えてから1分も経たず、ドタドタという激しい足音が聞こえてき始め、ダッシュするヤトさんの姿が現れた。
「おー! 本当に佐藤がおるのじゃ! なんで佐藤が来ているのじゃー!」
そのままの勢いで突っ込んできたヤトさんを、何とか受け止める。
本当に暴れ馬であるが、私に受け止められて嬉しそうに笑っているヤトさんを見ると、怒る気力は一気になくなった。
「ヤトさん、危ないですよ。受け止めきれなかったら怪我をしてしまいます」
「すまんすまん! 本当に佐藤がいるからビックリしたのじゃ! それより、なんでエデルギウス山に来たのじゃ!?」
「まだ農業が暇なので、ヤトさんの故郷に行ってみたいって話になったんです。こちらに来てもらってばかりで、一度も行ったことがありませんでしたからね」
「そうだったんじゃな! どうじゃ! ここも意外と良いところじゃろ!」
私から離れると、目一杯胸を張ったヤトさん。
神秘的だし、風情もあるし、お世辞抜きでいい場所だと思う。
「はい。すごくいい場所だと思います。神秘的な感じがしますしね」
「ぬっふっふ! 佐藤に褒められると嬉しいのう! 一つ残念なのは、料理が美味しくないことじゃが、最近は幾分かマシになってきているからな! それもこれも佐藤のお陰じゃ!」
「いやいや、龍人族の方が頑張っているおかげですよ」
「おっ、そうじゃ! 佐藤に渡したい物があるんじゃ! 今度行くときに持っていこうと思っていたんじゃが、せっかくだから今渡してしまう! そっちの部屋で待っているのじゃ!」
一方的にそう言うと、ヤトさんは走って来た道を戻っていってしまった。
本当に忙しなく動く人だな。
「ヤトさんからのプレゼントって、なんでしょうか? 以前も何か渡そうとしていましたよね?」
「はい。宝玉を渡されかけたのですが、流石に受け取りを拒否しました。貴重すぎないものならありがたいのですが……ヤトさんのことだから、分からないですね」
以前、ローゼさんからプレゼントをもらっているのを見て、「わらわもプレゼントしたい――」と言っていた。
その時のことを覚えていて、何かプレゼントを用意してくれたんだと思う。
私もせっかくなら受け取りたいので、どうか貴重すぎないものであってほしい。
心の中でそう願いつつ、ヤトさんに言われた通り、玄関近くにある応接室らしき部屋で、戻ってくるのを待たせてもらうことにしたのだった。





