第251話 空の旅
翌日。
私とシーラさんはいつもよりも早起きをし、昨日と同様に2時間ほどで農作業を終わらせた。
残るは水やりだけなので、これから起きてくるであろうヘレナとモージに任せて、エデルギウス山に向かう準備を整える。
昨日の今日では難しいと思っていたんだけど、ドレイクさん曰く「すぐでも大丈夫」とのことで、今日出発することに決めた。
軽量の手荷物をまとめた私とシーラさんは、ニクスの馬車で龍人族の村へと向かう。
龍人族の村に着くと、すでにドレイクさんと大柄な龍人の方が待ってくれており、おそらくこの大柄な方がマージスさんだと思う。
「おう! 佐藤さん、シーラさん、来たか!」
「お待たせしてしまってすみません。マージスさんですよね? 今回はよろしくお願いします」
「んむ。佐藤さんには助けてもらっているから、何も気にしなくていいんだな」
なんというか、優しさが全面に出ている方。
どんな人だろうと思っていたけど、優しそうな人で良かった。
「それじゃ、立ち話してる時間もないし、さっさと向かうとしようぜ! 紐を用意したから、落ちないようにしっかり握るんだぞ!」
そう忠告してから、ドレイクさんとマージスさんは気を込め始めた。
徐々に赤いモヤのようなものが出始め、そのモヤが体を覆い尽くすと……2人の姿はドラゴンに変わっていた。
「おー! すごいです! 本当にドラゴンに変身してしまいました!」
「私も変身するところは初めて見ましたが、すごく神秘的ですね」
私とシーラさんが興奮気味に感想を語り合っていると、ドレイクさんが早く乗れと言わんばかりに鼻を鳴らした。
どうやら、ドラゴンの形態では話せなくなってしまうようだ。
慌てるように私はドレイクさん、シーラさんはマージスさんの背中に乗り込む。
ちゃんと鞍を用意してくれたみたいで、乗り心地は非常に良い。
ヤトさんのような大きなドラゴンという感じではなく、飛竜に近いフォルムなので、またがりやすいというのも大きい。
そんな乗り心地について考えていると、ドレイクさんが翼をはためかせ始めた。
すぐに体が浮き上がり、ジェットコースターでゆっくりと上昇している時と同じ感覚。
恐怖半分、ワクワク半分で待っていると――飛び出すように飛行し始めた。
「うっはー! すごい、飛んでる!」
もっと怖いものだと思っていたけど、滑空するわけではないため、ジェットコースターのような体が浮く感覚はない。
そのため、怖さよりも気持ちよさが勝り、テンションが上がってしまう。
速度もかなり出ているはずなんだけど、ドレイクさんの安心感がすさまじい。
恐怖の感情を抱くことがないまま、私は空の旅を満喫した。
村を出発してから約8時間。
途中で2時間ほど休憩も挟みながら移動をし、エデルギウス山に到着した。
生身の状態で空を移動して6時間と聞くと、一見しんどそうにも思えるかもしれないが、空の旅は新鮮すぎて、ずっと楽しいまま移動することができた。
若干ハイになっていたのもあるけど、最高の体験をさせてもらえたな。
「ふぅー、到着! 佐藤さん、ケツは痛くねぇか?」
「鞍が良かったので大丈夫です! ここまでありがとうございました! 本気で良い経験をさせてもらえました!」
「はっはっは! 珍しくテンションが高くなってるな! 喜んでもらえただけでも、乗せてきて良かったぜ!」
エデルギウス山に行くことが目的だったけど、すでに最高の体験をしてしまった。
ヤトさんの故郷にやってきた感動が薄れてしまっているのはどうかと思うが、それぐらい空の旅が良かったのだから仕方がない。
「佐藤さん、すごかったですね。初めて空での移動をしましたが、気持ちよすぎました」
「ですよね! 私も満足感がすごいです!」
私とシーラさんは空の旅の感想を言い合いながら、ドレイクさんの後を追ってエデルギウス山へと歩いていく。
名前からして大きな山を想像していたけれど、エデルギウス山は思っていたよりも小さな山。
山城みたいな感じになっていて、麓では龍人族が暮らしており、大きな畑がいくつも存在している。
多分だけど、これらの畑は私たちと交流を行ってから作られた畑。
まだ冬明けのため作物は植えられていない状態だが、ちゃんと成功しているようにも見えるし、龍人族を受け入れて農業を教えてよかったと思える光景。
まだまだ甘い部分は見受けられるけど、この光景が見られて良かった。
「ちゃんと畑が作られているんですね」
「ああ! 佐藤さんのおかげで、エデルギウス山でも農業が行えるようになってる! 俺らの畑と比べると、質も大きさも量もまだまだ全然だけどな!」
「やっていくうちに良くなっていきますよ。今日も、軽く私の方からアドバイスをさせていただきます」
「そりゃありがてぇ! きっと喜ぶぜ!」
ちゃんと身を結んでくれていることに喜びつつ、ひとまず集落があるところまで向かう。
龍が彫られた岩や、綺麗な珠が飾られている柱などの神秘的な景色を楽しみながら、エデルギウス山を歩いたのだった。





