夜刀神の大冒険 その1
――エデルギウス山。
リュックに荷物をパンパンに詰めて、これで準備は万端。
わらわが何をしているかというと、佐藤へのプレゼントを手に入れるため、大冒険に出かける支度を整えていたところなのじゃ。
アシュロスからは必死に止められたが、ローゼとイザベラが同行するということで、特別に許可をもらえた。
わらわももう成長しておるというのに、アシュロスの過保護ぶりにはほんと困ってしまうのう。
まあ、許可は下りたし、支度もできた。ならば早速出発じゃ!
気合いを入れて、リュックを背負い、家を後にする。
「お嬢様、くれぐれも危ないことはなさらないでくださいね。それから、ローゼ様とイザベラさんにご迷惑をかけることのないように」
「わかっておる! それに、わらわが迷惑をかけるなどあるものか! 逆に世話を焼いてやるくらいの気持ちじゃからな! ぬっはっは!」
「…………あとでちゃんと話を聞かせてもらいます。ご迷惑をかけていたと分かれば、旦那様に報告いたしますからね」
「だから、大丈夫じゃと言っておるのに! アシュロスは心配性すぎるのじゃ! それじゃ、行ってくるぞ!」
渋い顔をしているアシュロスにそう言い残し、わらわはエデルギウス山を後にした。
山の麓にはすでにローゼとイザベラの姿があり、ローゼはあくびをしながら、いかにも眠たそうな様子じゃ。
「来てくれて感謝するのじゃ! ――って言いたいところじゃが、ローゼ、なんでそんなに眠そうなんじゃ! これから大冒険なんじゃぞ!」
「……だって、朝早いんだもん。それに、面倒くさいのが勝っちゃって」
「むむむ! ローゼは本好きのくせに、冒険は嫌いなんじゃな! 自分で冒険すれば、本ももっと面白くなるというのにのう!」
「……意味わかんない。本は想像するのが楽しいの。自分でやろうとは思わない」
「ロマンがないのう! イザベラは楽しみじゃろう?」
「ううん。面倒くさいわ。アシュロスさんに頼まれたから、仕方なくついてきただけよ」
「うっぐっぐ……! 揃いも揃って何なのじゃ! これから冒険が始まるというのに!」
まったく、イザベラもローゼも期待外れなのじゃ!
ここで説教でもしてやりたいところじゃが、そんな暇はない。
冒険が始まれば、きっと2人とも楽しみ始めるはず。
そう信じ、少し出鼻をくじかれたものの、気を取り直して出発することにした。
「……ねぇヤト、どこまで行くの?」
「今回の目的地は、ラージャの湖じゃ! 冬の時期は湖が凍って、その中央にある洞窟へ入れるらしいのじゃ。そこにお宝が眠っていると言われておるのじゃ!」
「ラージャの湖って、確かデスフロッグが大量にいる場所じゃなかった? カエル系の魔物がいるなら行きたくないんだけど」
「……私もカエルは無理」
「冬はおらんのじゃ! さっさと向かうぞ!」
文句ばかり言う2人を引き連れ、ラージャの湖を目指して歩き始めた。
本音を言えばドラゴンの姿に戻ってひとっ飛びしたいのじゃが、洞窟の探索前に体力を使い切ってしまうのは危険じゃ。
体力温存のため、歩いて向かうことにしたのじゃ。
途中で野宿を挟みつつ、歩くことまる一日。
ようやくラージャの湖が見えてきた。
「おおっ! ようやくラージャの湖が見えてきたのじゃ!」
「やっと着いた……寒すぎて最悪だったわ」
「……夜、死ぬかと思った」
「そんな簡単に死なん! それよりラージャの湖じゃぞ! もっとこう……あるじゃろ、リアクションが!」
2人はずっとこの調子で、せっかくの冒険が台無しじゃ。
気を取り直して、湖の凍り具合を確認するため近づいてみる。
「おー、カッチカチになっておる! これなら湖の上を歩いて進めるのじゃ!」
「……本当に凍ってる。まあ、この寒さなら当たり前か」
「寒すぎて、魔物どころか生き物もほとんどいないわね。ヤト様が適当なこと言ってるのかと思ってたけど」
「わらわは嘘なんかつかん! とにかく、さっさと洞窟に向かうぞ!」
内心では2人に文句を言いつつ、わらわも寒さで震えておる。
洞窟の中なら多少は暖かいだろうから、早く中に入りたいところじゃ。
ただ、今の場所からは洞窟の姿は見えず、どれほど歩けばいいのかまったく見当がつかん。
湖は見晴らしがいいのに見えないということは、かなり距離があるということじゃな。
「……何も見えないけど、本当に洞窟なんてあるの?」
「湖の上を歩けるのはちょっと面白いけど……今のところ、寒いだけね。これで洞窟がなかったら無駄足もいいとこよ」
「噂ではあるって話だったから大丈夫じゃ! ……多分」
「……その“多分”が一番不安なんだけど。ヤトだって本当は帰りたいと思ってるんじゃないの?」
「そ、そんなこと……お、思っておらん! わらわは、佐藤へのプレゼントを見つけるまでは帰らんのじゃ!」
ローゼの鋭い指摘に、気合いを入れ直すようにそう宣言する。
だが氷の上を歩いているせいで、足元から冷えてきて、もう感覚がほとんどない。
ここまで来たらもう引き返せん。
泣きたい気持ちをこらえつつ、意地で足を前に出し続けていると……遠くに何かが見えた。
まだ湖の上であることを考えると、あれは間違いなく洞窟じゃ!
折れかけていた心に再び火がつき、わらわはその洞窟へと足早に向かい始めたのじゃった。





