第245話 販売戦略
別荘に戻ってきてから、2週間が経過した。
最初の1週間はだらだらと過ごし、その後は、今日開かれるクリスマスパーティーの準備に取りかかってきた。
1年を締めくくるパーティーだし、私も今日は全力で楽しみたいと思っている。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。今年1年間お世話になった方々をお招きさせていただきましたので、心ゆくまで楽しんでいただければと思います」
「わーい! 楽しませてもらうのじゃー!」
「……久々に来たので、私も楽しませてもらいます」
「恒例のクリスマスパーティー! 盛り上がろー!」
「私も来てよかったの? お世話をしたどころか……逆にお世話になっていると思う」
「大丈夫です。楽しみましょう。いきなりになりますが――乾杯のあと、料理からいただきましょうか」
料理という単語が出た瞬間、会場がドッと沸いた。
ここの料理の美味しさを物語る沸き方であり、今回もノーマンさんやヤコブさん、そして私が腕によりをかけたので、きっと喜んでもらえるはずだ。
「わー、すごいですね! 僕、こんなお肉初めて見ました!」
「これも揚げ物っていう料理? 本当にレパートリーが多い」
「これはチキンなのじゃ! うぅー、美味しそうじゃの!」
まず運ばれてきたのは、大きなお皿に盛りつけられた大量のフライドチキン。
このフライドチキンは、ようやく用意できたものであり、一昨年や昨年は別の料理でごまかしていたからね。
やはり、クリスマスといえばフライドチキン。
いつか用意したいと思っていたので、こうして大量に用意できてよかった。
「今年はフライドチキンなのか。クリスマスといえば、フライドチキンってイメージだから嬉しいな」
「な! 用意するのが難しいと思ってたから、フライドチキンが食べられるのは嬉しいぜ!」
「蓮さんたちの世代も、やっぱりクリスマスはフライドチキンなんですね」
「世代は関係ないと思うけど! クリスマス=フライドチキンって、全世界共通じゃないの?」
「いえ、確か日本特有の文化だったと思いますよ」
クリスマスにフライドチキンというのは、ケンタッキーが行った販売戦略がそのまま文化になったと聞いたことがある。
クリスマスはキリストの降誕祭で、海外からきた文化だから、いろいろとごっちゃになっている人も多いみたいだけど。
「そうだったの!? じゃあ、日本でしかフライドチキンって食べられてないんだ!」
「発祥が日本ってだけで、もしかしたら今は海外でも食べられているかもしれません」
「さすが、佐藤さんは知識があるな。となると、海外では基本的にケーキだけを食べるイベントなんだな」
「クリスマスケーキのようなデコレーションされたケーキを食べるのも、日本だけみたいですよ」
「えっ、そうなのか!? なぜか海外でもやってるってイメージがあるわ!」
「バレンタインデーもハロウィンも、日本特有のルールがありますし、ホワイトデーは他国では存在すらしませんからね。日本人は企業の販売戦略に乗せられやすいのかもしれません」
「なんとなく分かるかも! 日本人って流されやすい人、多いイメージあるし!」
「俺もそうだから強くは言えないけど、確かに人の意見に乗りやすい人が多いかもしれない。一概に悪いこととは言えないが」
なんだか、深い話題にまで発展してしまった。
個人的には興味のある内容だったけど、異世界で日本の話をしているため、他の人たちはぽかーんとしてしまっている。
ここは、話を切り上げたほうがよさそうだ。
「とにかく、存分にフライドチキンを食べてください。クリスマスムードを味わえる一品ですからね」
「うん! いろいろな思惑がありそうだけど、私はバカだから何も考えずに楽しむ!」
「それが一番です」
ということで、気を取り直してフライドチキンを楽しむことにした。
衣にはこだわったこともあり、パリパリ加減も味も最高。
フライドチキンを知らない人たちは、唐揚げと比較して驚いた様子を見せていた。
材料も調理工程も似ているけれど、唐揚げとフライドチキンは似て非なるものだからね。
この違いをきちんと再現できていたなら、よかった。
まぁ、ノーマンさんのおかげなんだけどね。
それから、さっきチラッと話に出ていたけど、クリスマスケーキも今年は準備している。
完全にサプライズで、パーティーの締めに出す予定なので、今はまだ話せないけど……みんなの反応を見るのが非常に楽しみだな。





