第22話 説明
翌日の朝。
ベルベットさんは馬車に乗って本当にやってきた。
ちなみにシーラさんには事情を説明済みであり、指導を手伝ってくれるとのこと。
「佐藤、今日からよろしく頼むわね。それと……そこの従者も」
「はい、よろしくお願いします。ただ……シーラさんのことは従者ではなく、名前で呼んであげてください」
「いえ、私はなんと呼ばれようが構いません」
「駄目です。ここで働く以上は私も含め、上も下もありませんから」
「構わないわよ。名前を知らなかっただけで、何か意図があった訳じゃないから。シーラ、今日からよろしく頼むわ」
「こちらこそよろしくお願いします」
とりあえずこれで指導しやすい環境になっただろうし、難しい話だろうけどシーラさんとベルベットさんが仲良くなってくれたら嬉しい。
そんなことを考えながら、ベルベットさんを畑へと案内した。
「これがスキルの畑なの? ……違いがいまいち分からないわ」
「私も分からないので、見た目の明確な違いはないと思います。それでですが、ベルベットさんにやって頂く作業は主に三つ。一つは作物の苗を植えること。二つ目は植えられている作物の水やり。三つ目は実った作物の収穫です。最初は一通り教えますので、適宜分からないことがあれば何でも聞いてください」
「分かったわ。それじゃ早速の質問させて貰うけど、あのぷよぷよとした物体は何かしら」
ベルベットさんが指さしたのは、少し遠くでぽよんぽよんと跳ねているライム。
「あれは私の従魔のスライムです。害は一切ないので安心してください。……少し触ってみますか?」
「私でも……さ、触れるの? 魔物なのよね?」
「さっきも言いましたが、一切害はありませんので」
「なら、触ってみようかしら」
農作業を行う前に、ライムとも挨拶を行うことにした。
挨拶といってもライムは喋れないし、こちらから一方的に触れ合うだけだけど。
「――冷たくて、見た目通りぷよぷよしているのね」
「魔物も敵意がないと可愛いですよね」
「確かに……。ベタベタもしていないし、ちょっと可愛いかもしれない」
手で触れるだけでなく、大胆にも抱きつき始めたベルベットさん。
ここまでやってきて畑仕事を手伝っていることからも分かる通り、ベルベットさんは王女という身分なのに行動力がありすぎる。
「これは……いいわね。抱き枕として欲しいくらい触り心地がいい」
「慣れてくださったのは嬉しいですが、触れるのはそこまでです。ライムもベタベタとされるのは嫌だと思いますので」
「えー。もう少し触っていたいのに」
「駄目です。仕事にいきましょう」
名残惜しそうにしているベルベットさんを連れ、既に黙々と作業をしているシーラさんの横で、私たちも農作業を開始。
一つ一つ丁寧に説明するつもりだったのだが、予想以上に飲み込みが早く、あっという間にやり方をマスターしたベルベットさん。
単純な作業というのもあるのだろうけど、これまで肉体労働をしたことがないとは思えない手際の良さで、まさか農作業で人としての才能の差を分からされるとは思わなかった。
ただ、これでより効率よくNPを稼げるようになったのは事実。
シーラさんへは日本の料理。
ベルベットさんへは漫画で対価を支払わなくてはいけないが、それでもNPはより貯まっていくだろう。
このままベルベットさんが働き続けてくれたらいいのだが、立場上不定期なのは確実だろうし……。
やはり貯めたNPの使い道は人手を増やすために、魔物を購入するのが最適なのかもしれない。
ベルベットさんが働き始めてから、あっという間に三日が経過。
この間は問題らしい問題もなく……というより、ベルベットさんはもう私よりも働けるのではと思うほど。
何よりも、シーラさんと同じく楽しそうにしてくれているのが救いであり、漫画の代わりに畑仕事をお願いした身としては一安心している。
「ベルベットさん、三日間本当にお疲れさまでした」
「まぁ対価のために働いただけだからね。それに……想像していたよりも大変じゃなかったというか、楽しかったから必ずまた来るわ。ご飯も美味しかったし」
「そう言って貰えて良かったです。それでは対価の漫画をお渡し致しますね」
私は事前に購入しておいた少女漫画の六巻を手渡した。
ベルベットさんはこれまで見たことがないほどの笑みを浮かべながら、手渡した漫画を大事そうに抱き締めた。
「働いて手に入れたこともあって……本当に嬉しい。佐藤、ありがとうね」
「お礼を言うのは私の方です。こちらこそ手伝ってくださり、ありがとうございました」
「また近い内に来させてもらうわ。続きも欲しくなるだろうから」
「ええ。いつでもお待ちしております」
「それじゃ私はこれで――」
ベルベットさんはそう言うと、迎えの馬車に乗って帰っていった。
王女様ということで本当に働けるのか不安な部分もあったが、結果的には大きな戦力だったな。
これで毎週働きに来てくれたら最高なのだけど、国の王女様だしそこまで暇ではないだろう。
働きに来てくれたら作業量を増やす――ぐらいの認識で考えておくべきだな。
「……佐藤さんは本当に凄いですね」
「え? 私は全く凄くないのですが、急にどうしたんですか?」
「王女様のあんな表情、私は初めて見ました。前にもお伝えしたと思いますが、王女様は気難しい方ですので。王城での態度でも好かれていると思っていたのに、まさか一緒に農作業を行うことになるとは……今でも考えられません」
「王女様が働くことになったのは凄い変化なのでしょうが、それは全て異世界の本のお陰です。シーラさんがこうして働いてくれているのも、異世界の食材のお陰ですからね」
決して私が凄いのではなく、地球の文明が凄いのだ。
シーラさんは褒めてくれたけど、決して自惚れてはいけない。
「……私は異世界の料理がなかったとしても――」
「えっ? すみません、最後の方が聞き取れず……なんでしょうか?」
「なんでもありません! 先に戻っていますね!」
途中まではギリギリ聞こえたのだが、最後はごにょごにょとしか聞こえず聞き返したのだが……。
シーラさんは少し顔を赤らめて別荘に戻ってしまった。
何と言ったのか気になるが、去ってしまった以上は分からない。
深く考えることはせず、片付けをしてから私も別荘に戻るとしようか。
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