第235話 姉
オークションが無事に終わり、大量の白金貨を抱えて帰ってきた。
ロッゾさんへの報酬も白金貨4枚となり、しっかりと対価を支払えたことで、シーラさんも嬉しそうにしていた。
残り36枚の白金貨はすべて私に譲ると言ってくれたのだけど、さすがにそれは辞退。
ただ、シーラさんも譲らなかったため、ここの設備投資に充てることとなった。
白金貨36枚もあれば、建物をいくつも建てることができるだろうし、それこそシーラさんの役に立つものも造れるはず。
そうなってくると……やっぱり女性用の大浴場が先決かなぁ。
男性用は特に防犯対策が必要なかったので、比較的安価に作ることができたけど、女性用はしっかりと防犯対策を講じなければならず、まだ建設にも至っていない。
それに、女性陣の反応もイマイチだったこともあって、今まで手付かずだったが、大浴場は絶対に必要だし、投資する価値はあると思っている。
まずはシーラさんに相談。
それからロッゾさんとシッドさんに話をして、本格的に作業に入りたい。
そんなことを考えていた最中……突如、ワープホールが黒く輝き出した。
目立たない場所に設置してあるんだけど、あまりの輝きに、離れていてもすぐに分かってしまう。
良いことなのか悪いことなのかは分からないが、とりあえず出迎えに行こう。
私が小走りでワープホールに向かうと、そこに立っていたのは大きな袋を持ったミラグロスさんと……挙動不審な見知らぬ女性だった。
「ミラグロスさん、おはようございます。あの……そちらの方はどなたですか?」
「ん、おはよう。私の姉。ついていきたいって言うから連れてきた」
「は、初めまして。私はファウスティナと申します。妹のミラグロスと、兄のゼパウルがお世話になっております」
そう言って、丁寧に頭を下げてきたのは、ミラグロスさんのお姉さん、ファウスティナさん。
ゼパウルさんとは違って、最初から友好的なのはありがたい。
それに、ミラグロスさんを明るくしたような容姿で、とても美人。
ゼパウルさんの容姿は怖かったけれど、2人はお母さん似で、ゼパウルさんはお父さん似なのかもしれない。
「ご丁寧にありがとうございます。私は佐藤と言います。気軽に呼んでください」
「ん。堅苦しい挨拶はもういい。鉱石を持ってきたから見て」
「その背負っているのが鉱石なんですか? 早速見させてください」
「私たちの街で採れる鉱石を全種類、持ってきました。気に入っていただける鉱石があれば嬉しいのですが……」
「そうですね。私も鉱石と作物の種を交換できれば嬉しいと思っているので、良い鉱石があると助かります。それで、以前お渡しした作物の成長具合はどうですか?」
ファウスティナさんはかなり控えめに話しているが、気になるのはサツマイモの成長具合。
良い鉱石があったとしても、サツマイモが育っていなければ取引は成立しない。
まあ、利益はともかく、食糧難で苦しんでいる魔王の領土で育ってほしいという気持ちの方が強い。
「順調に育っていると思う。佐藤が持たせてくれた肥料と、あの作物の苗。どっちもすごい」
「ええ。ミラグロスの言う通り、これまで何も育たなかった土地ですが、今はちゃんと成長していると思います。本当にありがとうございます」
「まだまだ、お礼を言われるようなことはしていません! それに、こちらも無償というわけではなく、鉱石か魔力塊と交換してもらうつもりですから」
そう。完全な慈善ではなく、こちらも利益を得ようとしている。
お礼を言われるような立場ではない。
「だとしても、本当に助かってる。佐藤さん、ありがとう」
「ですね。私たちとしては、少しでもお返しができるように、お眼鏡にかなう鉱石があることを願うばかりです」
「私もそう願っていますが……私は専門外なので、詳しい者を呼んできますね」
ひとまず二人を別荘に案内してお茶を出してから、私は急いでロッゾさんの元へ向かった。
なんだかんだ言って、ロッゾさんにはいつも頼ってばかり。でも、今回もロッゾさんの力を借りないと分からないことばかり。
「ロッゾさん、ちょっとお時間ありますか?」
「おう、佐藤さん! この間は売りに行ってくれてありがとな! 白金貨4枚の思わぬ収入もあって、こっちはウハウハだぜ!」
「それは良かったです。それで、ちょっと緊急でお願いしたいことがあるんですが、いいですか?」
「おう! もちろん構わねぇぜ! 何か作ってほしいとかか?」
「いえ。ミラグロスさんが鉱石を持ってきてくれまして、その鉱石の鑑定をお願いしたいんです。今後、作物の種と鉱石を交換しようと考えていまして」
「おー、そりゃあ俺の出番だな! もちろん構わねぇぜ!」
二つ返事で了承してくれたロッゾさん。
このフットワークの軽さには、いつも助けられている。
ここからはロッゾさんに任せることになるため、私は良い鉱石があることを願うだけ。
即座に準備を終えたロッゾさんと一緒に、二人が待っている別荘へと戻ったのだった。





