第234話 落札額
前にしか照明が当たっていないため、商品はよく見えるのだけど……よく見えたところで、それが何なのかはさっぱり分からない。
束ねられた髪の毛のようにも見えるけれど、髪の毛が売られるなんてことがあるのか疑問だ。
「一品目の商品は、ガジュリン族の毛です! 呪術を用いる際に使うと絶大な効果があるとされ、また、所持しているだけでも呪いを跳ね返す力があると言われている毛でございます! こちら、ガジュリン族の毛は白金貨1枚からのスタートです!」
競売人の説明の後、すぐに入札が開始された。
入札が行われている間は、逆にこちらに照明が当てられ、なんだか自分が商品になったような気分になる。
「68番の方、白金貨17枚! 他にいらっしゃいませんか? ……白金貨17枚で落札でございます!」
落札者が決まったところで、オークションといえばの木槌が叩かれた。
木槌が叩かれるのも含めて、私の知っているオークションだし、大きな変化はないみたいだ。
それにしても……一品目はなかなかに胡散臭い商品だったなぁ。
アフリカ系の民族の方で、同じようなものがありそうな内容だし、まったくもって食指が動かなかった。
まあ白金貨17枚だし、欲しいものだったとしても買うことはできなかったんだけどね。
そこからオークションは流れるように進行し、あっという間に10個の商品の競売が終わった。
個人的にいいなと思ったのは、ジャック・ニドルの古地図のみ。
ジャック・ニドルというのは、昔の大盗賊らしく、お宝の地図の可能性があると競売人が説明していた。
気にはなったものの、スタートの段階で予算オーバー。
入札すらできずに諦めることとなった。
ここまでのオークションの感想としては、胡散臭いものが多いということと、すべてにおいて値段が高すぎるという2点のみ。
期待外れ感は否めないけれど、次はいよいよロッゾさんのお宝の競売。
「続く商品は、伝説の鍛冶職人ギンの金槌! 状態はあまりよろしくはありませんが、本物のギンの金槌です! 白金貨1枚からスタートいたします!」
ロッゾさんが出品したのは、この金槌と、珍しい鉱石を複数種。
鉱石類はここでのオークションではなく、下の階層で執り行われるみたい。
下の階層は、ランクが低いものが出品されるとのことで、期待できるのはこの金槌だけだとシーラさんに教えてもらった。
そして、そんな気になるギンの金槌だけれど、23番の方に白金貨7枚と金貨2枚で落札された。
個人的には良い商品だと思ったんだけど、落札額は今日の最低額。
それでも白金貨7枚だし、悪くはないはず。
「うーん……今日は随分と渋いですね」
「そうなんですか? 十分高いと思いましたが、これでも低いんですね」
「はい。本来なら白金貨10枚はついてもおかしくないのですが、あまり伸びませんでした。若干、古さを感じるのが原因かもしれませんが、全体的に渋めですね」
そんな評価を述べたシーラさん。
やはり私とは視点が違うなぁと感心していると、続けて七呪剣のオークションに入った。
今の講評を聞いてしまうと、あまり期待はできないのかもしれない。
私は高く売れるように祈りながら、オークションを見守る。
「続いての商品は、本日の目玉といっても過言ではありません! 呪われた剣としてあまりにも有名な、七呪剣のうちの1本です! 伝説の名匠シグレが残した剣であり、その切れ味から“斬れないものはない”と言われている逸品! 最低額は……白金貨10枚からスタートです!」
競売人の説明にも熱が入っていたように見えるし、最低額の時点でロッゾさんが出品したギンの金槌を超えている。
私はウキウキしながらシーラさんを見たけれど、この状況でもシーラさんの表情はまだ険しい。
「32番様、いきなり倍額! 51番様、白金貨24枚! 7番様、白金貨25枚!」
これまで渋かったのが嘘のように、次々と入札が入っていく。
不安を抱えていたこともあって、金額がつり上がるたびに気分が高揚してしまう。
「32番様、白金貨30枚! 他にいませんか? それでは締め切らせ――」
「白金貨40枚」
「50番様、白金貨40枚! ――落札でございます!」
最後の最後に大きな入札があり、シーラさんが出品した七呪剣は白金貨40枚での落札となった。
30枚で落札かと思っていたところに、滑り込みでの白金貨40枚。
これ以上競らせないための入札だと思うけれど、こちらとしては嬉しい限り。
これまでずっと険しい表情だったシーラさんも、この結果には笑みを浮かべているし、多分、予想していたよりも落札額が高かったのだと思う。
「白金貨40枚って、すごいですね。ここまで上がるとは思っていませんでした」
「私も白金貨30枚くらいだと思っていました。高値で落札されて良かったです」
結局、自分では入札すらできなかったけれど、オークションの雰囲気は味わえたし、結果よければすべてよし。
それにしても……白金貨1枚で購入したものが白金貨40枚で売れるなんて、凄まじい目利き。
修繕したロッゾさんの腕も大きかったと思うけれど、私はシーラさんの凄さを再確認したのだった。





