第229話 接戦
それから次に遭遇したのは、ミラグロスさんとゼパウルさん。
急遽やってきたということもあり、2人は仮装をしていない。
それに、昨日の一件があったからか、2人とも気まずそうにしている。
ゼパウルさんに関しては、参加しないと思っていたのだが、顔を出してくれたようだ。
「ミラグロスさん、ゼパウルさん。こんにちは。来てくれたんですね」
「ん。もちろん。参加はできないけど、面白そうだから見に来た」
「初めて聞くイベントだが、なかなかに面白い試みだなァ。本当に魔物かと思ってしまう仮装をしている奴がいて驚いたぜェ」
「楽しんでいただけているなら良かったです。仮装パーティーの後半には、投票タイムと立食パーティーも予定していますので、2人も“いい仮装だな”と思った方に投票してください」
立食パーティーと聞いた瞬間、ゼパウルさんの目が見開かれた。
昨日の料理も気に入ってくれたし、すっかり胃袋を掴めたようだ。
「立食パーティーは楽しみすぎるぜェ! 昨日みたいな飯が食えるってことだよなァ?」
「ジャンルは変わりますが、同じくらい美味しい料理を出す予定です」
「佐藤さんは本当にすごい。こんなに美味しい料理をこのペースで食べられることなんて、なかなかないから」
「ここが特別なんです。他の場所では当たり前じゃありませんので」
「そうだったのかァ。じゃあ、美味い料理はここでしか食えねェんだな。親父や妹、それから街の人々にも食べさせてやりてェと思ったが……結構難しそうだなァ」
「同じクオリティのものは難しいかもしれませんが、食糧不足を解消できる案は思いついています。近いうちに、それなりのご飯なら提供できるようになるはずです」
「それは本当かァ!? ぜひ詳しい話を聞かせてくれやァ!」
私の話に食いついたゼパウルさんは、私の肩を掴んで強く揺すってきた。
少し怖い勢いではあるものの、ゼパウルさんが本気で心配していたことが伝わってくる。
昨日も当たりが強かったが、色々なことを考えての行動だったのだと分かる。
「詳しい話はパーティーが終わってからにしましょう。全力で協力しますので」
「この村を見たら、頼もしさしか感じねェ! 佐藤さん、ありがとうなァ」
「だから、私はずっと言ってたのに」
ミラグロスさんがそうぼやいたが、結果的に理解してもらえたのだから、全て良しとしよう。
伝えたとおり、詳しい話は明日にして……引き続きパーティーを楽しもう。
いろいろな参加者と交流した後、最後の最後に出会ったのがベルベットさんだった。
気になるベルベットさんの仮装は、まさかの学校の制服。
私がプレゼントした少女漫画を参考にして作成したようで、クオリティは非常に高い。
まさか制服を選ぶとは思っていなかっただけに、私のハートはグッと掴まれた。
「ベルベットさん、すごいクオリティですね! 制服を自作してくるとは思っていませんでした」
「そう言ってもらえて良かったわ。漫画とにらめっこしながら作った力作だから、佐藤に笑われたらどうしようかと不安だったの」
「絶対に笑いませんよ! 制服のクオリティも素晴らしいですが、何より似合いすぎていますし」
「そう? 褒めてくれてありがとう」
ベルベットさんはくるりと一周回って見せてくれた。
もしベルベットさんが高校生だったら、間違いなく校内で一番のアイドルになっていただろうというビジュアル。
「ベルベットさんの仮装は、ぜひ見てみたいと思っていましたので、最後に会えて良かったです」
「私も。佐藤のゾンビの仮装が見られて良かった」
そんな会話を交わしたところで、仮装パーティーは終了の時間を迎えた。
このあとは、1人3票の投票タイム。
そして結果発表を行い、そのまま仮装のままで立食パーティーへと移る予定だ。
誰に投票するか非常に悩んだけれど、最後のインパクトがかなり強かったため、私はベルベットさんに投票することに決めた。
私は投票後、裏方に回って票の集計を行う。
圧倒的に票数が多かったのは、ロッゾさんとシッドさん。
ほぼ全員がこの2人に投票したといっても過言ではなく、納得の1位と2位。
そして、この2人に次いで票を集めたのが、シーラさん、ルーアさん、ベルベットさんの3人だった。
優勝争いと3位争いが激戦となっている。
「集計結果が出ました。まずは第3位からの発表になります。第3位は……ルーアさん! ルーアさんはこちらまでお越しください」
3位は接戦の末、ルーアさんが勝ち取った。
……が、ルーアさんは逃亡しており、3位は不在のまま。
最後にもう一度見たかったけれど、さっきが限界だったんだろうね。
「ルーアさんは後で呼ぶとして、第2位、そして優勝者の発表です。第2位は……シッドさん! そして、第1回仮装大会の優勝者はロッゾさんです! おめでとうございます!」
1票差の接戦で優勝を勝ち取ったのは、魔動兵の仮装をしたロッゾさんだった。
ロッゾさんが満票で、シッドさんが1票少なかったということは、おそらくロッゾさん自身はシッドさんに投票しなかったのだろう。
気持ち的には同時優勝にしてあげたいけれど、ルール上はロッゾさんの優勝。素直に称えよう。
次回の開催では、1人3票制を維持しつつ、1位〜3位まで順位を決め、それに応じたポイント制にしようかな。
そんな仮装パーティーのルールも新たに考えながら、優勝者のロッゾさんを皆で拍手で称えたのだった。