第228話 照れ
続いて遭遇したのは、何だかよく分からない仮面をつけているローゼさんとイザベラさん、それから可愛らしいドラゴンの仮装をしているヤトさん。
ローゼさんとイザベラさんの仮装は、何だかよく分からないけれど、シャーマンのような雰囲気もある。
仮面をつけているだけなので、それが仮装なのかどうかも分からないが、参加してくれただけでも意義があるよね。
ヤトさんはアニメ風のドラゴンで、デフォルメされたデザインがとても可愛らしい。
ドラゴンがドラゴンの仮装をしているという点には少し引っかかりを覚えたものの、クオリティはかなり高いと思う。
「うわっ! ……なんじゃ、佐藤か! ゾンビかと思ったのじゃ!」
「ゾンビの仮装をしていますから、合っているといえば合っていますよ」
「……凄いですね。外で遭遇していたら、間違いなく声を上げていました」
「覇気のない目がゾンビそのものね。ゾンビの才能があると思うわ」
褒められているのか貶されているのか、かなり微妙なライン。
でも、仮装を褒められているわけだし、素直に褒め言葉として受け取っておこう。
「ありがとうございます。3人の仮装も素敵ですね。ヤトさんはドラゴン。ローゼさんとイザベラさんは何の仮装なんですか?」
「……奇術師。エルフの昔話に出てくる悪人」
「私はお姫様と騎士がいいんじゃないかと思ったのだけど、ローゼ様がどうしても奇術師をやりたいって聞かなくてね。仮面のクオリティは相当高いはずなんだけど、全く伝わらなくて困っているわ」
「……面白いお話なのに、知られていないのは納得いかないです」
「ぬっはっは! マイナーな物語の悪役なんか知らんのじゃ! ローゼはセンスがないのう!」
「……ドラゴンのくせに、ドラゴンの仮装をしているヤトには言われたくない」
「なんじゃとー!」
2人で言い争いながら、可愛らしくポカポカと殴り合っている。
ローゼさんの案を否定するわけではないけれど、個人的にはお姫様と騎士の方が見たかったなぁ。
ローゼ様がお姫様でイザベラさんが騎士――それは素晴らしいと、見ずとも分かる。
逆に、イザベラさんがお姫様でローゼさんが騎士でもきっと凄く良いし、私はそっちを推したかった。
「でも、唯一ベルベットが分かっておったのう!」
「……ベルベットさんとは趣味が合う」
「ローゼ様が珍しく、初対面なのに普通に話していたわ。会話の内容は聞こえているのに、内容が一切分からなかったのが怖かったけど」
ローゼさんとベルベットさんは、間違いなく話が合うだろうね。
何の話をしていたのかは分からないけれど、きっと漫画の話ならもっと意見が一致すると思う。
私はそんな3人と軽く話したあと、次なる人物を求めてうろつくことにした。
ベルベットさんの話も出たし、今度はベルベットさんに会いたいなぁ。
ベルベットさんを探しながら歩いていると、正面からやってきたのはルーアさん一行。
ルーアさんはお姫様の仮装をしており、ジョエル君は執事のような服装。
そして、ポーシャさんとロイスさんがメイド服で、ブリタニーさんは護衛なのか重騎士の格好をしている。
ルーアさんを中心としたお姫様の仮装グループで、クオリティが高い上にストーリー性もあってとても面白い。
「ルーアさん、お姫様の仮装をしたんですね!」
「さ、佐藤! 恥ずかしいから口に出すなっ!」
ルーアさんは私に会うなり、両手で顔を隠してしまった。
本当に恥ずかしいのか、耳が燃えるように真っ赤なのが分かる。
「せっかく可愛らしいのに、隠したら勿体ないですよ!」
「そうですよ! 僕たちの仮装はルーアさんあってのものですから、堂々としていてください」
「し、知らん! 私はやりたくないと散々言っていただろう!」
「じゃんけんで負けたルーアさんが悪いです」
「そうです。公正に決めました」
「し、知らん! 着たには着ているだろ!」
どうやらじゃんけんに負けて、ルーアさんがお姫様の仮装をすることになってしまったらしい。
スカートすら履いているのを見たことがなかったし、死ぬほど恥ずかしいというのが伝わってくる。
ただ、ルーアさんは綺麗な人だからドレスもよく似合っているし、恥ずかしがっている様子も非常に良い。
これは……良いものを見させてもらった。
「ルーアさん、すごく似合っていますよ」
「佐藤さんの言う通りですよ! すごく似合っているので、僕たちのためにも堂々と歩いてください!」
「うるさい! 似合っているとか言うな! 佐藤は早くあっちに行け!」
ルーアさんにシッシッと追い払われてしまったので、私は渋々立ち去ることにした。
あれ以上あの場にいたら、逃げ出しそうな雰囲気があったしね。
結果的に、全員がそれぞれ異なる仮装をしていて、しかもクオリティも相まってとても面白かった。
まだ終わっていないけれど、料理大会に続いて仮装大会も、第2回の開催を決定してもいいかもしれないな。





