第213話 世界樹
新しい作物を育て始めたおかげで、また農業が新鮮な気持ちでできるようになった。
季節ごとに育てる作物が変わるため、そもそもマンネリ感は少ないんだけど、真新しい作物を育てるのはやっぱり新鮮。
今回は食材としても使えるものがあるおかげで、これまでとは違った意味合いも持っているからね。
まぁ、ブルガールドは食材としても駄目だったから、最初以外は育てていないけど。
夕方までは農業。
夕方以降は酒造のお手伝いをしながら、充実した毎日を送っている中、久しぶりに来訪者がやってきた。
黒いドラゴンの時点でなんとなく察しはついていたけど、やはりヤトさんが遊びに来たみたい。
今回もイザベラさんとローゼさんを連れている。
最近はアシュロスさんの代わりに、この二人と一緒に遊びに来ることが多い印象。
久しぶりにアシュロスさんにも会いたいけど、もしかしたら色々と忙しいのかもしれないからね。
私のわがままは言えないけど……近いうちに遊びに来てもらいたいな。
「ヤトさん、イザベラさん、ローゼさん。お久しぶりです。夏祭り以来ですかね?」
「佐藤、久しぶりなのじゃ! わらわは花火をした日が最後じゃな!」
「私とローゼ様は夏祭りが最後ね。あの日は本当にありがとう。久しぶりに楽しかったわ」
「……佐藤さん、お久しぶりです。夏祭りは本当に楽しかった」
「そう言ってもらえると、頑張って用意した甲斐がありました。それで、今日は何の用事で来たんですか?」
私は単純に訪ねてきた理由が気になって聞いたんだけど、ヤトさんはなぜか頬を膨らませてしまった。
「理由がなきゃ来ちゃ駄目なのかのう?」
「いえ、そんなことはありませんが……三人で来たので理由があるのかなと思っただけです。いつでも大歓迎ですよ」
「それなら良かったのじゃ! イザベラとローゼが遊びに来て、佐藤のところに行きたいと言ったから連れてきたのじゃ!」
「……行きたいとは言ってない。お礼がしたかっただけ」
「そうよ。お礼がしたかっただけだから」
「うぬ? それは行きたいってことではないのかの?」
この件に関しては全面的にヤトさんが正しく、耳が真っ赤になっていることから、ローゼさんの発言は照れ隠し。
相変わらず、イザベラさんが全肯定するせいで、ヤトさんが困惑状態になってしまっている。
「遊びに来た理由は分かりました。お礼のためにわざわざ足を運んでくださり、ありがとうございます」
「…………これ。お礼の品」
「プレゼントも持ってきてくれたんですか? これは……ネックレスですか?」
私の問いにコクリと頷いたローゼさん。
お洒落な小瓶のような飾りがついた、綺麗な金のネックレスだ。
「ちなみに、それはただのネックレスじゃないわよ。小瓶の中には世界樹の雫が入っているの」
「世界樹の雫……ですか?」
ゲームでは聞いたことがあるけど、この世界での効果は不明。
“世界樹”と聞くと、死者を甦らせる効果を思いつくけど、さすがにそんなぶっ飛んだ性能ではないと思う。
「……ん。その小瓶に入っている液体を飲み干せば、どんな病や怪我も治ると言われてる。ついでに魔力も全回復する」
「万能薬ということですか! そんな貴重なものを頂いてもいいんですか?」
「……もちろん。私も色々なものを貰ったから」
あげたといっても、たこ焼きとかき氷くらい。
ラテセットは、ローゼさんが自分の手で手に入れたものだしね。
「ローゼ様が選んで渡したものなのだから、大人しく受け取りなさい」
「そういうことなら……遠慮なく頂きます。ローゼさん、ありがとうございます」
ちゃんとお礼を伝え、私は早速ネックレスを首にかけた。
ふとした拍子に瓶が割れてしまわないかが怖いけど、ネックレスとして頂いたものだし、身につけさせてもらう。
「おっ! 似合っておるのじゃ!」
「本当ですか? ネックレスなんて初めて身につけましたが、似合っていると言われたら嬉しいですね」
「……喜んでもらえてよかった」
「ローゼさん、素敵なプレゼントをありがとうございます」
「むぅ……。わらわも何かプレゼントしたいのじゃ! 佐藤には受け取りを拒否されたからのう!」
ヤトさんのは明らかに希少すぎるプレゼントだったからなぁ。
世界樹の雫もギリギリなラインだけど、ヤトさんのはラインを大幅に越えていた。
「適度なプレゼントなら、私も受け取りますよ。家宝とか秘宝とかは絶対に頂けませんが」
「それならば、佐藤のプレゼントを探してこようかのう! わらわが手に入れたものなら受け取ってくれるということじゃな?」
「ええ、もちろんです。気合は入れすぎないでくださいね」
「分かっておるのじゃ! ぬふふ! 何をプレゼントしようかのう?」
ヤトさんの笑顔が少し恐ろしいけど、そう大したものは持ってこないはず。
とりあえず、プレゼントの件は考えないようにして、まずは農作業を終わらせることを考えよう。
遊びに来てくれたわけだし、さっさと仕事を終わらせて自由時間を作りたい。
貴重なネックレスももらってしまったし、おもてなしもしたいしね。
ということで気を取り直し、私は農作業に勤しむことにした。
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