第206話 七呪剣
それから目についた店で買い物をしながら、レノヴィーの街を端から端まで見て回る。
フリーマーケットというだけあって、本当にさまざまな店が並んでおり、「買えないものはないのでは?」と思うほどの数。
日本のように衛生面での厳しさがないため、普通にご飯なども売られている。少し不安はあるものの、買い食いしながらフリーマーケットを見て回れるのは楽しい。
また、値引きに関しても緩々で、人気のない店では投げ売りしているところも多々ある。
「佐藤さん、シーラさん! あそこの店に行ってみませんか? 人も少ないですし、剣のようなものが売られていますよ!」
「ジョエルさんが選んだにしては、いいお店ですね。アンティークの武具店でしょうか?」
「面白そうですね。店主さんはかなり怪しいですが」
「もしかしたら安く売ってくれるかもしれませんし、行ってみましょうよ!」
ジョエル君が見つけたのは、半分路地裏に入ってしまっている怪しい店。
キーホルダー屋の店主さんのような、わざとらしい怪しさではなく、普通にしているのに不気味さがにじみ出ているタイプだ。
売られているのは、古い武器や防具で、シャノンさんの店で購入した『古兵装備』よりもさらに古さを感じる。
アンティークやヴィンテージものはフリーマーケットの醍醐味でもあり、怪しい雰囲気のためか客足も少ないため、狙い目のお店かもしれない。
そんな考えのもと、私たちは古い装備を売っている武具店に足を運んだ。
店主はローブのフードを深く被っていて顔は見えないが……肌の感じからして、私と同じくらいの年齢のおじさんだと思う。
「あの! 少し見てもいいですか?」
「もちろん構わねぇぜ。実家の倉庫から引っ張り出してきた物だから、聞かれても何も答えられねぇがな」
「ありがとうございます! ちなみに、お値段はおいくらですか?」
「一律で白金貨1枚。値下げする気はねぇから、無駄な交渉はやめてくれや」
無愛想な店主はぶっきらぼうにそう言うと、腕を組んで眠るような姿勢を取った。
“これ以上話しかけるな”という態度でもあり、少しだけ空気がピリつく。
「それでは……少しだけ見ていきましょうか。シーラさんは古いものに詳しかったりしますか?」
「いえ。有名なものなら知識としてありますが、レトロなものには詳しくありませんね」
口ではそう言っているシーラさんだけど、私の話を聞き流す勢いで、並べられている商品に釘付けになっている。
この間もすぐに古兵装備を見極めていたし、今も物の見方は完全にプロのそれ。
確実に詳しいと思うけど、欲しい商品があったときに店主に値上げされないよう、あえて詳しくないふりをしているのだろう。
なんとなくだけど、この店主は価値があるとわかったら売らないか、あるいは値上げしてきそうなタイプに見える。
私は物の価値は分からないけれど、手持ち無沙汰なので、一緒になって並べられている武具を眺めることにした。
うーん……汚れているだけにしか見えないし、無愛想で値引きもない時点で、私ひとりならすぐにこの店を離れていたと思う。
素人目線でそんなことを考えていると、シーラさんが何か気になるものを見つけたようで、手に取って眺め始めた。
ボロボロで錆びついた剣で、とても白金貨1枚の価値があるようには思えない。
「…………この剣、買わせていただきます。白金貨1枚でよろしいでしょうか?」
「えっ! シーラさん、その汚い剣を買うんですか!? 値引きはしないって言ってましたよ!」
「ああ。一切値引きしないぜ。白金貨1枚でいいなら、持っていってくれ」
「分かりました。白金貨1枚で買わせていただきます」
そう言うとシーラさんは白金貨を1枚取り出し、店主の怪しい男性に手渡した。
店主の表情は見えないが、口元がニヤついていることから、笑っているのは間違いない。
「うわー! 本当に買っちゃった!」
「毎度あり。また来てくれや」
錆びた剣を白金貨1枚で購入したシーラさんとともに、怪しい武具店からそそくさと立ち去る。
正直、私もジョエル君と同意見だけど、シーラさんなら何かしら理由があって購入したはずだ。
「あの、シーラさん。その錆びた剣って一体……?」
「この剣は、恐らく名匠シグレが打った七呪剣の一本だと思います」
「七呪剣! ……って何ですか? 僕、聞いたこともないですよ!」
「名匠シグレが死の間際に打ったとされる七本の剣です。名剣と称される一方で、使い手に不幸をもたらす“呪われた剣”とも言われていて、長らく市場には出回っていなかった逸品ですね」
「へー、その剣は呪われた剣なんですね。かなり怖いけど、持っているだけなら大丈夫なんですか?」
「錆びていますし、“呪われている”というのもあくまで噂ですから、大丈夫だと思います。本物かどうかもまだ定かではありませんし」
まだ確証はないということか。
それでも、呪われた剣というのはやっぱり不気味だ。
私はオカルトやスピリチュアルといった類を一切信じていなかったけれど、この世界では信じざるを得ない。
実際にアンデッド系の魔物もいるし、魔法という未知の力が存在する以上、呪いがあっても不思議ではないからだ。
「シーラさん、すごいです! こんなにボロボロなのに、よく見抜けましたね! 僕なら知っていてもスルーしていましたよ!」
「シグレが打った剣には“銘”が刻まれていまして、この剣にもそれがあるんです。錆びていて見えませんが……ほら、触ってみると、うっすらと彫られているのがわかりませんか?」
シーラさんに言われて触ってみたけれど、まったくわからなかった。
ジョエル君も同じようで、小さく首をかしげている。
「全くわかりません。さっきは詳しくないと言っていましたが、シーラさんって相当詳しいですよね」
「ロッゾさんの店に通っていましたから、普通の人よりは詳しいと思います。ただ、専門家と比べればそれほどでもありません」
「僕からすれば専門家クラスですよ! まぁ、それはさておき、良いものを買えましたね!」
「ええ。本物であれば、“超”がつくほどのお得な買い物です。ただ、ロッゾさんに見てもらうまでは安心できませんけどね」
もし本物で、贋作でなければ、大幅なプラスということか。
変なキーホルダーを買ってマイナススタートだっただけに、シーラさんのおかげで挽回できた。
まだ真偽は不明だけど、シーラさんなら十中八九、大丈夫だと思う。
あとフリーマーケットでやることといえば、ジョエル君が大量に持ってきたものを売ること。
午後から場所を借りることができたので、午後は“売る側”としてフリーマーケットを楽しもうと思う。
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