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閑話 エルフの国の薔薇姫


 ――エルフの国、エルターネ。

 その正確な場所は謎に包まれており、エルフのみが暮らす国である。


 エルフといえば、長寿、高い知能、そして人間とは比べ物にならない魔力適性を持ち、一時は人間よりも明確に優位な立場に君臨していた。

 人間に対する差別は当たり前で、エルフは人間を自らに尽くす存在としてしか扱っておらず、その態度に不満を募らせた人間が怒りを爆発させたのが、ちょうど500年前のことである。


 個々では比較にならない程の強さを誇っていたエルフだったが、人間との明確な差は、何といっても圧倒的な人数差だった。

 長寿ゆえに繁殖能力が低く、数で劣っていたことが、人間との戦いに敗れた最大の理由である。

 全盛期には1000人を超えるエルフが存在していたが、人間との戦争で数十人にまで激減し、今では森の奥でひっそりと暮らすようになってしまった。


 そのため、エルフの国と銘打たれてはいるが、現在エルターネで暮らす大半はダークエルフである。

 ダークエルフもかつてはエルフに邪険に扱われていたが、生き残ったエルフたちとは深い親交があり、現在では良好な関係を築いていると言われている。


 そんなエルターネに、久方ぶりにハイエルフが誕生した。

 背中に薔薇のような小さな痣があることから、そのハイエルフはローゼと命名された。


 そして、ローゼは幼少期からハイエルフの素質を発揮した。

 その姿にエルターネの人々は希望の光を見出したが、周囲からの期待をプレッシャーに感じたローゼは、自室に引きこもるようになってしまった。


 なんとか国の外へ連れ出そうとしたが、ローゼは頑なに外出を拒否。

 そんな中、側近のイザベラは、ローゼの代わりに自らが外の世界を見て回ることを決意した。


 さまざまな世界を巡っては、自室にいるローゼに外の話を聞かせた。

 ローゼは小説が好きということもあり、イザベラの話を好んで聞いてくれた。


 ただ、どれほど外の話をしても、ローゼは自ら外へ出ようとはせず、イザベラ自身も安心して連れ出せる場所を見つけられなかった。

 ローゼが「友達」と呼べるのは、エルターネに訪れるドラゴン・夜刀神やとがみのみであった。


 夜刀神とは年齢こそ離れているが、精神年齢が近しいことから、出会ってすぐに親しい関係となった。

 残念ながら、夜刀神もまた引きこもりがちな性格であり、ローゼを外に連れ出すきっかけにはなり得なかった。


 行き詰まりを感じながらも、イザベラは諦めずに世界を旅し続けた。

 そして――とうとう、ローゼの琴線に触れるかもしれない面白い場所を見つけた。


 それは、グレイラン王国の王都近郊にある自然豊かな農園。

 その説明だけでは特に惹かれる要素はないのだが……なんと、あの夜刀神が「オススメ」してきた場所だった。


 イザベラは半信半疑ながらその農園を訪ねてみたが、想像をはるかに超える面白さがあった。

 世界を巡ってきたという自負のあるイザベラでさえ、間違いなく「一番面白い」と思える場所だったのだ。


 育てている作物が一風変わっており、大量の魔物が人間のもとで働いている。

 それだけでも異常なのに、施設は自然豊かな農園とは思えないほど充実していた。


 そして何より衝撃だったのは、これまで食べていたものが何だったのかと思わせるほどの、美味しい料理の数々。

 世界を巡り、「料理の美味しさではエルターネが一番」と自信を持っていたイザベラだったが、初めて自国を超える味に出会った。


 それも、エルターネより“少し”美味しいのではなく、飛びぬけて美味しかった。

 これだけでもローゼを連れていくには十分な理由だと考え、イザベラはいつも以上に熱意を込めてその魅力をローゼに語った。


 ――しかし、ローゼは変わらず断固として拒否。


 それでも、イザベラの熱意は伝わったようで、ローゼはほんの少しだけ興味を示した。

 何かしらのお土産で彼女の心を動かせれば、チャンスはある――そう考えていた矢先、エデルギウス山から夜刀神が訪れた。


 夜刀神がやってきたのには理由があった。

 どうやら、あの面白い農園でお祭りが開催されるという情報を持ってきてくれたのだ。


 ただのお祭りではローゼは興味を示さないだろうが、夜刀神の話すお祭りの内容はとても魅力的だった。

 何より、似た境遇の友人である夜刀神の言葉は、ローゼの心に深く刺さったようだった。


「…………そのお祭りに、行ってみたい……かも」

「おっ、ローゼも来たいのかの! ぬふふ! わらわが招待すれば、きっと来られると思うのじゃ!」

「ヤト様、ローゼ様を招待してくれないかしら?」

「うーぬ。もちろん招待してもよいのじゃが、ローゼは急に『行かない』って言い出しそうじゃからなぁ……!」

「……急に行かないなんて、言わない」

「ローゼ様もこう言っているし、お願いだから招待してくれない?」

「分かったのじゃ! ローゼはわらわの友達じゃから、特別に招待するのじゃ!」

「……ヤト、ありがとう」


 こうして、初めてローゼの口から「国外に行ってみたい」という言葉が出た。

 万全の体制を整え、農園のお祭りへ向かうことが決まった。


 他のエルターネの人々から反対の声も上がったが、イザベラがその意見を封殺。

 ローゼがお祭りに参加する方向で、ついにお祭り当日を迎えることとなった。


 当日になって「やっぱり行かない」と言い出すハプニングはあったものの、夜刀神とイザベラの尽力により、なんとかエルターネを出発。


 農園に到着してからは、それまでの心配が嘘のように、ローゼはお祭りを心から楽しんだ。

 イザベラは何度も涙をこぼしそうになりながら、初めての国外外出を終えることができた。


 本当に心の底から楽しめたようで、エルターネに戻ってからも、ローゼは何度も何度もイザベラとお祭りの話を繰り返した。

 賞品としてもらったラテセットを飲むたびにローゼは笑顔を見せ、くり抜いた団子の型は、家宝のように大切に飾られている。


 ――このお祭りをきっかけに、もっと外の世界に触れてくれるようになればいい。

 イザベラはそんな願いを抱きながらも、ただ幸せそうな笑顔を見せてくれるだけで、心の底から「良かった」と思えるのだった。



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