第201話 意外な一面
傘帽子を片手で持ち上げ、自信満々な笑みを浮かべている剣聖のフリースさん。
一つ気になるのは、シーラさんもピンと来ていなさそうなところ。
「すみません。私は存じあげないのですが……シーラさんは知っていますか?」
「帝国にそういう制度があり、剣聖がいるということは知っています。ただ、この方が剣聖なのかは分かりません」
「それは……少しショックだねえ。他国であろうと知られていると思っていたけど、少し思い上がっていたのが恥ずかしいよ」
フリースさんはドヤ顔から一転し、本当に少し恥ずかしそうに頭を掻いている。
この様子を見ても、剣聖を騙っているとは思えない。
「すみません。疑っているわけではなく、私は異世界から転移してきたばかり。そして、シーラさんは長いこと王城で働いていたので、あまり他国のことには詳しくないんです」
「ほー。道理で珍しい村だなぁと思っていたよ。魔物も普通に働いているしねえ。噂は期待はずれではあったけど、召還勇者さんに会えたのは良かったよ」
「あー、いえ、私は勇者じゃありません。勇者は別の方で、私はただ巻き込まれただけなんです」
そう説明すると、フリースさんはまたしても少しがっかりした表情を見せた。
先ほどから、ことごとく期待に応えられておらず、申し訳ない気持ちになってくる。
……いやまぁ、私が悪いわけではないんだけどね。
「そうだったのかい。勇者ならお手合わせをと思ったけど、確かに強さを微塵も感じないから変だと思っていたよ」
「……むぅ。言葉の端々に失礼さを感じます。そんなに戦いたいのであれば、私が相手致しますよ。全力で倒してあげます」
「いやいや。私は女性に手をあげるほど落ちぶれてはいないよ。失礼だったこと自覚はないけれど、失礼をしていたのであれば申し訳ないねえ」
帽子を取り、深々と頭を下げてきたフリースさん。
一般的には紳士と思われるその態度も気に入らないようで、シーラさんの目はキッとなっている。
「いやいや、謝らなくても大丈夫ですよ。それではもう帝国にお帰りなるんですか?」
「いいや、せっかくだから王都に寄ってから帰ることにするよ。古い友人がいるのと、私が聞いた噂の真相も知りたいからね」
「そうですか。それではお気をつけてください。もし王都までの道が分からない等あれば、お送りしますので言ってください」
「お気遣いありがとう。道は分かるから大丈夫だよ。邪魔してしまって悪かったねえ」
「またどこかでお会いした時はよろしくお願いします」
「ああ。こちらこそまた何かあったらよろしくお願いするよ」
傘帽子を被り直してから、片手をひらひらとさせて王都方面へと去っていたフリースさん。
そして、そんなフリースさんの後ろ姿に向かって、シーラさんは舌を出している。
「怪しいは怪しかったですが、剣聖っていうのは凄い方でしたね」
「その話も本当か分かりませんけどね」
「シーラさんは随分とフリースさんを嫌っていますね。態度が嫌でしたか?」
「態度もそうですが……朝から好戦的な圧を発し続けていたんです。それで、クロウやライムなんかはピリピリしていたんですよ。もちろん私もです!」
へー、そうだったのか。
それでクロウは近辺を飛んでいて、いつもは寝ているライムが畑の真ん中に鎮座していたって訳か。
私は怪しいなぁぐらいにしか思わなかったけど、実力者からしたら常に威圧されているように感じていたということ。
それなのに、紳士的な素振りであしらわれたから、シーラさんもムカッときちゃったって感じのようだ。
「私は全く気づきませんでした。圧に気づけるなんてシーラさんは凄いですね」
「凄くはないと思いますが、とにかくフリースって人は苦手です」
「シーラさんが苦手になった理由はよく分かりました。ちなみに剣聖かどうかを疑っていましたが、実力が大したことないように思えたってことでしょうか?」
「……いえ、実力は間違いないと思います。圧の放ち方が常人ではありませんでしたので。ただ、性格が嫌なので、剣聖であってほしくないっていう私の願望です」
「なるほど。本当に苦手なんですね」
「はい。大臣……よりは苦手ではありませんが、その次くらいに苦手な人物になりました」
再び去っていた方角に向かってべーっと舌を出してから、シーラさんは農作業に戻っていった。
嫌われたフリースさんには申し訳ないけど、私はシーラさんの珍しい一面が見ることができて嬉しい。
……と、シーラさんのことは一度置いておいて、フリースさんについて改めて考えたい。
フリースさんが言っていた強いドラゴンというのは、多分だけどヤトさんのことだよな?
どこで噂を聞いたのか分からないけど、帝国まで轟いているのには驚いた。
本当にもうただの友達って感じだし、強いドラゴン感はゼロ。
何なら最弱のイメージしかないけど、本来のヤトさんは夜刀神という有名なドラゴン。
フリースさんは怪しかったけど、聞き分けの良い方だったが、これから変な人が来る可能性もある。
今更どうこうできるわけではないけど、少し気をつけた方がいいのかもしれない。
今回の一件でそう思えた私は、もう少しだけ気を引き締めることを決意した。
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