第16話 剣選び
「佐藤さん、良かったですね。遠慮なく一番高いものを貰っていきましょう」
「いやいや! 流石にそんな選び方はできませんよ。ちゃんと気に入ったものを選ばせてもらいます」
「ふふ、佐藤さんはそういう方ですよね。そういうことでしたら、私の方から少しアドバイスをさせてもらいます。一番のお勧めは短剣。素人でも扱いやすいですし、使い勝手もいいので。次点で槍のような長物。リーチが長い武器は有利に立ち回れますからね。ただ、その分重いのが難点です」
短剣か槍か……。
私も一番使いやすいのは短剣だと思っている。
使い方としては駄目かもしれないけど、農作業にも使えそうな感じもあるしね。
ただ、私が一番気になっているのは、一番最初に手に取った鉄の剣。
気を使って最低品質のものを選んだ――とかではなく、一番かっこいいと思えたのがこの鉄の剣なのだ。
そもそも一番扱いやすいであろう短剣ですら扱える未来は見えないし、何を選ぼうが扱えないのであれば見た目で選ぶのがベストだと私は思った。
「…………色々悩みましたが、私はこの鉄の剣を頂くことにしました」
「えっ!? 格安の剣でいいのですか?」
「はい。一番見た目が好みでしたので、これがいいなと思いました」
「気を使っている――というわけでもなさそうですね。うーん、佐藤さんは本当に読めません。決心が固いようでしたらロッゾさんを呼んできます」
「はい。気持ちが変わることはないですね」
「分かりました。少し待っていてください」
シーラさんはロッゾさんが消えていった店の奥に向かうと、すぐにロッゾさんと共に戻ってきた。
「なんだ? もう決まったのかよ!」
「はい。この剣を頂くことにします」
「それって、一番最初に見ていた最低品質の……。おい、シーラ。佐藤さんとやらは随分と変わっているな!」
「はい。お陰さまで護衛をしていて毎日が楽しいです」
「がっはっは! そうか、毎日が楽しいのか! あのシーラがそんなことを言う日が来るとは思ってなかった! とにかくその剣で良いなら構わねぇ! 後もうひとつくれてやるから、ちょっと待ってろ!」
ロッゾさんはそう言うと、レジ横にある棚を漁り、何かを持ってきてくれた。
ネックレスのようにも見えるけど、実際になんなのかは私には判別できない。
「これもくれてやる! せっかく奮発した気でいたのに、格安の剣だけじゃ俺が気持ち悪いからな!」
「これも貰ってしまっていいのですか?」
「何かは聞かねぇでくれよ! とにかく大事に使ってくれ!」
「あ、ありがとうございます」
押し付けるように渡されたのは、ロケットペンダントのようなもの。
ただし力を込めても開く気配がなく、どう使えば良いのかさっぱり分からない。
「シーラも武器のメンテナンスが必要なときはいつでも来い! 俺が見てやるから!」
「ありがとうございます。また必ず遊びにきますね」
「おう! 佐藤さんもいつでも来いよ!」
「はい。必ずまた来ます。今日は本当にありがとうございました」
ペンダントは謎のままだが、とにかくロッゾさんにお礼を伝えてから、私達はロッゾさんのお店を後にした。
最初は豪快な性格故に少し怖かったけど、本当に優しい人だったな。
「良いお店を紹介して頂き、ありがとうございました。剣も譲り受けることができましたし、一生の思い出になりました」
「ここまで待遇してくれるとは私も思っていなかったですりロッゾさんに感謝ですね」
「はい! ちなみにですが……このペンダントが何かをシーラさんは知っていますか?」
「いえ、全く分かりません。ただ、ロッゾさんのことですから、ただのペンダントってことはないと思います」
「なるほど。価値のあるものではあるって感じなんですね」
「はい、恐らく。あまり気にせず、お洒落感覚で首からぶら下げておけばいいと思います」
「ですね。考えても分からないと思いますし、そうさせてもらいます」
こうして武器屋を後にした私達は、次なるお店を目指して歩を進めた。
ロッゾさんもそうだったけど、この世界の人達は本当に優しい人ばかり。
ブラック企業で壊れかけていた心が癒されるのを感じながら、私は王都散策を心の底から楽しんだのだった。
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