第168話 誇らしい気持ち
その日の夜、私はベルベットさんの描いた漫画を分かりやすいところに置き、みんなの反応を窺うことにした。
当の本人であるベルベットさんは、恥ずかしいという理由で別荘の部屋に籠っている。
せっかくなら一緒に反応を見たかったけど、良い反応だったら呼びに行ってあげよう。
そんなことを考えつつ、私は娯楽室で素知らぬ顔をしながらゲームを行った。
最初にやってきたのは、シーラさんとヘレナだった。
いつものようにスマブラをやりに来た様子。
「すぐに終わらせますので、漫画でも読みながら、少し待っていてください」
「気にしなくて大丈夫ですよ。漫画は読ませて頂きますが」
「マスター、私に動きを教えてください。最近、またシーラさんとの戦績が悪くなってきたんです」
シーラさんは漫画棚へと向かい、ヘレナは私の横に座った。
ヘレナがこっちに来たのは想定外だけど、分かりやすく置いたからシーラさんの目には止まるはず。
「構いませんよ。でも、私も詳しい訳ではないですが大丈夫ですか?」
「もちろんです。基礎を教えてください」
「あの……佐藤さん。この紙に書かれた漫画はなんですか?」
シーラさんが早くも食いついてくれたことに、私はガッツポーズをしそうになる。
ただ、態度には絶対に出してはいけないため、なに食わぬ顔で返事をした。
「あー、それは私の友人が描いた漫画なんですよ。よければ読んでもらえますか?」
「佐藤さんの友人ですか? ……あー、異世界の友人が描いた漫画なんですか」
「まぁ……そんなところですね」
「お友達に漫画を描ける人がいるって凄いですね! 早速読ませて頂きます」
「ありがとうございます」
私もヘレナへのスマブラ指導を始めたんだけど、ベルベットさんの漫画を読んでいるシーラさんが気になって集中できない。
熱中して読んでいるように見えるし、手応えは悪くない……はず。
「マスター、このコンボで合っていますか?」
「あー、もう少しタイミングを遅く入力してください」
「こ、こう? む、難しいです!」
ヘレナに即死コンボを教えていると、後ろで漫画を読んでいたシーラさんが突然立ち上がった。
どうやら漫画を読み終えたようだ。
「シーラさん、読み終わりましたか? どうでした?」
「凄く面白かったです! 若干の読みづらさはありましたけど、絵も上手で内容も100点でした! 短くまとめられている漫画もあるんですね」
「褒めてくださり、ありがとうございます。その漫画を描いた私の友人も、きっと喜ぶと思います」
「これは……無類の漫画好きであるベルベットさんにも読んでもらいたいですね! どんな評価を下すのかとても気になります。ちょうど遊びに来ていることですし、私呼んできますね!」
「あ、あー、いや、私が呼んできます。ヘレナとゲームをやってください」
「いいのですか?」
「はい。もちろん構いません」
少し困惑しているシーラさんに私は席を譲り、急いでベルベットさんの下に向かった。
私のことではないんだけど、自分のことのように嬉しい。
久しぶりにスキップをしながら、私はベルベットさんの部屋にやってきた。
ノックをするとすぐに返事があり、部屋の中に入る。
「よ、読んでもらえたの?」
ベルベットさんは何をするでもなく、部屋の真ん中で正座の状態で座っていた。
娯楽部屋に来はしなかったけど、物凄く気になっていたのがこの姿からよく分かる。
「はい。まだシーラさんだけですが……大絶賛していましたよ!」
「ほ、本当に!? ま、まぁ不評じゃなかったなら良かったわ」
すぐに取り繕った様子を見せたけど、表情は緩みきっているため、嬉しいのが隠しきれていない。
「絶賛じゃなく、大絶賛ですよ! 何故か私が誇らしかったですもん」
「何で佐藤が誇らしいのよ。……でも、ありがとう。本当に貴重な経験をさせてもらっているわ」
「こちらこそありがとうございます。今後も創作活動を続けていくのであれば、全力で応援しますので」
「もうやめられないと思う。だから、これからもよろしくね。それで……佐藤はその報告を私にするために抜けてきたの?」
「あー、完全に目的を忘れていました。シーラさんがベルベットさんに漫画を読んでもらいたいということで、私が呼びに来たんです」
「……へ? 私が、私の描いた漫画を読むってこと?」
「シーラさんが描いたことは伏せていますからね。シーラさんが、漫画好きのベルベットさんに読んでもらいたいって言っているんです」
「絶対に無理! どんな羞恥プレイよ!」
ベルベットさんは断固として拒否している。
自分が描いたことを明かせないのに、人前で自分の漫画を読むのは難しいか。
「それぐらい褒めているってことでもあるんですけどね。それでは寝てしまっていたってことにしますか?」
「シーラには悪いけど、そうしてくれる? ただ、ありがとうとは伝えておいて」
「いや、無理ですよ。寝ているってことにするんですから。それに起きていたことにしても、ありがとうはおかしいです」
「確かに……。今のはナシでお願い」
「ええ。感謝は自分が描いた漫画と明かした時に、ベルベットさんから直接伝えてください」
「……うん。いつか明かすときに自分で伝える」
そう伝えてから、私は未だに正座のベルベットさんと別れ、娯楽室へと戻ることにした。
今回の件で他の人に漫画を見せて良かったと、ベルベットさんがそう思ってくれていたらいいな。
※作者からのお願い
一日一話投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで少しでも「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ
つまらないと思った方も、☆一つでいいので評価頂けると作者としては参考になりますので、是非ご協力お願いいたします!
お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ





