第159話 騒ぎ
ダグラスさんから貴重な話を聞くことができたお陰で、今はルーアさん達と水棲の魔物を狩る計画を立てながら動いている。
もちろん農業が生活の中心だけど、お風呂を作る時と同じように、他の部分で計画を立てるのも非常に楽しい。
水の中にも対応できるように、魔道具でダイビングのような装備が作れないかをロッゾさんとシッドさんに相談したところ、作れる可能性があるとの返事を頂いた。
お風呂の温度調整の魔道具を作ってくれた方が今回も担当してくれるようで、この魔道具師さんにはいずれお礼をしたいところ。
何だったら、この別荘付近に引っ越してきてほしいところだけど……。
ロッゾさん曰く、未だに人気の魔道具師さんらしいから難しそう。
とりあえず、水棲の魔物を狩る計画については魔道具次第となっているため、今は返答待ち。
私は私にできる農業に専念しつつ、いつもの平和な日常を送っていたのだけど……何やら裏山が騒がしい。
「佐藤さん、何だか裏山が騒がしいですね」
「一体何があったんでしょうか? 朝からライム達が遊びに出ていて、ブリタニーさんがそのライム達を探しに行ったところだったんですが……何かあったのかもしれません」
何と言っているかは分からないけど、ブリタニーさんが叫んでいる声がここまでしっかりと聞こえてきている。
何か事件があったと考えるのが普通だけど、平和な裏山で事件が起こるとは考えづらい。
ここで待っていても大丈夫だと思うけど、念の為様子を見に行こう。
そう決めた私は作業を一時中断し、シーラさんとヘレナに護衛をしてもらいながら、裏山に行ってみることにした。
畑から声が聞こえたということは、そう遠くないと思っていたんだけど、予想していたよりも遠い場所にブリタニーさんの姿が見えた。
ここから畑まで聞こえる声量を出していたと考えると、相当な事件だったのかもしれない。
「ブリタニーさん、大丈夫ですか? 畑まで声が聞こえたので駆けつけたのですが……えーっと、何をしているんですか?」
「いいから佐藤達も引っ張っておくれ。ライムが全然離れないんだよ」
ブリタニーさんは、ライムから生えている足を持ち、必死に引っこ抜こうとしていた。
そのあまりにもな光景に、一瞬何が何だか分からなかったけど、ブリタニーさんの発言も合わせて、ライムが人らしき生物を捕食しようとしているということが思い浮かんだ。
「あっ、ライム! ちょっと食べるのをやめてください! その方は人の可能性があります!」
慌ててブリタニーさんの元に駆け寄り、私も足を持って引っ張ろうとしたのだけど――全然抜けない。
上半身がしっかりとライムに埋まっており、ビクともしないのだ。
私が焦っている中、冷静だったヘレナが何かに気づいたようで、引っ張ろうとしている私の方を止めてきた。
「マスター、ちょっと止まってください。何だか様子がおかしいです」
「おかしい? おかしいって何がおかしいのでしょうか」
「ライムの友達がこっちに向かってきているのですが、薬草を持ってきています」
ヘレナが指差す方向に視線を向けると、確かに小川方面からこちらに向かってきているスライム達は頭の上に薬草を乗せながら走っていた。
……もしかして、捕食しようとしている訳ではないのか?
「ブリタニーさん! 足を引っ張るのをやめてください!」
「急になんだい! 早く助けないと死んぢゃうかもしれないよ!」
「その逆です! もしかしたらライムは、その方を助けようとしているのかもしれません」
私のその言葉を受け、ようやく引っ張るのを止めてくれたブリタニーさん。
そして、引っ張るのを止めたのと同時に到着したスライム達が、ライムに薬草を渡しに行った。
ライムは受け取った薬草を器用に体の中で溶かすと、上手いように体に埋めている方の周りにまとわりつかせた。
表現が合っているのか分からないけど、メディカルマシーンみたいな感じなのかもしれない。
野生のスライムは、小さい子供を食べてもしまうとシーラさんから聞いていたから焦ったけど、ライムは決してそんなことしない。
ここはライムを信じ、様子を見るべきだ。
治療を行っているであろうライムを待つこと約十五分。
ライムは体の中に埋めていた人をゆっくりと離し、出てきたのは捻れた角の生えた女性の方だった。
ただ、ヤトさんやアシュロスさんのようにパッと見は人間って訳ではなく、肌が青っぽいこともあって一目で人間ではないことが分かる。
……いや、ドワーフの例もあるし、まだ人間じゃないと断言はできないか。
なんというか、キリッとした大きな目なのが目を瞑っていても分かるし、筋肉質でありながら胸も大きい。
耳も長い気がするし、ダークエルフの可能性も出てきた。
「ライム、この方を治療してくれていたのですか?」
私がそう問いかけると、ライムは頷くように体をぴょんぴょんと跳ねさせた。
やはりライムは人助けをしていたみたいだ。
「そうだったのかい。疑ってすまなかったね」
「私も一瞬疑ってしまって申し訳ありません」
謝る私とブリタニーさんに対し、気にしていないと言わんばかりに体を擦り寄せてきた。
ライムはやっぱり可愛いし、優しいスライムだな。
ライムの行動にほっこりしつつも、1つの疑問が浮かび上がってくる。
それはこの青っぽい肌の方が誰なのか。
ライムに尋ねてみたんだけど、どうやらライムも知らないみたい。
裏山で遊んでいたところ、倒れているのを発見した――ということをジェスチャーで教えてくれた。
立地上、この裏山に紛れ込む前に、私たち別荘が先に辿り着くはずなんだけど……。
ヤトさんのように飛行できる例もあるからなぁ。
とりあえず、この方から直接お話を聞かないと分からない。
ブリタニーさんとシーラさんが交代交代で眠っている女性を背負い、私達は一度下山することにしたのだった。
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