第138話 バランスの良さ
私達がダンジョンにやってきてから数時間後、遅れてやってきたヤトさんとアシュロスと合流することができた。
ダンジョン街までやってこられるのか心配だったけど、アシュロスさんの案内で迷わずに来ることができたらしい。
空を自由に飛べることからも早々迷わないとのことだし、やはり翼があるのは非常に羨ましい。
アシュロスさんの【龍化】状態とやらも見てみたいなんて思いつつ、各々ダンジョンに潜ることとなった。
ダンジョン攻略が初めてのルーアさんパーティ、ポーシャさんパーティ、ヤトさんパーティの3パーティは、今日は蓮さん達にレクチャーを受けながら潜るようで、入口で別れた。
私とシーラさんが経験者ということもあり、私達のパーティだけ先に潜らせてもらうことになった。
「久しぶりのダンジョン……ワクワクしますね!」
「ですね。私なりに頑張ってきたつもりですので、魔物を1匹は倒したいです」
「マスターのことを全力でサポートさせて頂きます!」
早々に今回の目標を発表したものの、私の役割は前回同様に荷物持ち。
登山用の大きなリュックサックを持ってきているため、大量のドロップアイテムを持って帰る準備が整っている。
魔物を倒すチャレンジは別でさせてもらうとして、とりあえず20階層を潜ることを目標に今回は進む予定。
シーラさんにヘレナ、それからスレッドもいるため、前回よりも楽に攻略はできるはず。
そんな攻略前の予想通り、前回の最高到達階層であった10階層までは楽々到着。
丸1年間ダンジョンには潜っていなかったけど、2ヶ月間ひたすらに籠もっていただけあって、体はしっかりと覚えていたのが良かった。
魔法を扱えるヘレナも心強いし、ダンジョン内では真価を発揮できているスレッドの力も大きい。
最近は明るい時間帯の弱化しているスレッドしか見ていなかったこともあり、ここまで強くなっていることに驚きを隠せない。
「ふぅー。ミノタウロスも撃破です」
「シーラさんもヘレナもスレッドも強いです! 安定しすぎていましたね!」
「マスターの前で、ミノタウロスに苦戦なんてことはできません」
ヘレナが魔法で蹴散らしたということもあり、本当に心強い言葉。
今日は10階層までしか潜る予定はなかったけど、もう少し進んでもいいかもしれない。
「ヘレナが仲間で本当に良かったです。それでですが……ここからどうしましょうか? 予定ではこの階層まででしたが、もう少しだけ進んでみますか?」
「私は進んでいいと思います。時間的にも過去最速のペースで来られていますし、体力的な余裕もありますからね」
「私はマスターにお任せ致します」
「それでは今日は13階層まで行きましょうか。油断だけはせずに進みましょう」
ということで、初日から最高到達階層を超えることになった。
未知の領域ではあるけど、蓮さん達の話を聞いた限りでは問題ないと思う。
役割はミノタウロス戦と同じで、リーダー兼メインアタッカーがシーラさん、タンクをスレッド、補助サポート兼魔法攻撃がヘレナ、そして荷物持ちが私。
戦力的な部分では役に立たないのは申し訳ないけど、ダンジョン攻略において荷物持ちは絶対に必要な役職。
全力で荷物持ちに徹しながら、心強い3名をしっかりと支える。
去年以上に役割もしっかりしていることもあってか、11階層からも特に苦戦することなく進むことができ、目標であった13階層にも難なく到着することができた。
「13階層も難なく来れましたね。ドロップアイテムもかなりいい感じですよ」
「感覚的にヘレナが予想以上に大きいですね。去年は飛行する魔物に足止めされていましたけど、魔法で撃ち落としてくれるので私も楽に戦えています」
「マスターも大きくはありますが、私はスレッドが一番大きいと思います。ここまで私の下まで魔物が来ておりませんので。スレッドが全て食い止めてくれています」
その言葉を受けたスレッドが、今度は私を指差して何度も頷いてくれた。
どうやら褒めてくれているみたいだけど、私に関しては何もしていないからなぁ。
ただ、そんなスレッドの気遣いは非常に嬉しい。
各々感じ方は違うようだけど、全員が全員を褒め合っていて非常にいい雰囲気だ。
「まだ初日ですし私は後ろから見ているだけですが、雰囲気も最高ですしバランスも抜群。この調子であれば、目標の20階層は到達できそうですね」
「マスター、今日の内に達成してしまいますか?」
「いえ。流石に今日はここで引き返しましょう。感覚的にもまだいける感じはありますが、冬季期間は長いですし安全第一をモットーに動きたいので」
「私も佐藤さんの提案に賛成です。ダンジョン攻略でケガをするのが一番駄目ですから」
シーラさんも賛同してくれたことで、今日の探索は13階層で引き上げることになった。
最高到達階層を更新していながら、時間的にもまだまだ余裕がある。
雰囲気も良いことがあって、つい気が緩んでしまいそうだけど、ダンジョンに出るまでは絶対に気は抜かない。
いつモンスタールームが出現しても対応できるように、私たちは周囲に目を光らせながら帰還することにしたのだった。





