第137話 一年ぶりのダンジョン街
1週間が経過し、この間に辺り一面雪景色となった。
雪が降るタイミングを予見できていたため、ダンジョンへ向かう準備は既に整えてある。
居残り組へのお願いも済ませてあり、雪の中でも移動が可能なスノーディアの馬車も手配済み。
ダンジョン攻略を行う組は馬車に乗り込み、早速ダンジョン街へと向かうことになった。
「それではシッドさん。私達がいない間のことはよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ。できる仕事も行っておくからよ」
「本当に助かります。ニカ月後辺りに帰ってきます」
「わかってるよ。しっかり稼いでこい」
出迎えに来てくれたシッドさんとそんな別れの言葉を交わしてから、1年ぶりのダンジョン街へと出発した。
馬車の中は意外にも緊張感が漂っており、私も結構緊張している。
「佐藤さん、随分と固くなっていますね。久しぶりのダンジョンだから緊張しているのですか?」
「ダンジョンが怖いというよりも、この1年間の成果を発揮できるかどうかに対して緊張していますね」
人というものは、自分の実力以上のものを見せようとする時に緊張する。
今の私はそれに当てはまっており、今から魔物が倒せるのかどうかで緊張している。
「マスターは私がお守り致しますので安心してください」
「いえ、佐藤さんを守るのは私です」
「いいえ、私がお守りします」
変なところでバチバチであり、互いに睨み合っている状態。
いつものことなんだけど、今回ばかりは同じパーティな訳だし、手を取り合ってほしいな。
「2人の気持ちは嬉しいですが、仲良くいきましょう。2ヶ月間は同じパーティとして動きますからね」
「ダンジョンではシーラさんとも手を取り合います」
「私も、その辺りの心得はあります。ただ、佐藤さんをお守りするのは私ということだけですね」
「いいえ。マスターは私がお守りします」
本当に分かっているのか問いただしたいけど、気合いは十分なのが伝わってくる。
実力を考えても、シーラさんとヘレナがいれば大丈夫とわかっているし……まぁ大丈夫なはず。
そんな2人のバチバチなやり取りを聞いている間に、あっという間にダンジョン街へと到着した。
馬車から外に出ると、美香さん達が出迎えてくれており、模擬戦大会以来の久しぶりの再会となった。
「佐藤、久しぶり! 元気そうでよかった!」
「本当にお久しぶりですね。全然遊びに来てくれなかったので寂しかったです」
「俺達も遊びに行きたかったんだけど、ドニーさんが思いのほか厳しくてな」
「そうそう! 楽しかったけど、佐藤のところに戻る暇が本当になかったの!」
「本当にスパルタスケジュールでしたね。加減はしてくれていたみたいですけども」
4人共に頷きながら話していることから、本当に戻る暇なく鍛錬を積んでいたことが分かる。
私は自由な身だけど、4人はあくまでも勇者なのだろうな。
「元気そうで安心はしましたが、しっかりと休みを取ってくださいね。週休2日が取れない場合は私に言ってください。ドニーさんにガツンと言わせて頂きますので」
「ふふ、佐藤はやっぱ変! ちゃんと休みは貰ってるから大丈夫だよ!」
「長期休暇がもらえなかっただけだな! 佐藤さんの考えが浸透しているなか知らないけど、スパルタでありながら休憩や休みはくれてたから大丈夫!」
「それなら良かったです」
蓮さん達の近況を聞き、ホッとすることができた。
ドニーさんが上手いことやってくれているようで一安心。
「ちゃんとクリスマスパーティーは行ってもいいって言われてるから、その時に1週間くらい泊まらせてもらうよ!」
「その予定なんだけど、今年もクリスマスパーティーは開催するって認識で大丈夫なのか?」
「もちろん開催致しますし、1週間でも泊まっていってください! 色々と進化していますので、きっと楽しんでもらえると思います」
「マジか! めっちゃ楽しみだわ! 俺達はクリスマスパーティーをモチベーションに頑張っていた部分が大きいからな!」
「ですね。去年は本当に楽しかったので、それだけで頑張る気力になっています」
「そう思ってくれているだけで、本当に良かったです」
4人の支えになるのであれば、毎年必ずクリスマスパーティーを開催するつもり。
私自身も凄く楽しいし、冬季期間の唯一の催しものと言っても過言じゃないからね。
私は蓮さん達と久しぶりの再会を喜びながら、ひとまず宿屋へと向かうことにした。
宿自体は蓮さん達が取ってくれていたみたいで、すんなりとチェックインすることができた。
あとは……ヤトさんとアシュロスさんが来次第、ダンジョン攻略のスタートだ。