第12話 話し合い
楽しい時間というのはあっという間に過ぎていく。
5000NPを貯めなくてはと思っていたばかりだったのに、気がつけば所持NPは既に6024。
農地拡大したことで更に効率が上がり、僅か20日で目標だった5000NPが貯まってしまった。
「佐藤さん、おはようございます。もう朝ご飯ができていますよ」
いつものようにリビングへと向かうと、シーラさんが既に朝ご飯を作って待ってくれていた。
楽しくもあり、幸せでもあるシーラさんとの田舎暮らし。
ずっとこのまま護衛してほしいと思っているが、シーラさんの希望は戦闘職であり前線で戦うこと。
私の我儘にこれ以上付き合わせる訳にはいかないからな。
「シーラさん、朝ご飯を食べながら少しお話があるのですがよろしいですか?」
「お話……ですか? もちろん構いませんよ」
何のことだか分からないようで、小首を傾げているシーラさん。
俺はそんなシーラさんと向かい合うように座り、食事を頂きながら早速話を切り出すことにした。
「実はなのですが、昨日時点で5000NPが貯まりました。護衛となるシルバーウルフを買うことができますので、近い内に一緒に王都に行きましょう。そこでシーラさんの護衛を解いてもらうように王様に伝えます」
「えっ!? ……もう5000NPが貯まってしまったのですか?」
「農業にも慣れてきましたし、スキルを強化した影響もあって効率が上がりましたからね。それもこれもシーラさんのお陰です。護衛だけでなく農業の方まで手伝って頂き、本当にありがとうございました」
「お礼を言われるようなことは……決してしていません。私は……王都に戻ることになるのですね」
そう呟いたシーラさんの言葉からは、私にはどこか残念そうに聞こえた。
「前にも言いましたが、ここにはいつでも遊びに来てくださって構いませんので。きっと暇していると思いますから」
「……はい。遠慮なく……遊びに来させてもらいます」
まだそれほど時間が経っていないとはいえ、二人だけで過ごしたこともあって寂しい気持ちが強い。
本当は引き留める交渉をしたいが、優しいシーラさんならば嫌だったとしても引き受けてしまうだろう。
別荘に来る道中での会話は忘れられないし、シーラさんも寂しいと思ってくれていたとしても……私からその提案をすることはできない。
ブラック企業で働いていた時、私は一度たりともサービス残業を断ることができなかった経験があるからな。
「ということですので、最後まで楽しく過ごしましょう。最終日にはこれまでのお礼も兼ねて豪勢な異世界料理を振る舞いますので」
「……はい。楽しみ……にしております」
異世界料理というワードを出したのだが、シーラさんのテンションが上がることはなかった。
それから朝食を食べ終え、二人で農作業を行ったのだが、シーラさんは暗いままで少し気まずい空気が流れている。
そんな私とシーラさんを見て、ライムが困ったようにぽよぽよと跳ねており、大丈夫という意味も込めて軽く撫でてあげる。
ちなみにライムは購入した時よりも二倍ほど大きくなっており、ゴムボールのように硬くなることもできるようになった。
そのお陰でこうして触れることができるし、ライムの上に乗ることもできる。
……まぁ私が上に乗ってしまうと移動ができなくなるため、乗る意味は特にないんだけども。
そんなこんなライムと触れあいながら、何とか今日の作業を終えることができた。
作業はいつもより時間がかかってしまったし、依然として気まずいままなのが少し苦しいな。
「シーラさん、先に戻って夜ご飯の支度をしていますね」
なんて声掛けていいのかも分からなかったため、私はそうとだけ言い残し、一人先に戻ろうとしたのだが……。
「佐藤さん、ちょっと待ってもらってもいいですか?」
背後からシーラさんに呼び止められてしまった。
何だか数日ぶりに会話をしたような感覚。
「もちろんです。何かありましたか?」
「はい。この別荘に来る馬車の中で王都へ戻りたいと言ったと思うのですが……やはりもう少しここにいさせてはくれませんか?」
シーラさんから発せられた言葉は私の想像していた言葉とは違い、思わずフリーズしてしまう。
もう少し居てくれると言ってくれた――で合っているよね?
頭の中で先程のシーラさんの言葉を思い出し、何度もリピートさせる。
……うん。確実にここに居させてくださいと言っていた。
てっきり別れの挨拶をするのだとばかり思っていただけに、返答の言葉がスッと出てこない。
「……やはり駄目でしょうか?」
「――い、いえ。駄目なことはないですよ。予想に反したことでしたので、少し固まってしまいました。私は嬉しいのですが、シーラさんは王城に戻らなくていいのですか? 私は王様に口利きする気満々だったのですが」
「それはここ最近ずっと悩んでいました。戦闘職に就きたいというモチベーションで、私は王城で働いていましたので。……ただ、ここでの生活は本当に楽しく、戻らなくてはいけない日が近づくにつれて、戻りたくないという気持ちが強まりました」
シーラさんは俺の目を真っ直ぐ見て、そう言ってきた。
「そこまで思って頂けているのは光栄ですが……そんなに思い詰めないでくださいね。本当に緩い感じですので、気の済むまでここにいて、王城に戻りたくなったら戻ればいいんですから」
「ありがとうございます。てっきり……私には早く王城に戻ってほしいのかと思っていました」
「そんなことありませんよ。私の方こそ、シーラさんは早く王城に戻りたいのだと思っていたぐらいです」
「来たばかりの頃はそう思っていたはずなんですけどね。とにかく本当にありがとうございます。佐藤さんには頭が上がりません」
「私も同じくシーラさんには頭が上がりません。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
そこからはぺこぺことお互いに頭を下げあった。
暗かった雰囲気もなんとかなりそうだし、シーラさんがもうしばらくここに残ってくれる。
これ以上ないことに、私は頬が緩むのを抑えられない。
「あの……一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。なんでしょうか?」
「豪勢な異世界料理でのお見送りはなし……ですかね?」
申し訳なさ半分、期待半分といった表情でそう尋ねてきたシーラさん。
王都に戻らないのであれば、送別会を開くことはできないが、豪勢な食事を作ってあげることはできる。
護衛役のシルバーウルフを買う必要もなくなった訳だしね。
「お見送りはしませんが、決起会として豪勢な料理を作ります。シーラさんがいれば護衛はいりませんし、浮いた分のNPで色々買えますからね」
「本当ですか!? 凄く楽しみです!」
「期待していてください」
「はい!」
そしてお互いに笑顔で話し合いは終了。
色々あったけど、最高の結果で終われて本当に良かった。
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