第11話 スライム
「なるほど。そういうことだったのですね」
「ご心配かけてすみません。そういうことですので、このスライムは安全なんです」
「事情は分かりました。……が、そういうことをするのなら、事前に私に言っておいてください! 心臓が飛び出るかと思ったくらい驚いたんですからね」
「すみません」
私は一から十まで説明した後、シーラさんに平謝りした。
事情は分かってもらえたが、シーラさんの言う通り先に説明するべきだった。
「分かってくれたのでしたら、もう謝らなくていいです。それにしても……本当に佐藤さんのスキルは凄いですね。作物を育てることで魔物まで仲間にできるんですもんね」
「スライム一匹を従魔にするのに500NP。つまりクラックドラフが250個必要ですので、対価に見合っているのかは微妙なところだと思いますけどね」
「成長が早いので250個でも安いと思います。更に異世界の食材も買えるんですもんね。それだけで価値がありすぎるくらいです。ちなみにですが、王城からクラックドラフを持ってきた場合、そのクラックドラフはNPとやらに変えることはできるのですか?」
私のスキルが気になるようで、興味津々に色々と聞いてくるシーラさん。
「NPに変えることができるのは、この畑で育てたもののみですね。シーラさんが持ってきた食材を一ついれてみたことがありますが、何の反応もなかったので間違いありません」
「なるほど。農業を頑張るしかないということですね」
「そうですね。あと5000NP貯まれば、護衛となる魔物を従魔にするつもりですので、シーラさんを私の護衛から解放することができると思います。ですので、5000NP貯まるまではよろしくおね――」
そこまで言いかけたのだが、私はシーラさんの表情が暗くなったことに気がついて言葉を止めた。
急に表情が暗くなった理由が一切思い当たらない。
5000NPという数字に絶望した感じだろうか。
……いや、確かに5000NPは高いけど、農地も拡大したしクラックドラフ2500個の収穫はそう先の長い話ではないはず。
「……どうしましたか? 急に暗い顔になりましたが、5000NPは多かったでしょうか?」
「いえ。全然そんなことありません。むしろ……少な過ぎたぐらいです。まだ佐藤さんとは長い付き合いではありませんが、ここでの暮らしを気に入っていましたので、つい寂しく思ってしまったのが表情に出てしまったのかもしれません」
「そういう理由だったんですね。シーラさんが寂しいと思ってくれたのは嬉しいです。ですが、今生の別れって訳ではありませんし、王様がこの別荘を貸してくれる間はここに居続ける予定ですので、護衛の任が解かれた後も気軽に遊びに来てください」
「いつでも来ていいのですか? そういうことでしたら……少しは寂しさも紛れた気がします」
そうは言ったものの、シーラさんの表情は依然として暗いまま。
そんな悲しむ顔を見て、シーラさんが私と同じように寂しがってくれていることが知れて嬉しいと思ってしまっているのは……私は酷い人間なのかもしれない。
「ええ。一人暮らしで寂しくなるのは確実ですので、私のためにもいつでも来てください。――って、おお。シーラさん、見てください! ライムがゴミ袋をもう食べてしまいました」
「本当ですね。……スライムってよく見ると可愛いかもしれません」
シーラさんも私の横で屈み、ゴミを食べているライムの観察を行い始めた。
何だか不思議と癖になる感じがあって、俺もつい見入ってしまう。
「シーラさんはスライムの情報とかって持っていますか? 従魔にしたはいいのですが、どこに住まわせるのかとかも分からなくて」
「どこに住まわせるのがいいかとかは……すみませんが私も分からないですね。私が知っているのは戦闘に関する情報だけです。スライムはゴブリンに並ぶ最弱の魔物の一匹として名高い魔物でして、攻撃方法は自身の体に包んで溺死させるという方法のみです。通常種は毒とかも持ち合わせていませんが、ゲル状ですので小さい子供とかは極稀に死亡してしまうケースがありますが、数十年に一度あるかないかですね」
「自分の体で溺死させるって感じですか。見た目に寄らず、意外と残酷な殺し方をするんですね」
「ふふっ、魔物なんて大抵は残酷な殺し方をしてきますよ。それにしても人に従う魔物は初めて見ました」
先ほどまでの暗い表情は消え去っており、ライムのお陰で少し笑顔も戻った。
ホッと一安心しつつ、私は更に質問をしてみる。
「魔物を従える人っていないのですか?」
「いえ、魔物使いやモンスターマスターという職業の方は魔物を従わせることができるみたいです。ただし、かなり珍しい職業ですので見かけることはないですね」
「へー。それでは私の職業は【農民】ですが、【魔物使い】も含まれているって感じなんですかね」
「それだけでは留まらないと思いますよ。先ほど軽く聞いただけですが……佐藤さんと一緒に転移されてきた人達よりも、はるかに優れているのではと私は思いました」
「流石にそれはないと思います。私の能力値は教えた通りですし、ファングディアに腰を抜かしたところを見られたと思いますが……戦闘に関してもからっきしです。」
「ふふっ。……た、確かにあの時は少し――ふふ、酷かったですね」
私がファングディア相手に腰を抜かした時を思い出したのか、完全に笑い始めたシーラさん。
何とか笑いを堪えてくれようとはしてくれているが、全然堪えられていない。
自分でも酷かったと思うぐらいだから、あれだけ華麗に戦うことのできるシーラさんからしたら余程の面白シーンだったと思う。
ここまで笑われると少し恥ずかしくなってくるけど、シーラさんが笑顔になってくれるならいいか。
「そういうことですので、私にできるのは農業をして生活を少し豊かにするくらいですよ」
「それは素晴らしいと私は思いますけどね。異世界料理も本当に美味しいですし」
「シーラさんに喜んでもらえているのが何よりです。また美味しいものを作りますね」
「はい。本当に楽しみにしております!」
よだれを拭きながら、目を輝かせてそう言ったシーラさん。
俺はその顔を見て笑いながら、もうしばらくだけライムの食事を見学。
その後、いつものように二人で農作業を行ったのだった。
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