第10話 NPの使い道
異世界で日本料理を食べた日から三週間が経った。
基本的には農作業を行い、夕方前に少し裏山で遊ぶという日々を送っている。
シーラさんも相変わらず元気であり、楽しそうにしてくれているのだけが私にとっても救い。
日本の料理も一週間に一度作ると決め、それをモチベーションに毎日を有意義に過ごせている。
ちなみに現在の所持NPなのだが、今日時点で3576NP。
とにかく野菜の成長速度が速く、苗を植えてから5日で収穫を行うことができる。
畑の面積の4分の1ずつ植えているため、5日に4日は約250NPを入手できているのだ。
そのお陰で7日間隔で500NPほどは食材に使っているのだが、手元には3576NPも残っている。
シーラさんがとにかく日本の料理を好きになってくれたし、手持ちには余裕があるため頻度を上げてもいいのだけど……。
能力強化もやってみたいし、せっかくなら魔物も買ってみたい。
まずは能力強化か魔物の購入、どちらから行うべきだろう。
ベッドに腰掛けながら、私は腕を組んで頭を悩ませる。
ちなみに強化したいと思っている能力は農地拡大。
今は5日に4日が収穫日だけど、農地を拡大できれば毎日収穫することが可能になるはず。
農地の質の強化や、種の種類を増やすのも気になるけど、まずは農地拡大が最優先。
農地拡大、農地の質、成長速度の強化に関しては一律3000NPでLvを上げることができる。
3576NPを持っているため、Lvを上げることはできるのだが……。
能力強化にNPを使ってしまうと、購入できる魔物は限られてしまう。
ちなみに私が購入したいと思っている魔物はシルバーウルフ。費用は5000NP。
写真を見る限りは非常にかっこいい魔物で、シーラさんが中々に強い魔物と言っていた。
シーラさんが戻ってしまうことを考えると、早急に護衛となる魔物が欲しい。
シルバーウルフならば護衛としても充分だし、策敵も行える上に何よりもかっこいいのが一番大事。
問題点は食費がかかりそうなところだが、そこは目を瞑るしかない。
シルバーウルフの他に気になっている魔物もおり、特に気になっているのはソイルシルフ、マタンゴの植物系の魔物。
この二匹は畑作業を手伝えそうな能力を持っているため、シーラさんがいなくなった時の人手として重宝する。
欠点は戦闘能力が皆無なところであり、護衛が務まらないのがかなり痛い。
それと費用もかなり高く、マタンゴは6000NP。
ソイルシルフに関しては、10000NPとまだまだ手が出せない価格。
他には大ミミズや、アクアフロッグといった魔物も候補に入っている。
こちらの二匹も畑仕事を手伝えそうであり、更に二匹共に3000NPと安価なんだけど、とにかく見た目のマイナス点が大きい。
NPの使い道に最近は頭を悩ませているが、RPGの序盤のようで私は嫌いではない。
ベッドで横になりながらも頭は働かせ、私はようやく決断した。
まずはやはり――NPの入手率を上げたい。
ということで、農地強化に3000NP。
それから従魔も諦め切れないため、一番安い魔物であるスライムかゴブリンのどちらかを購入する。
色々と手伝ってくれそうなのはゴブリン。
ただ……可愛いのは圧倒的にスライム。
利便性のゴブリンか、可愛さのスライムか。
一瞬迷ったが、私はすぐにスライムを購入することに決めた。
最安値ということは、どちらを選ぼうが大して使えないはず。
それならば可愛さで選んだ方がいいだろう。
これで貯めたNPの使い道が決まった。
早速畑に向かい、外で強化と魔物の購入を行うとしよう。
まだ日が昇ったばかりということもあり、少し肌寒い気温。
体を擦って温めながら、私は端末を操作してまずは強化から行うことにした。
農地強化をタップし、購入のところをタップしたことであっさりと購入は完了。
農地強化の欄がLv1からLv2へと変わっている。
そして、端末に反映されたと同時に――目の前の畑が一回り大きくなった。
前までの2倍くらいの大きさにはなっていると思う。
これで3000NPはかなりお買い得だろう。
私はニヤニヤしながら、もう一度農地強化を確認してみることにした。
Lv2からLv3への強化も同じ値段なら、また3000NPを貯めて即購入したいと思っていたのだけど……やはりそう甘くはない。
農地強化の費用は、3000NPから30000NPへと値上がりしていた。
Lv2からLv3へは更に値上がりするだろうし、とりあえず当面の目標は農地の質、成長速度のLvを2にすること。
密かにそんな目標を立てつつ、俺は続いてスライムも購入することにした。
魔物の欄からスライムを選択し、匹数を選んで購入をタップ。
ワクワクしながら待っていると――私の目の前に水の球体のようなものが現れた。
多分だけど、この水の球体が購入したスライムなのだろう。
ドラクエで出てくるような可愛らしい魔物ではなく、本当にぷよぷよとした水の塊といった感じ。
生物っぽさも皆無で、思っていたのとは大分違うが……私の初めての従魔。
のっそのそと近づいてきたスライムは、私の前まで来るとぽよんぽよんと跳ね始めた。
無機質で可愛くないと思っていたばかりだが、跳ねることで私へのアピールをしているのだと思うと一気に可愛く見えてきた。
こちらの声が聞こえるか分からないけど、せっかくなら名前をつけてあげよう。
「あなたの名前は――ライムです。今日からよろしくお願いします」
男の子か女の子かも分からなかったため、とりあえずどちらでも大丈夫な名前にした。
私がライムに頭を下げると、ライムも私の真似をするように地面にペタッと平べったくなった。
犬や猫とはまた違うけど、ペットのようでやはり可愛いな。
それなりに知能もあるみたいだし、これからライムを大事にしていこう。
「ライムって何を食べるんでしょうか。人間と同じご飯ってことは……ないですよね?」
スライムフードのようなものが、この世界には売っていたりするのだろうか。
それとも飼い葉か何かを食べるのか?
何も食べないって可能性もあるけど、流石に生きているのであれば何も食べないということはないだろう。
私が腕を組んで考え込んでいると、ライムはゆっくりと別荘の方向に進み始めた。
一生懸命進んでいるライムの後をついていくと、立ち止まったのは別荘から少し離れた場所に積んであるゴミの前。
ここは人里離れているためゴミの処理が難しく、こうして溜め込まざるを得ない状態になっている。
そろそろ馬車を手配し、ゴミ処理場まで運ぼうと考えていたのだが……ライムはそんなゴミの山に向かうと、ゴミの袋を自身の体で覆った。
これはゴミが食事になるってことなのか?
会話ができないため推察になるのだが、直前の会話からのこの行動はそういうことなはず。
全くもって意図していなかったが、ゴミをライムが食べてくれるなら非常に助かる。
ライムの隣で屈み、ゴミ袋を食べているところを眺めていると……家からシーラさんが出てきた。
家を出た直後は朗らかな表情だったのだけど、俺の隣にスライムがいることに気がつくと、表情を一変させて高速で近づいてきた。
完全に勘違いしていることにすぐ気づいたが、シーラさんの動きが速すぎる。
「佐藤さん、すぐに離れてくださいッ!」
「シーラさん、ストップ!!」
踏み込み、そして剣の柄に手をかけたところで――ようやく止まってくれた。
あ、危ない……ライムが斬り飛ばされるところだった。
「佐藤さん、どういうことでしょうか? 無害そうではありますが、れっきとした魔物ですよ!」
「大丈夫です。分かっていますので。このスライムは私の従魔なんです」
「佐藤さんの……従魔? い、一体どういうことですか?」
完全に困惑した表情をしているシーラさんと、殺されかけたことに気づいておらず、依然として呑気にゴミを食べているライム。
俺は大きく深呼吸をしてから、シーラさんに諸々の説明を行うことにしたのだった。
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