第108話 不憫
翌日。
ベルベットさんとシーラさんは非常にテンションが高く、私も含めていつも以上に畑仕事に身が入っている。
そんな私達と比べ、明らかにテンションが低い人が一人。
作業に身が入っておらず、人一倍大きい体のはずなのに小さく見えるほどシュンとしている。
「ドニーさん、大丈夫ですか? 体が小さく見えるぐらいシュンとなっていますよ」
「いや、別にそんなことはない……はず」
「もしかして、ジョエル君に王国騎士団に戻ってくるよう話したのですか?」
「……ああ。昨日も話したんだが、秒で断られてしまった」
分かってはいたけど、落ち込んでいた理由はどうやらこれ。
というよりも、最近は来るたびにジョエル君に声を掛けて、振られては落ち込んでいる。
結構雑に扱っていたように見えたけど、ドニーさんは意外と繊細な部分があるのだと知った。
それと、やはりジョエル君には相当期待していた様子。
「それは残念でしたね。ただ、王国騎士団では縮こまってしまっていたようですし、ここで伸び伸びやるのも良いと私は思いますよ?」
「それは俺も分かっている。シーラだっているし、佐藤の従魔とも戦っていれば自然と強くなるだろうからな。それを抜きにしても……俺がジョエルを育てたかった。ジョエルの親御さんにも、王国騎士団の団長にすると意気込んで連れてきた経緯もあるしな」
どよーんという効果音が流れそうなほど、あからさまに落ち込んでいるドニーさん。
ご両親も説得して入団させたと聞いたら、確かにドニーさんが落ち込んでいる気持ちもよく分かる。
ジョエル君はまだ13歳だしね。
「ご両親のことは何とも言えませんが……王国騎士団に居続けるよりも、いっぱい経験を積ませてあげた方が伸びると私は思います。それに、やはり何と言っても本人の意思が一番大事ですからね」
「分かってるよ。だから、無理に連れて帰ろうとはしていないだろ?」
「そうしてくれて助かります。無理に連れて帰ろうとした時点で、ドニーさんを出禁にしますからね。あと、王国騎士団を退団しただけで、まだ王国騎士団の団長になる可能性はあります。人生は長いですからね」
「確かに……そうだな。慰めてくれてありがとよ」
「いえいえ。指導をするならここでもできますし、ジョエル君も受けてくれると思いますよ」
「だな。気を取り直して、別の形でアタックしてみることにする」
ドニーさんは私の頭を軽く叩いてから、仕事へと戻っていった。
ベルベットさん以外には口も態度もあまりよくないけど、ドニーさんはシンプルに良い人。
私は料理を作っていて見ることはできなかったけど、模擬戦大会で優勝した蓮さんとのエキシビションマッチでは勝利したようだし、実力も超一流。
そんなドニーさんに気にかけてもらっているし、ジョエル君もきっと立派に育つはずだ。
仕事に身が入った様子のドニーさんの背中を見てから、私は続けてジョエル君にも話を聞くことにした。
ルーアさんのことも改めて聞きたいし、丁度良いタイミング。
「ジョエル君、少しだけ話をしてもいいですか?」
「あっ、佐藤さん! 僕に何か話ですか? ……あっ、王国騎士団には戻るつもりはありませんよ?」
「ドニーさんから話は聞きましたが、私は王国騎士団に戻るように説得するつもりはありません。ブリタニーさん、ルーアさんと一緒に冒険者になることも知っていますからね」
「そうなんですか? えーっと、それでは何のお話でしょうか?」
「ドニーさんを気にかけてあげてほしいということです。ああ見えても悪い人ではないですし、無理な勧誘もしないとのことでしたので、ジョエル君からも歩み寄ってあげてほしいな――と」
ジョエル君は渋い表情を見せながらも、小さく一つ頷いてくれた。
無理やり退団したということもあり、心情的にはあまり関わりたくはないとは思うけど、ここで関係性を断ってしまうのは双方に得がないからね。
「受け入れてくれてありがとうございます。話はガラッと変わりますが、ルーアさんを含めての初めての冒険はいつ行くんですか?」
「あっ! 来週行こうと思っています! 行き先も決まっていまして、ルーアさんが国境付近で迷った時に何やら白い煙を見たそうなんです! だから、ブリタニーさんとも話して、その白い煙の謎を解明しようと思っています!」
ちょっと前までの渋い表情から一転、年相応の笑顔を見せて語ってくれたジョエル君。
冒険者ギルドの依頼を淡々とこなすというよりも、本当に冒険をするって感じだし非常に楽しそう。
「いいですね。すごく面白そうですし、私もその白い煙が何なのか気になります」
「ですよね!? 何か分かったら佐藤さんにも教えてあげますね!」
「よろしくお願いします。ただ、そっちの方は魔物が強かったとルーアさんが言っていましたので、くれぐれも『いのちだいじに』で頑張ってください」
「はい! 死なないことを第一に頑張ってきます!」
ビシッと敬礼をしたジョエル君に私は笑いながら頷き、ジョエル君の下を後にした。
ドニーさんは少し可哀想ではあるけど、上手く回っていると私は思う。
今後どうなっていくのか分からないけど、優しい目で見守ってあげよう。
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