第106話 新しい趣味
ジョエル君とブリタニーさんから相談を受けた翌日。
私の方からもルーアさんにお伝えしたところ、少し申し訳なさそうにしていたけど冒険者として活動することに決めたようだ。
ポーシャさんとロイスさんが抜けた穴をカバーすると言っていたし、ルーアさんが1ヶ月の内の2週間抜けるのは痛いけど、それ以上にやりたいことをやってくれた方がいいため、私は良かったと思っている。
それにこのパーティで手に入れた魔力塊は、無償で私にくれるらしく、魔物達へのご褒美が手に入るため悪いことばかりではない。
後は3人が仲良くしてくれることを願うばかりだけど、3人共に良い人だからきっと上手くいくはず。
私はそんなことを考えつつ、笑顔で作物の収穫を行っていると……豪華絢爛な馬車がやってきたのが見えた。
あの見るからに豪華な馬車はベルベットさんのものだ。
見た目はド派手でかっこいいけど、馬車の質自体でいったら私達の馬車の方が確実に上。
私は変なところで対抗意識を燃やしつつ、ベルベットさんの迎えに出向くことにした。
模擬戦大会の後、一度だけ手伝いに来てくれてはいるが、約1ヶ月ぶりくらいの来訪。
「ベルベットさん、お久しぶりです。今日も手伝いに来てくれたのですか?」
「ええ。私がというよりかは、ドニーが行きたいってうるさくてね。私も最近はやることが増えて忙しいんだけど、時間の合間を縫って来たの」
「そんなにうるさくは言っていないと思いますが……。コンタクトレンズ分の仕事をやっておきたいというだけですし」
そう。何を隠そう、最近はベルベットさんよりもドニーさんの方が足繁く通っている。
主な理由はコンタクトではなくジョエル君で、退団してからもドニーさんはかなり気にかけているようなのだ。
「ベルベットさんは最近忙しそうですもんね。寂しいので、私ももう少し来てほしいと思ってはいるんですが……楽しそうなのは何よりです」
「ふふ、完全に佐藤のお陰。美味しいとされるものの情報を聞いては、わざわざ現地まで行って食べているからさ。この世界の食材が、異世界料理にも負けていないってところをこの国王女として見せたくてね」
「この世界の美味しいものには興味がありますからね。見つけたら是非教えてください。それと漫画も……」
「――あー! それ以上は駄目。喋ったら殴るから」
ベルベットさんの目は本気であり、私がこれ以上言葉を発したら確実に拳が飛んでくる。
てっきりドニーさんには伝えているのかと思っていたけど、徹底的に隠しているようだ。
「すみません。配慮が足りていませんでした」
「分かればいいの。佐藤以外には言っていないし、佐藤も絶対に口外しちゃ駄目だからね」
「……何のことでしょうか? お嬢様、私に隠し事はやめてくださいね」
「うるさいわね。ドニーは早く畑の手伝いに行きなさい」
ドニーさんは何故か私を睨みながら、馬車から降りて畑へと向かって行った。
「やっと行ってくれたわ。……佐藤、例のものは準備してくれているの?」
「はい、もちろん用意してありますよ。こちらです」
ウキウキのベルベットさんに私が手渡したのは、ペン先とインク。
ペン先の種類は丸ペンとザンクローム。
これらから分かる人には分かるだろうけど、ベルベットさんは趣味として漫画を描き始めたのだ。
既にGペンとシャーペンは渡しており、今回は追加のオーダー。
自分で漫画を描きたい――に行きつくまでが早いとは思うけど、月に数冊しか渡せないせいで欲求が爆発。
自分で描いて治めるしかないというところに行きついてしまったのだと思う。
「佐藤、本当にありがとう! それと、後で描いた漫画を見せるから意見してくれる?」
「もちろんです。ただ、私もド素人なので何もアドバイスはできませんよ?」
「プロ目線のアドバイスなんて求めていないから大丈夫。私も趣味の一環として描いているだけだから」
「そういうことでしたら、気兼ねなく意見させて頂きますね」
「ええ。お願いするわ」
ベルベットさんの漫画を読めるのは単純に楽しみ。
何だか私のせいで、この国の王女様を創作の沼に引きずり込んでしまったのではと思わなくもないけど……ベルベットさんが楽しそうだから良いはず。
私はベルベットさんの漫画談義をしつつ、畑へと戻って仕事を再開することにした。
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