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第96話 決勝戦


「……ん、ふぁーあ。あっ、佐藤さん」

「起きましたか? もう少し眠れそうですけど、どうします?」

「大丈夫です。少しですが、寝たことで回復しました」

「それなら良かったです」


 20分ほどで目を覚ましたシーラさんは、スッキリした表情になっている。

 仮眠は思いのほか効果があるため、少しでも回復してくれたのなら良かった。


「ライムは大丈夫でしたか?」

「はい。魔物でも回復魔法は使えるようで、唯さんが治してくれています。すぐに良くなると言っていました」

「それを聞いてホッとしました。なら、私も頑張らないといけませんね」

「ええ。決勝は蓮さんと強敵ですが、頑張ってください」

「はい。任せてください」


 シーラさんは笑顔でそう答えた後、準備運動も兼ねて少し早めに試合会場へと向かった。

 少し時間を置いてから蓮さんも登場し、いよいよ第1回模擬戦大会の決勝戦が始まる。


「思っていたよりも長かったが、これが正真正銘ラストの試合だ。互いに全力で戦ってくれ」

「ここまで心配を務めて頂きありがとうございました。蓮さん、よろしくお願いします」

「よろしく。まさかシーラさんが相手だとは思っていなかった。試合を見ていたけど本当に強いと思ったし、悪いけど全力でいかせてもらう」

「ええ。もちろん全力で来てください」


 シーラさんと蓮さんは互いに握手をした後、所定の位置についた。

 緊迫した空気が流れ、私も緊張してしまう。


「それでは決勝戦。――始め!」


 ドニーさんの試合開始の合図と共に飛び出したのは蓮さん――ではなく、これまで受けの姿勢を取り続けていたシーラさんの方だった。

 まさか決勝戦でいきなり仕掛けるとは思っておらず、私は驚きで小さく声を上げてしまう。


 驚いたのはもちろん観客である私だけでなく、蓮さんも来るとは思っていなかったようで、どう対処しようか迷っているようにも見えた。

 そんな隙をシーラさんが見逃すはずもなく、上段斬りと見せかけてから即座に旋回し、横をついて木剣を振り抜く。


 流水のように流れる攻撃にガードが間に合わず、初撃で蓮さんの脇腹を捉えた。

 誰もが想像していなかった試合展開に、観客席からドッと歓声が上がる。


 この一撃で完全に流れがシーラさんに傾き、会場の押せ押せムードに呼応するようにシーラさんは更に攻撃を浴びせていったのだが……相手は勇者パーティのリーダーである蓮さん。

 勢いに飲まれることなく、シーラさんの多彩な攻撃をしっかりと受け切ってみせた。


「シーラさん、頑張れー!」


 あまりにハイレベルな剣劇に、興奮を隠すことができず声を張り上げた。

 この凄い試合を行っている一人がシーラさんであるというのも大きく、今が人生で一番興奮しているかもしれない。


 そこからもシーラさんは受けに回ることはせず、蓮さんと激しい斬り合いを演じていたのだが、次に動きを見せたのは蓮さんだった。

 一度落ち着いた後もシーラさんペースであり、この状況を変えるためのスキルを発動させた。


「【肉体強化】【能力上昇】【剛腕】。シーラさん、悪いな。ここからは本気でいかせてもらう」


 蓮さんの体が赤と黄色のオーラのようなものに包まれ、そのオーラが包まれたことで動きが明らかに変わった。

 準決勝までは【肉体強化】のスキルしか使用していなかったんだけど、まさかの3種類のスキルを一気に発動。


 先ほどまでとは速度から攻撃の質まで別人であり、斬り合いの中でインプットしていた情報からズレが生じたことで、シーラさんのガードがワンテンポ遅れるようになった。

 シーラさんの一番の武器は分析力であり、せっかく見極めた情報が台無しになったことで、状況は完璧にひっくり返った。

 

 それでもギリギリのところでガードを行い、新たに分析しようとしているシーラさんを嘲笑うかのように、蓮さんは更に2つのスキルを発動。

 流石のシーラさんも対処し切れず、蓮さんの連撃を受けてド派手にふっ飛ばされた。


 普通の人が扱えるスキルは多くて2種類らしい。

 それも完全ランダムで生まれた瞬間に振り分けられるため、戦闘の才能を持っていたとしても、スキルは戦闘向きではなかったなんてことが多々あると言っていた。


 それに戦闘どうこうではなく使えないスキルも多くあり、ポーシャさんのスキルは明日の天気が分かる50%の確率で分かるというもの。

 そもそも天気は基本的に晴れか曇りか雨の3種類しかないし、適当に晴れとだけ言っていれば、スキルがなくとも50%くらいの確率で予言できる。


 こんな風にどんな場面で使えないスキルが大半の中、蓮さんのスキルは全てが戦闘向きで既に5種類を同時に発動させている。

 これだけでどれだけ無茶苦茶なのか分かるし、勇者の優遇っぷりは凄まじいもの。


 私はシーラさん目線のため、正直ズルいと思ってしまっているが……。

 【異世界農業】のスキルを持っていて、どの口が言っているんだとなってしまうため、決して口には出せない。


 私はシーラさんに対し、必死にポジティブな言葉を掛け続け、そんな私の応援に応えるようにシーラさんはふっ飛ばされても尚、攻撃の手を緩めることがなかった。

 まるで先ほどの美香さんのように、舞を舞っているかのように攻撃を仕掛けたシーラさん。


 最後の最後まで勝利への希望は見えていたものの――軽々と弾き飛ばされてからの一閃。

 蓮さんの完璧な一撃がシーラさんを捉え、ドニーさんによって試合終了が宣言された。


「それまで。決勝戦の勝者は――蓮!」

「いよっしゃ!」


 ガッツポーズを見せた蓮さん、それから最後まで攻め続けて大健闘したシーラさんに惜しみない拍手を送る。

 本当に悔しいけど、勇者の理不尽な強さも見ることができたのは良かった。


 魔王に対抗し得る力だと思うし、蓮さん達ならいつかきっと魔王を討伐してくれるはず。

 ……ただ、本当に悔しいな。


「ほら、佐藤。締めの挨拶を頼む」

「あ、はい! まずは蓮さん、優勝おめでとうございます。1回戦から本当に強かったですし、勇者の力を見ることができて感激しました」

「佐藤さん、ありがとう。自力ではシーラさんに完敗していたし、まぁ本当にスキル頼りだけどな」

「それも含めて蓮さんの力ですよ。これからも全力で応援させて頂きます」


 このタイミングで拍手が送られ、私は拍手が送られている間に優勝賞品を取り出す。


「それでは優勝賞品の授与をさせて頂きます。優勝賞品の腕時計、それから副賞のお菓子の詰め合わせです」

「おおっ! 腕時計……?って一瞬思ったけど、めちゃくちゃ嬉しい。ダンジョン内だと時間が分からないし、この世界の時計はやけに重いし持ち運びづらかったから本当に助かる」


 もしかしたら渋いところを攻めた感じになるかもと思っていたけど、喜んでくれて良かった。

 選んだ腕時計は、G-SHOCKのソーラー腕時計。


 20トントラックに踏まれても壊れないという耐久性はもちろんのこと、防塵、防水、耐摩耗性に優れている他、バックライト付きのため暗い場所でも時間が確認が可能。

 デザインも非常に恰好良いし、ソーラー式なので長持ちするのも魅力的な一本。


 これだけの性能でありながら、値段も20000円前後という破格の価格。

 スマホが普及していた日本では、腕時計をオシャレ目的で着用していた人が多かったけど、異世界に関しては実用的すぎるものだというのは、冬季期間にダンジョン攻略を行った私だからこそ分かる。


「耐久性に優れた腕時計ですので、是非ダンジョンに持っていってください。蓮さん、本当におめでとうございます」

「こんな面白いイベントを開催してくれたのに、こんな良いものまでありがとう。地味にお菓子の詰め合わせもめちゃくちゃ嬉しい」

「喜んでもらえて良かったです。美香さん達とお菓子パーティーでもしてくださいね」


 ということで、簡易的な表彰式を終えた。

 トップ3までは賞品を用意しているけど、予算の都合上お菓子の詰め合わせだけ。


 それに準優勝はシーラさん、3位入賞はライムとマッシュの勝者のため、今は渡さず後でいいと判断した。

 素晴らしい大会だったし、参加してくれたみんなと感想を言い合いたいところだけど……私にはこれから料理を作るという仕事がある。

 みんなが楽しそうに談笑しているところを抜け、一足先に別荘へと戻ったのだった。



※作者からのお願い


一日二話投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで少しでも「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ


つまらないと思った方も、☆一つでいいので評価頂けると作者としては参考になりますので、是非ご協力お願いいたします!


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ

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