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第6話 地雷系後輩は素直可愛い

「……まさか誰も昨日の講義のノートを貸してくれないとは思わなかった」


 昼休みの間に知り合いを巡り、昨日休んだ午後の講義のノートを貸してもらおうと思ったのだが、誰一人として貸してもらうことはできなかった。

 その理由だけはなんとか聞き出すことが出来た。


 なんでも昨日のうちに更科と八雲が圧をかけていたらしい。

 俺と関わると碌なことにならないぞ――みたいな。


 八雲先輩のネームバリューにあやかって更科の存在感も上がっている。

 だから誰も二人を敵に回さないよう、俺へノートを貸さなかった。


 俺が友達だと思っていた相手も同様。

 もはや完全に更科の側について俺を嫌悪してすらいた。

 友達ですらなかったのだと思い知らされて、結構ショックを受けている。


 その上で当てが外れた結果となれば、流石に落胆のため息も出てしまう。

 どうしたものか……粘ってもいいけど、もういいかなという気にすらなっていた。


 一回分のノートがなくてもまあ、なんとかならないかな。


 最悪教授に頼んで教えを乞うか……気は進まないけど。


「……ともかく腹が減ったな。昼休みに遅れて学食に行っても席なんて空いてるわけないし、購買も望み薄。外で食べるには時間も金もない。……本当になんで俺がこんな目に」

「――あ、こんなところにいたんですね、かっしー先輩っ」


 そんな俺にかかる、太陽みたいに明るい声。

 声の方を向けば、ツインテールを揺らす地雷服の後輩――海老原(えびはら)寧々(ねね)が笑顔で手を振っていた。


 海老原は俺を先輩と呼んでいたように、一回生の後輩だ。

 出会ったのはつい先月。

 土砂降りの日に傘を貸してから、色々あって懐かれている。


 明智先輩よりは少し高い身長。

 まだあどけなさの残る雰囲気ながら、海老原の胸元は対照的に実っている。

 それへ思わず視線が向きそうになるのを堪えながら、


「海老原か。こんなところでどうしたんだ?」

「どうしたは寧々のセリフですよーっ!! かっしー先輩、彼女を寝取られたって聞いたんですけどマジですかっ!?」


 声を返すと海老原が騒ぎ立てながら間近に迫ってくる。

 目力強めの上目遣いが俺へ逃げることを許さないと告げるように向けられた。


「参ったな……海老原も知ってるのか」

「寧々だけじゃなく一回生の間では結構話題ですよ? 噂好きの子が話してるのを勝手に聞きました。印象操作されてるのか真実なのかわからないですけど、ほぼかっしー先輩が悪いってことになってましたよ?」

「……そんな先輩と話してるのを見られたら海老原も危ないんじゃないか?」


 大学内ではどこに人の目があるかわからない。

 悪い意味で時の人となった俺と、一回生としては派手めな海老原の組み合わせが見逃されることはないだろう。


 ましてや俺は彼女を寝取られた後だ。

 不要な勘繰りを利かせた奴が「柏木が今度は後輩を狙ってる」とかあることないこと吹聴しかねない。


 お互いそんな思惑がないのに、そういう目で見られるのは勘弁願う。


「寧々はかっしー先輩がイイ人って知ってるので、そんな噂話は信じませんよ。……一応聞きますけど、ほんとに悪いことは何もしてないんですよね?」

「信じるって言った直後にそれはないだろ」

「冗談ですよ、冗談。とはいえ寧々も人間なので、自分の身が一番可愛いんですよ。ただでさえ寧々は可愛いので!」

「……その自信をひとかけらでいいから分けて欲しいわ」


 てへ、とウィンクしながら海老原が微笑む。

 でも実際、海老原は相当に可愛い女の子だとは俺も思う。


 ツインテールの髪は艶があって、肌も丁寧にケアをしているのが窺える。

 服装は本人の趣味だからケチをつける気はないし、それはそれで似合っている。

 ネイルにも気を遣っているのか色とりどりの爪が指の先で輝いていた。


「それにしても災難ですよね。去年から付き合ってたのにこれじゃあ次の彼女なんて出来ないんじゃないですか?」

「別にそれはいいんだよ。今回の件で懲りたから、当分は恋愛はいいと思ってたし。……強がってないからな?」

「ほんとですかぁ? もしもかっしー先輩が女の子に飢えて性犯罪者になるくらいなら寧々が彼女になってあげてもいいですからね?」


 寧々は揶揄っているのが見え透いた笑みを浮かべて口にする。

 俺に対する認識について一度ちゃんと話し合う必要があるか?

 そこまで女性に飢えてはいない……はずだ。


 興味がないとは言わないけど、相手を選ぶ権利は俺にもあると主張したい。


「あんまり揶揄うなよ。本気にするぞ?」

「……本気でも寧々はいいですけど」

「冗談でもやめろ。他に同期でいい奴いないのか?」

「それこそ冗談でもやめてくださいよ。寧々、同期に一人も友達いないので」

「…………服装で避ける意味が俺には理解できないな」

「大多数の人間はそうじゃないってだけですよ」


 寧々が冷たさを帯びた声音で呟き、少しだけ俺から離れていく。

 そして胸元に手を当てて、悲しげにまなじりを下げながら微笑む。


「寧々はこういう服が好きだから着続けますけど、周りから見たらそういう子ってレッテルを張られるんです。中身を誰も見ようとしない。リスクがあれば避ける。今後の大学生活を楽しく平穏に生きていくならそれが賢明な判断です」

「……海老原はそれでいいのか?」

「そんな人、こっちから願い下げですよ。なにも全員と分かり合えるなんて思ってません。数人、ちゃんと寧々を理解してくれる人がいたらそれでいいんです」

「で、何人見つかったんだ?」

「今のところかっしー先輩だけですね!」


 間違っても満面の笑みで言うことじゃないと思うのは俺だけか?


 でも、勿体ないと思ってしまう。

 海老原の性格がいい子なのは俺も認めるところ。

 なのにその良さを理解してくれる人がいない……どころか多少派手なだけの服装で避けられているのは、ちょっと悲しい。


「サークルの新歓とか行かなかったのか?」

「行きたかったんですけど、なぜか一度も声をかけられなかったんですよね。……はっ!? 寧々が可愛すぎて声をかける勇気が出なかったんじゃないですかっ!?」

「お前は今後もその幸せな頭のままでいてくれ」

「かっしー先輩なら可愛いって言ってくれると思ったのに……これはもうあることないこと言いふらすしか――」

「絶対やめろ。いや、やめてくださいお願いします。これ以上大学での居心地を悪くしたくない……!」


 ただでさえ午前の講義で針の筵みたいな思いをしたんだ。

 流石に俺のメンタルが持たなくなる。


 俺の懇願が海老原のツボに入ったのか、一瞬キョトンと目を丸くした後に腹を抱えて笑いだした。


「あははっ! しませんってそんなこと! かっしー先輩とは今後ともよろしくしたいですし。あと、そういうのは寧々のポリシーに反するので」

「……助かるわ、ほんと。見た目が派手なだけで中身は超いい子ちゃんだよなあ」

「……そんなに褒めないでくださいよ。ほんとのことでも照れるじゃないですかぁ」


 海老原は手で顔を覆うも、指の隙間から見える肌はほんのり赤くなっていた。


 どうやら本当に照れているらしい。

 揶揄ってくるのに自分が褒められると弱いのか。


「まあ、俺はこの通り大丈夫だから心配しなくてもいいぞ」

「そうみたいですね。それじゃ、またお話ししましょうね! 今度はご飯とか奢ってくれると嬉しいです!」

「金と機会があったらな」


 適当に返すと、海老原は満足したのか去っていった。

 ああ言ったものの、ラーメンくらいなら奢ってやってもいい気にはなっている。


 なんだかんだで俺を心配していたのが丸わかりだった。


「ちゃんと友達作ろうと思えばすぐにでも出来そうなんだがなぁ……」


 俺とは違ってコミュ力もあって容姿も優れる海老原のことを考えながら、午後の授業に向けて備えるのだった。


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