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彼女を寝取られた俺は、お一人様の『銀姫』と都合のいい遊び相手になりました  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第25話 招待状

 買い物を終えたら、あとは七時のナイトパレードへ備えるだけ。

 キャラ耳のカチューシャを着けたままパークを回るのは結構な羞恥を感じるかと思ったが、意外と慣れてしまえばそこまでではなかった。

 一人ならこうはいかなかったかもしれないが、隣に似たような状況の皐がいることで緩和されているのかもしれない。


 そんなわけで空いているアトラクションを中心に巡り――時間も間近になったところで、ナイトパレードが開催される広場へ。

 広場にはそれなりの人が集まっていて、早くも場所の取り合いが始まっていた。


 空の方も薄暗くなり、あちこちで照明も点灯し始めている。

 場所的にはライトアップの方が正しいのだろうか。


「じきに始まります。わたしたちは……あの辺はどうでしょうか」


 背伸びをして周りを見渡した皐が比較的人の少ない区画を指さす。

 人の流れに逆らわずそこへ向かい、どうにか二人分のスペースを確保。


 自分も人混みに紛れると、熱気やら歓声に呑み込まれてしまいそうな錯覚を覚えた。


 開始時間まで待機し――パレードのために開けられた空間の奥から、ライトアップされた大きな船が走ってくる。

 甲板に立っていたのはこのパークのシンボル的キャラクターたち。

 彼らが手を振ると、わっと歓声が沸いた。


『やあやあ諸君! ボクたちのナイトパレードへようこそ! 今日も楽しんでいってねっ!!』


 奏でられる壮大な音楽に合わせて、キャラクターたちが踊る。

 あちこちでライトが明滅し、盛り上がりに合わせて花火が上がった。


 音と光が溢れる世界。

 初めて目にするそれに意識を奪われてしまう。


 キャストと観客が一つとなって創り出す空間は、言葉にしがたい一体感のようなものがある気がして、いつまでもこの時間を過ごしていたくなる。


「どうですか? ……って、その表情を見ていれば、なんとなくわかりますが」


 パレードの音に若干掻き消されながらも、皐の声が耳に届く。

 振り向いてみれば、俺を見ながら仕方なさそうに笑う皐の顔があって。


「もちろん楽しいよ。皐もそうだろ?」

「ええ。何度か見たことはありますが、この空気を誰かと共にするのは今回が初めてです。だからなのか、いつもとはちょっとだけ違って見えます」


 僅かに表情を緩め、視線をパレードへ注ぐ。


 すると必然、皐の横顔が飛び込んでくるわけで。


 いつの間にか暗くなっていた夜空。

 煌々と輝くライトの数々が、多角的に皐を照らし出す。


 陶器のように白い肌。

 すっと線を描く鼻梁から、艶めかしさすら感じる赤い唇へ繋がるライン。

 背に流した髪は宝石でも溶かしているのかと見紛うほどの煌めきを帯びていた。


 そして――つぶらな瞳には、皐が見ている世界が映り込んでいて。


「…………写真、撮っておかないとな」


 思わず見蕩れてしまった自分を誤魔化すように呟き、おもむろにスマホを取り出してカメラをパレードへと向ける。


 光源が多すぎて白飛びしないようにするのが難しい。

 元よりそんなに写真を撮る方ではないから慣れの問題なのだろうか。

 試しに何枚か撮ってみて、上手く撮れたものだけを選び抜こう。


「わたしも撮ります」


 皐も俺に倣い、二人で写真撮影に勤しむ。


 そうこうしている間にキャラクターたちが乗った船は通り過ぎ、段々と音が遠ざかっていく。


「行ってしまいましたね」

「後を追うか? 追いつけたとしてゆっくり観られるかは怪しいけど」

「……いえ、今日はここで帰るとしましょう。もうじゅうぶん楽しみましたし、パレードが終わってからだと帰りの電車が混みそうですし」


 楽しい時間はここで切り上げることとなった。


 夜になったからか、朝とは雰囲気が違って感じられるパークを歩く。

 客層も変わっていて、小さな子を連れた家族は少なくなり、比率的に恋人風の男女が多くなる。


 さもありなん、デートスポットとしては定番だ。

 夜なら雰囲気もいいし、歩き回るだけでも楽しいだろう。


 そういう意味ではこれからが本番の人もいるわけだが――


「今日も楽しかったですね。また、来たいです」

「誘われれば行くさ。そういう契約だし」

「……絶対ですよ?」


 ぎゅっと、手が握られた。


 すっかり今日一日で慣れてしまったな、なんて遠い思考を続けながらも「もちろん」と答えてゲートを出る。


 それからは電車に揺られて帰路に着く。


 途中で頭にカチューシャをつけっぱなしだったのに周囲の反応で気づいて遅ればせながら外して羞恥に悶え。

 一日を通して遊んで疲れたのか、俺の肩に寄りかかる形でうたた寝を始めた皐に情緒を乱されながらも耐え抜いたり。

 最寄り駅に帰って来ても眠ったままだった皐を慌てて起こし、どこかぽやぽやとした様子の皐を連れてあわや次の駅へ出発する寸前で飛び降りたり。


 夕食がまだでしたね、と言い出した皐に連れられて、ファミレスで駄弁りながら腹を満たしたところで解散となった。


「それではまた、週明けに」

「ああ。気をつけて帰れよ」



 ◆



 週明けの月曜日。

 俺が皐と一緒に講義室に入ると、一斉に注目されたのを肌で感じた。


 視線を集めるのは皐がいるからか日常的だけど、今日のは普段とは違う……一言で表すと、粘つくような嫌な空気。

 嫌悪や拒否感を伴ったそれを、ごく一部ではなく全体から向けられているのは、はっきり言って異常だ。


「……嫌な雰囲気ですね」


 皐が耳うちしてきたそれに俺も頷く。

 俺で気づくなら皐が見逃すはずがない。


 けれど、原因は何だ?

 俺たちの預かり知らぬところで重大な事態が進んでいる気がする。


 かといって探りを入れられる人もいなくて――


「――やっと来たんだ、アンタたち」


 妙に自信を帯びた、聞き覚えのある鼻につく声がかかった。

 俺たちの行く手を塞ぐように立つのは更科と、その友人たち。


「何の用だ」

「そんなつれないこと言わないでよ、柏木。あたしは親切だから、何も知らないあんたたちに教えてあげようと思っただけ」


 ニヤニヤと嫌な笑みを張り付ける更科が俺たちへ向けてきたのはスマホの画面。


 なにかと思って覗き込んでみれば――週末に行ったテーマパークを背景に、俺と皐の二人が収められた写真が表示されていた。

 しかも一枚だけではなく、これ見よがしに更科がスライドしていく。


「やっぱりアンタたち、出来てたのね。一体いつからあたしを捨てて、浮気していた(・・・・・・)のかしらね」

「……何を言ってるんだ? 俺と銀鏡は付き合ってなんかいないし、浮気したのも更科の方で――」

「とぼけないでよっ!!」


 金切り声にも似た悲鳴が上がる。

 そして、どこか影のある笑みを浮かべて。


「あたし、全部見たんだから。その日、同じところに拓哉くんと一緒に行ってたの。だから全部、全部知ってるわ。アンタたち二人が楽しそうにデートして、キスまでしてたことだって……ね」


 とんでもない嘘を、講義室の誰にでも聞こえるような声量でまき散らした。

 同時に見せられた写真は、皐の顔が俺で隠れる角度で……見方によってはキスをしていると捉えられてもおかしくないもの。


 思わぬ方向へ飛んだことで、俺の思考が固まってしまう。

 皐は呆れたように眉根を寄せながらも、不快感を示している。


「……嘘をつくなよ、更科。銀鏡と一緒にいたのは間違いないが、キスなんてしてない」

「柏木さんの言う通りです。ついでに言えば友達として遊びに行っていただけですので、デートではありません」

「アンタたちが何を言ってもあたしには立派な証拠があるのよ? 拓哉くんも弁護士を雇うって言ってたわ」


 なんだそれは。

 弁護士を雇う? 嘘の証言でどうやって罪をでっち上げるつもりなんだ。

 普通に考えて証拠不十分……いや、八雲先輩なら、強引にでも通せるのか?


 明智先輩が、八雲先輩の親は議員だと言っていた。

 その権力を使えば浮気の証拠を無から創り出すくらいは可能……かもしれない。


 そうなったら、俺たちは確実に負ける。


「…………手に負えませんね。物事への客観視が出来ていないのでは?」

「泥棒猫の癖によく言うわ。美人っていいわね~何もしなくても男が寄って来るんだもの。でも、男の趣味は最悪じゃない? わざわざ人の男を選ぶとか、綺麗なのは顔だけなの?」

「更科っ! 言っていいことと悪いことがあるだろ」

「浮気した男と泥棒猫に尽くす礼儀なんてあるわけないでしょ?」


 更科の強気な態度の理由は、後ろに八雲先輩がいるからだろう。

 そこにちょうど俺たちを嵌められそうな材料が転がって来て、実行に移した。


 人前で声高に宣言することで実は自分が悲劇のヒロインでした――というようなシナリオを望んでいる。

 さながら八雲先輩はヒーローとして讃えられるのだろう。


 俺だけの被害で済むなら適当に話を終わらせていた。

 プライドもなければ、こいつらと関わる時間も惜しい。


 でも、銀鏡を巻き込むのなら話は別だ。


「ふざけるのもいい加減にしろよ、更科」

「こわ~い。そうやってまた(・・)暴力を振るう気?」

「柏木さんが本当にそんなことをするとでも?」

「あーそっか、しない……出来ないの方が正しいかな、人目がある場所では」


 またしても更科は煽るような言動を重ねる。

 が、ここで怒りに任せて暴言などが飛び出せば相手の思うつぼ。


 完全に準備したうえで接触してきているのだから、余計な言質は取らせたくない。


「まあいいや。本題はね、これを渡しに来たの」


 更科がポケットから取り出した二つの封筒を俺と皐へ差し出す。

 慎重に受け取り、細工がされていないか表裏を確認。


「それは招待状。拓哉くんがね、アンタたちに最後のチャンスをあげるんだって」


 まあ、無駄かもしれないけど。


 最後に吐き捨て、用件は済んだとばかりに更科が去っていく。


「……ひとまず席に着きましょう。授業が始まってしまいます」


 先に冷静さを取り戻した皐に促され、いつもの席へ並んで座る。

 いつにも増して距離を置かれているのは気のせいではない。


 誰も彼も、いつ飛び火するのかわからない危険物には触れたくない。


「八雲先輩からの招待状、ねえ。きな臭いな」

「とはいえ無視も出来ません。対話の場を設けてくれたのなら乗るほかないでしょう。まともに対話できるかどうかは別として、ですが」


 わざわざ話題を作り、嘘をでっち上げてまで呼び出すくらいだ。

 何かしらの裏があると思っていた方がいい。


 更科はともかく、八雲先輩が勝算もなしにこんなことをするとは思えない。


 二人の目的へ思考を巡らせながら、午前の授業に取り組むのだった。

ここからシリアスパートです。もうしばらくお付き合いください。

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