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彼女を寝取られた俺は、お一人様の『銀姫』と都合のいい遊び相手になりました  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第24話 取って食べたりしませんよ

 シュガーチュロスなるものを歩きながら食べて休憩を挟んだところで、俺たちが向かったのはお土産などが並ぶショップ。

 パーク内でアーケードのように連なる数々のショップは、歩きながら眺めているだけでも意外と楽しい。


 しかしながら何も買わずに帰るという選択肢は皐にはなく……さっきのあれこれを忘れるためにも、買い物に没頭していた。


「こういうところで買い物をするの、結構好きなんですよね。見ているだけで楽しいですし。値段がちょっと高いのは……そういうものだと諦めています」


 なんて話しつつ、キャラクターが描かれた缶のクッキーを手に取って、流れるように俺が持つカゴの中へ。

 一切の躊躇いがないそれに苦笑を通り越して感心してしまう。


「カゴをお任せしてすみません」

「軽いから問題ないって。荷物持ちくらいはな。それより、途中で買い物したら邪魔にならないか?」

「配送サービスがあるので大丈夫ですよ。料金はかかりますが、大したことはありません」

「そういえばそんなものもあったな。あと、帰りの話を聞いてなかったんだけど」

「七時過ぎのナイトパレードまで観て帰ろうと思っていました」


 それならあまり遅くならずに済みそうだ。

 終電がなくなる心配はしていない。

 皐はそんなへまをやらかすほど抜けていない……と思っている。


 仮になくなったとしても平然と「タクシーで帰りましょう」とか言い出すだろうし。

 どれだけの料金がかかるかなんて想像したくはないけど。


「宿も取っていたらもっとゆっくり観られるんですけどね。突発的な予定ですし、そこまでは流石に」

「事前に予定を立てていたとしても泊りはどうなんだ?」

「もちろん部屋は別々で取ります。いくら取り決めがあるとはいえ、交際してもいない男女が二人きりで一晩を共にするのはあまり良くないですし」

「金銭的な問題が――」

「わたしが全部払うので問題ありません」


 そうでしたね……本当に頼もしい限りです。


 残念ながら俺が貧乏学生なのは変わっていない。

 貰えるものは貰っておくスタンスだが、皐に色々払ってもらうことに対して抵抗感を抱かなくなってるのは結構やばいか?


 この関係だって一生続くわけがない。

 ヒモ生活が終わったときにどうなるのかは神のみぞ知る。

 社会に復帰できないくらい堕落していないことを祈るばかりだ。


「ですが、費用を抑えるとなると、必然的に部屋のグレードが落ちてしまうのが難点ですね。寝起きするだけならそれでもいいのですが、これが温泉宿だったりしたらいいお部屋の方が寛げるでしょうし……悩みどころですね」

「悩みどころってのは?」

「慧さんと同じ部屋に泊まるリスクを取って、費用削減と快適さを取るのもやぶさかではないなと」

「…………」


 皐の言葉が信じられなくて、思わず黙り込む。


 さりげなくとんでもないことを口走っていないか?


 謎の緊張を感じると同時に、皐の現状からするとあり得ない話ではないのかもしれないと思ってしまう。


 今のところは日帰りの場所にしか行ったことがない。

 それは大学の授業があって、まとまった時間を取れるのが週末だけなのも理由としては上げられるだろう。

 そして、これまでの期間で俺がどんな人間なのかをある程度は把握されている。


 人畜無害……とまではいかないにしろ、皐の基準を満たしていたのなら、泊まりの選択肢も視野に入ってくるかもしれない。


 その上、もうじき七月……八月終わりまでの夏季休暇が間近に迫っている。

 遠出するには都合がいい。

 そうなると当然、泊まりになるわけで――


「……同じ部屋で寝泊まりしたとしても手を出すつもりはないぞ。後のことが怖すぎるし、そんな関係でもないだろ?」

「男性の理性を信じるなと言ったのは慧さんだったと思いますが」

「…………手足でも縛って寝たらギリセーフか?」

「逆に慧さんはそれでいいんですか?」

「寝るだけなら問題ないと思うぞ。夜中トイレに行きたくなったら困るくらいで」

「……そういう問題ではないと思いますが」


 何故か皐にジト目を向けられる俺。

 こればかりは本当に解せん。

 俺は結構真剣に案を出していたんだが?


 実際、費用も出してくれる皐に夜中襲われるかも――なんて不安を抱かせないためなら、それくらいはしてもいいと思っている。

 手足を縛ってもゴロゴロ転がったり、どうにか起き上がって襲いに行けるとか言われたら黙るしかないけど。


「でもまあ、安全性を取るならどうやっても部屋を分けるのがいいと思うぞ」

「そうすると眠りにつくまでの間が暇じゃないですか。修学旅行の夜、先生の巡回を誤魔化しながら友達と話したりしませんでした?」

「あれ、めちゃくちゃ楽しいんだよな。特別感なのかな。友達と並んで寝るなんて、そうそう体験できることじゃないし……ああ、そういうことか」


 俺が不意に納得すると、皐も「そういうことです」と同調する。


「中学の後半から、わたしは友達と呼べる相手がいませんでした。事務的な話はしますが、雑談的なものはしません。ですから必然、修学旅行の夜に友達と寝るまで話す――なんて経験がありません」

「だからそれも体験してみたい、と。……それ、俺じゃなくても良くないか?」

「と、いうと?」

「友達とって条件なら海老原や明智先輩でもいいのかと思ってさ。誘ったら多分乗ってくれると思うぞ」

「……それもそうですね。夏季休暇も近いことですし、考えておきます」


 そう言いつつ、ポップなキャラクターの包装がされたチョコレートがカゴへ。


 傍ら、ひとまず話の着地点としては上々かと胸を撫で下ろす。

 これでいきなり俺へ「泊まりに行きましょう」なんて提案してくる可能性は減った……と思いたい。

 俺も俺で緊張するし、準備とかもあるから困る。


 まあ、契約的には誘われたら断れないんだけども。


「他に買うものは……ああ、アレがありました」

「アレ?」

「ちょっと探しますので。このお店にもあるはず――」


 棚へ視線を巡らせながら歩くこと数十秒ほど。

 皐が目当てのものを見つけたのか、ある棚の前で立ち止まった。


「アレです」

「あー……なるほどね?」


 俺は皐がさしていたアレの正体を理解すると、思わず苦笑してしまった。

 それはここのキャラクターの耳を象ったカチューシャだ。


 今日もここにいる間、幾度となく見た。

 着けているのは決まって女性陣や浮かれた恋人同士、それからはしゃいでいる子どもが多かった記憶がある。


「どうしても一人でアレを着けるのは羞恥心の兼ね合い的に難しくて……ですが、いつも気になっていたのでいい機会かと思ったのですが」

「その口ぶりだと俺にも着けろと言っているように聞こえるんだけど」

「……二人でいるのに片方だけ着けていたら浮かれてる、みたいに思われません?」

「考えすぎだと思うけどなあ」


 こういう場所で他人のことを気にする人がどれだけいるだろうか。

 ほとんど自分が楽しむので精いっぱいだと思う。


 皐が他人の目を気にするのは、並外れた容姿で注目される経験が多いからかもしれない。

 思い返せば今日も常に皐への視線は止まなかった。

 今ですら感じるくらいだ。


「というわけで……いいですよね?」


 二つ同じデザインのカチューシャを取った皐が、一つを俺に差し出してくる。


 似合うかどうかは二の次のファンシーなそれを着けるのは百歩譲って構わない。

 ただ……お揃いなのはどうにかならないだろうか。


 もしかすると皐には深い意味がなく、単に同じものを取っただけの可能性もある。


「……別なやつじゃダメか?」

「いいですよ。折角ですし色々つけてみましょうか」


 提案がすんなり受け入れられ、始まるカチューシャの試着会。

 これが皐ならまだ絵になったのかもしれないが、残念なことに俺が当事者だ。


 ネズミ耳、犬耳、猫耳……何かと一概に言えない形状の耳もつけてみる。

 どれを着けても皐は「似合ってますよ」と口にするが、若干だけ口角が上がっているのを見逃さない。

 自分でも設置されていた鏡を見るけど、どうにも違和感が拭えない。


 こういうのが似合う人間の方が少ないと言われればその通りなのだが。


「……気持ち的にはどれ着けても同じだな」

「であればネズミにしませんか? わたしは猫にするので、組み合わせ的にもそれっぽいですし」

「狩る者と狩られる者……?」

「取って食べたりしませんよ」


 わかってはいるけどネズミと猫の組み合わせはそうとしか思えない。

 しかし異論はなく、その二つを買って出ることに。


 カチューシャ以外は皐の家への配送手続きをしてショップを出る。

 邪魔にならないところへ移動してから、早速つけましょうとカチューシャを手渡され――


「……なんというか、やっぱり似合わないな」

「そうですか? 可愛いですよ」

「男的にその評価はどうなんだ……って感じだよ。逆に皐は似合ってるぞ。普段の印象とのギャップで、ちょっと変な感じはするけど」

「……それ、どういう意味です?」

「いい意味だよ。素っ気なく見えて、意外と可愛げがあるよなあって話」

「…………慧さんもそういうところですよね」


 何故か返ってくるジト目に首を傾げる。


 あんまり褒めすぎるのも良くなかったか?


 その割に機嫌自体は悪くなさそうだし……女心はよくわからない。


「そうだ。写真を撮りましょう」


 皐が言うなり、手にはカメラを起動したスマホが握られる。


「……ツーショット?」

「そうですけど」


 それはまた難易度の高い要求だこと。

 とはいえ写真を撮るだけ。

 お化け屋敷で抱き着かれていたことよりは精神的負担が低いはず。


 カメラを掲げる皐が俺へ「もっと寄ってください」と手招く。

 その通りに距離を縮め、肩が触れ合う。


 画面にはぎこちない表情の俺と、真剣にカメラの画角を調整する皐。

 やがて納得したのか小さく頷いて「撮りますよ」と一声かかる。


「さん、にー、いち――」


 カウントダウン。

 どうにか笑顔を作ったところでシャッターが切られた。


 一瞬を切り取る音。


 それから、皐と一緒に撮った写真を確認してみる。

 映っていたのは固い笑顔の俺と、なぜか片目を閉じてしまっている皐。


「慧さんって笑うの下手ですよね」

「ツーショットとか滅多にやらないから緊張しただけだ。それを言うなら皐だって片目閉じてるし」

「……写真を撮る時、なぜかこうなってしまうんですよね。今回はフラッシュもなかったのに」

「お互い下手か」

「ですね。もう一枚撮りましょうか」


 結局何度か撮り直し、無事に綺麗に撮れた写真を二人で共有する。

 形として残る思い出が増えたことは喜ばしい。


「それにしても……この失敗した写真の慧さん、ちょっと面白いですね」

「喧嘩ならいい値で買うぞ??」

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