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第二話 夏姫、父に読書を禁じられる☆

 二年前、夏姫の両親がまだ生きていた頃。


 夏姫は子供ながらに物語の本を読むのが好きだった。父の文庫にこっそりはいりこんでは、毎日少しずつ読むのを楽しみにしていた。

 その日は、本に夢中になりすぎて、父が帰ってきたことに気がつかなかった。


 父は、夏姫の手から物語の冊子を力まかせにひったくった。

「ごめんなさいっ……」

「子供のくせに、色気づきおって。女がこんなものを読むとろくなことはない。文庫の中には大事な資料も沢山ある。以後、入ってはならぬ。よいか。

 見つけたらただはおかぬぞ」

「ええっ? でも」

 勝手に文庫に入ったのは悪かったけれど。物語を読むこと自体が、女の子にとって悪いことなのだろうか? 夏姫にはわからなかった。


 父は色の白い人だったが、顔にさらに血の気がのぼって、人が変わったようになった。

「口答えをするとは生意気な。罰として一週間飯抜きじゃ!」

持っていたちつ(厚紙でつくった紙ばさみ)を振り上げ、娘をぶとうとする。


 このとき、母屋でふせっていた母が、白の単衣一枚で走り出てきて、二人の間に割って入った。

「子供に一週間ご飯抜きはあんまりです。もう二度と文庫に入らないよう、きつく教えさとしておきますから」

「そうか。じゃあ、お前に任せる。好きにしろ」


 父は振り上げていた帙をおろし、文庫から二人を追い立てると、鳥居障子をぴしゃりと閉めた。




 母は、驚きすぎて涙も出ない夏姫の手をひいて、母屋につれていった。

 二階厨子の下の扉から薬がはいった紙包みを取り出し、干しなつめを一つつまんで、娘の手のひらにのせた。

「これ、お母さまのお薬ではないの?」

「大丈夫。なつめは気が休まり、滋養がつきますからね。ゆっくりお食べなさい」


 薄い皮をかじり、種の周りについている茶色の果肉を歯でこそげるようにして食べる。ほんのりと甘い。かんでいるうちに、じんわりと涙がでてきた。

「ねえ、お母さま」

「なあに」

「物語を読むのは、悪いことなの?」


 母は、寝床にしている畳に足を伸ばして座り、上から衾(うすい綿入りのかいまき)をかけた。

「悪くはないと思うわ。お母様も好きよ。お父様が心配なさっているような、子供にとってよくない本もあるけれど。そういうのはうちにはないと思うし。なぜあんなに怒ったのかしらね」

「お母さまにもわからないの?」

「ええ。お父様は普段は、理不尽に怒ったりする人ではないから。たぶん、昔なにかあったのでしょう」

「ふう~ん」


 とはいって見たものの、実際、夏姫にはなにがなんだかわからなかった。

「そんなに物語が読みたければ、お母様のを貸してあげる。だから、二度と文庫には入らないでね。約束できる?」

「はい!」

もちろんだった。もうあんな恐ろしい目にはあいたくない。








挿絵(By みてみん)

 向かって右奥に二階厨子(開き戸がついている)、

二階棚の上に火取ひとり香炉 、泔坏ゆするつき唾壺だこ打乱筥うちみだりのはこなどの調度が置かれる。

その隣は「唐櫛笥」(化粧品入れ)。

その隣は鏡箱と思われます。@風俗資料館


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