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卒業ダンパで婚約破棄されると、友人が知っていて対処してくれました。絶対結婚したい!

作者: 瀬崎遊

楽しんでいただけたら幸いです。


「結婚するぞ!絶対する!!俺は絶対結婚する!!!」


「いやぁーリュテスのその前のめりな態度が女の子を遠ざけるんじゃないのか?」

 幼馴染のバイセルは言うがもう俺の市場価値は殆ど無い。

「俺はもう、22歳だぞっ!このままだと結婚できないかもしれないじゃないかっ!」

「そうだね」

「あっさり『そうだね』なんて言うなよっ!俺は本気で結婚したいんだ」


「そう言えばキャルと芝居見に行ったんじゃないのか?」

「うん?ああ、行ったよ。キャルが見たい芝居があるって言ったから」

 キャルとはバイセルの一番下の妹で俺にとっても可愛い妹である。

「そうか・・・」

「なんでキャルの話?」

「いや、何でもない」

「そう?」


「まぁ、お前はまず夜会にでも顔出す所から始めたら?」

「そ、それは・・・無理だっ」

「あのねー、夜会に行かないと女の子と出会えないでしょうに」

「そうだが、俺はあの婚約破棄を忘れられないっっ!!」

「まぁ、あれは衝撃的だったものなぁ〜」

 それを先導したお前が言うなとは言ってはいけない。




 学園を卒業する18歳の時、当時婚約していた男爵令嬢のライリーと出席するはずだったが、ライリーに思わぬハプニングがあり、遅れるから先に行ってて欲しいとメイドに言われた。

 思わぬハプニング?!ってなんだろう?


 ライリーの準備が整うまで待つと言ったんだけど、強固に先に行くのを勧めてきた。

 最後に父親が出てきて「先に行ってくれ」と頼まれた。

 父親に言われると引くしか無く、渋々一人で卒業パーティー会場に行った。


 講堂に入る前から、盛況な雰囲気が漂っていた。

 うっすらと聞こえる音楽に、ざわめき、ライリーと一緒に踊ることを想像し、嬉しくなってくる。

 ルンタッタ・ルンタッタ・・・。


 ライリーが来るまで入り口で待とうかなと考えてウロウロ。

 やっぱり一緒に入場したいよなぁ〜。


 ライリー本人は背と鼻が低いことを気にしているが、そこがまた可愛らしい。

 ちっちゃい所は守ってあげたくなるし、鼻が低いのを気にしてたまに摘んでいる仕草はとても可愛らしい。

 俺の自慢の可愛い婚約者だった。

 入場せずうろうろしていると、バイセルがやって来た。


「そんな所でなにしてんの?」

「ライリーが遅れてて待ってるんだ」

「ライリー嬢なら中にいるぞ」

「え?そんなはずは・・・」

「かなり早い時間から来てヨシュアと一緒に楽しんでいるよ」

 ヨシュア・・・?誰だっけ?


 中に入ってライリーを探す。

 好きな子を探すセンサーが働いたのか、すぐに見つけられた。

 俺は笑顔になり、急いでライリーの側へ向かう。

 ライリーはヨシュアの肘に手を置いて寄り添って立っていた。

 早足だった足がゆっくりになる。


「あらリュテス、遅かったのね」

「ライリー、遅くなるんじゃなかったのかい?」

「ごめんなさい。ヨシュアが先に迎えに来てくれたから来ちゃったの」

 来ちゃったの?


 悪びれもせずに言う。

「あっ、そうそう。私ねヨシュア様とお付き合いすることになったから婚約破棄してね」

「へっ?」

「やめてよ。その間抜けな顔。ここにサインをちょうだい」

 あれ?なんて言った?


 見るとそれは婚約破棄の書類だった。

 読み進めると、俺が婚約者として誠意がなく、いつもライリーを馬鹿にして虐めていた為、俺の有責として婚約を解消する。と書かれていた。

「馬鹿なことを!」

「まぁ、怖い。皆さん見てくださいました?いつもあの調子なのです。私、もう毎日が恐ろしくて」


 そうクスクス笑いながら話す。

 その笑いが伝播したように広がる。

 そのバカにされた態度で頭に血が上った。


 俺が持っていた書類を横からバイセルが取り上げた。

「なになに?ライリー嬢の身持ちが悪く不誠実なためこの婚約は破棄したいって?」

「失礼ね!私のどこが身持ちが悪いって言うのよっ!」

「え?今、その身持ちの悪さを体現していらっしゃるじゃないですか。婚約者でもない男に体を預けて」

「バイセル・・・」

 バイセルが割って入ってくれてよかった。

 絶対サインなんかしないけど万が一ってこともあるしな。

 

 黙っていろと視線で言われ俺は口をつぐむ。

「バイセル様は関係ないのですから引っ込んでいてくださいませ」

「そうですね関係ありませんが、こんな場所で騒動を起こされても困りますよ。私、卒業委員会の者なので」

「ライリー嬢の浮気で婚約破棄したいならリュテスも喜ぶでしょう。結婚してから遊び回られたら恥ですからね」

 バイセルはわざと大きな声で話す。

 俺達の目の前で俺の有責での婚約破棄の書類はバイセルが破いてポケットへ入れた。


「皆さん、余興です。リュテスとライリー嬢の婚約破棄、どちらに責があるでしょう?」

 バイセルはぐるりと人を見回し、笑顔で手を広げる。

「さぁ、見てください、婚約者以外に身を任せ、婚約者を笑うライリー嬢。婚約者を迎えに行ったが先に行けと言われて来たものの、彼女が来るまで入り口で待とうとウロウロしていた男、どちらに責があるでしょう。ライリー嬢に責があると思う者は右にリュテスに責があると思う者は左に移動してください」

 俺は慌ててバイセルの右に移動した。


 それを見たからか、その場にいる皆が楽しそうに動き出した。

 バルトアとライリーの友人は左に、それ以外は右へと移動してくれた。

「答えが出ました。ライリー嬢、あなたの有責です」


 パチパチと拍手が鳴る。

 バイセルがパチンと指を鳴らすと、バイセルの家の執事のオーリがなぜかいて、そっと紙を差し出した。

 ダンスパーティーの音楽も止み、静かになる。


 俺は自分の婚約破棄が決まろうとしている時に、呑気にも頭に浮かんだのはバイセル何か仕込んだのか?だった。


 さっとバイセルが書類に目を通し、満足気に首肯く。

 オーリが俺に書類を差し出しペンを渡される。


 内容はライリーの有責で婚約破棄する事、卒業式のダンスパーティーで恥をかかされた事、その有責分は金品で払われる事、その金額は金貨100枚である事、支払いの最終責任は父親である男爵が持つ事、支払期限は今年の6月末日と書かれていた。

 今は3月だ。


 全く同じ内容が2枚あり、俺は黙って2枚にサインした。

「さぁ、ライリー嬢、あなたの有責だ。これにサインを」

「嫌よ!こんなものにサインなんて出来ないわ!」

「ならリュテスと婚約を続けるんですね。とても不幸な結婚になるでしょう」

 右側にいる者が皆、うんうんと首肯く。

 バイセルが「さぁ、さぁ」とサインを促す。

「ヨシュアと結婚できなくなりますよ。これにサインをしないと」

 とバイセルが小さな声でライリーに伝える。


「うぅっぅぅぅ」

とライリーは唸りながらペンを取り、やはり置き、それを何度か繰り返し、バイセルの「さぁ、さぁ、幸せな未来がここに」と言われ、サインした。

 

 ライリーってこんなに馬鹿な子だったのか?

 サインしたら駄目だろう?

 いや、俺はサインしてもらって助かったよ。

 でも書類にサインする時はちゃんと考えないと。



 一枚をライリーに、もう一枚を何故かオーリに渡した。

「皆様、リュテスとライリーの幸せを願って拍手をっ!!」

 拍手が鳴り、暫くすると大きな音で音楽が始まった。

 人がバラバラとばらけていく。



「バイセル、これはどういうことだ?」

「すまん。今日こうなることは前々から噂があったんだ」

「なにぃ〜?!」

「噂なだけかもしれないからお前に言えなかったんだよ。だが万が一があると困るだろう?だから準備だけはしておいた」

「だからオーリが居たのか?」

「そうだね。婚約破棄おめでとう。前々からライリーはお前の婚約者に相応しくないと思っていたんだ。いや、めでたい」



 こうして俺は婚約者を失った。

 そして、卒業パーティー後初めての夜会に出席した日、俺の婚約破棄騒動は暇な貴族の娯楽になっていて、噂され、たまに『握手してください』と言われ握手していると、バイセルに言われた。


 「彼女たち、婚約破棄したい子たちだよ」と。

「婚約破棄のスペシャリストと呼ばれているよ。お前」

「俺、立ってただけなんだけどっ!」

 「大きな声を出したらまた注目を浴びるぞ。そうしたらまた、婚約破棄しなきゃならなくなるぞ。あ、相手がいなかったっけ?」と笑われた。バイセルめっ!



 それ以降夜会が怖くて行ってない。

 『握手してくださいっ』ていう人があまりに多くて。

 婚約者らしき人が隣にいても来るんだよ。

 その相手に睨まれて怖い思いをすることだってあるんだよ。

 俺って小心者だから・・・。



 今も通りすがりの人に『握手してください』と言われる。

 握手すると、婚約破棄の成功率が上がるとか上がらないとか。

 知らんわ。



「俺は結婚したいんだぁ〜〜〜っ!!」

「まぁ、来年まで待て、来年、お前に婚約を申し出るっていういい子がいるから」

「だ、誰だよ!そんな奇特な子」

「お前から婚約を申し込むって言うなら教えてやってもいいけどグズグズ言うだけで申し込めないだろうから内緒だな」

「鬼、悪魔、人でなし!!」



 そうそう、言い忘れていたけど、婚約を破棄したその年の6月末日、オーリが金貨100枚を持って俺の家にやってきた。


 ライリーの父親は屋敷を抵当に入れてそのお金を作ったのだとか。


 ヨシュアは、有責で金貨100枚の支払い責任があるライリーを拒否し、たった数日で別れた。

 ヨシュアとライリー、今も独身のまま。


 俺も独身だけどなっ!







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 卒業式のダンスパーティーにOBとして出席を求められた。

 いい思い出のない俺には辛い場所なのでと、何度もお断りしているのだが、引いてくれない。

 出席を求めてくるのがオーリなのだ。

 子供の頃から世話になっている執事のお願いは退けられず、とうとう根負けして受けてしまった。


「出席するにも相手が居ないのにどうすんだよ!」

と、オーリの主人であるバイセルに言う。

「ほらこれ」

 と言って渡された紙を見てみると婚約申込みの書類だった。

「すまん、俺、バイセルとはそういう関係にはなれない・・・」


「馬鹿かお前は」

 書類を読み進めるとやはりバイセルの名前がある。

「バイセルの名前があるんだけど・・・」

「・・・ちゃんと読め」

 あぁ、当主としてのサインか。

 あれ?キャルの名前がある?なんで?


 キャルは今年の卒業パーティーに出席する。

 その繋がりでOBとして出席を求められていたはずなんだけど・・・。


「キャルの名前があるんだが・・・?」

「そうだな。キャルがお前のこと好きなんだそうだ」

「えっ?でも・・・」

「キャルが卒業までリュテスの事が好きなままなら結婚を認めてやると父が言ってね」

「ちょっと待って、俺、この話まだ受けてないのに結婚なの?」

「準備は万端だ。後はお前がその書類にサインして卒業パーティーに行って、結婚式に並び立てば終わりだ」


「並び立てば終わりって・・・なにが?」

「独身生活がだよ。まさかと思うけどキャルに不満があるとか言う気か?」

 慌てて首を横に振る。

「なら、何の問題もないだろう。5月6日がお前の結婚式だ。これが出席名簿だ」


 とんと、手の上にバインダーが置かれる。

 順番に見ていくと俺の両親の名前も載っている。

「両親の名前もあるんだけど・・・」

「当然だろう。息子の結婚式に出ない親がいるか」

「そりゃそうだけど」

 父さん達は知ってたってこと?


「キャルの希望でアルストレン教会で午前の部だ。披露パーティーはラッシュホテルだ」

 返す言葉がない。

 ラッシュホテル・・・。


「小母さんが準備してたけど、お前ん家にキャルの部屋の準備してやれよ。急がないと間に合わなくなるぞ」

「えっ?」

 そういえば母さんがなんかバタバタしてた。

「えっ?じゃないよ。キャルとはしょっちゅうデートしてただろう」

「うえっ?デート・・・?」

「ほとんど毎週会ってただろう?」


 そう言われればそうだ。

 どこそこに行きたいとか、見たい芝居があるとか、きれいな花畑があるからとしょっちゅう出かけてた。

 この2〜3年。

 出かけていない時はバイセルの家に居た。


「あれ、デートだったの?」

「それ、キャルに言うなよ。ご機嫌斜めになるから」

「えっ?うそ?」

「手を繋いだとかキャルは嬉しそうに話していたぞ」

 花畑の道が泥濘(ぬかる)んでいたから確かに手を繋いだ。

 妹みたいに思ってたし、甘い雰囲気でもなかったと思うんだけど・・・違ったの?


「ほら、もうグズグズ言ってないでサインしろ」

 手の中にいろんな書類が載せられる。

「ラッシュホテルって・・・随分豪勢じゃない?」

「いいからサインしろって。他にもあるんだから」

「他って?」

「婚姻届とか、新郎としてサインしなきゃならない書類がたくさんあるんだ」


「こんいんとどけ・・・だれの?」

「またそこに戻るのか?ホントにお前、想定外の事に弱いな。それでも訳がわからないままサインしないのは偉いぞ。だが、サインしろ」


 俺はハッとして

「キャルに会ってくる」

 オーリにキャルの居場所を聞き、キャルの目の前に立った。

 

 ちょっともじもじしてしまった。


 キャルはクスッと笑い「兄さんに聞いたのね?」と可愛らしい顔と声で俺に問いかけた。



                       Fin


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[良い点] テンポ良くて面白かったです。 [気になる点] 主人公、流されすぎだよ! ↑思わず突っ込んじゃいましたが、そんな主人公が大好きです(笑) 金貨100枚……えっ、高いホテル使用するための資金…
[良い点] 愛らしい主人公でよかった アホの子だけど奥さんのことは大切にしてくれると思う あまりにも外堀に埋まりすぎだけど立て続けに怖いアホの子の話ばかり読んだからまともな男性が主役だったのがよかっ…
[良い点] 最後までスルスル読めました。 ヨシュアとバルトアの表記揺れも、ヨシュア=バルトアなんだろうなでスルーしてました。 [一言] えーっと。キャルを異性として見られるようになるといいね? い…
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