神社と君と
大和 「意地張って、チャリ通にしちまったけど、はぁはぁ、毎日後悔がかさなる...よ」
葵 「おはよう大和、今日もお疲れさま。学校に来るだけでそんな辛そうなんだから、いつも大変だね」
大和 「他人事かよ」
葵 「他人でしょ。幼なじみだけど」
大和 「はいはいそうですね。ママチャリ+山越えさへなきゃこんなことには」
葵 「本当にすごいと思うよ。かっこいい」
大和 「...薄笑いで言われても嬉しくねぇな」
葵 「照れちゃって」
大和 「照れてねぇ。はぁ、葵は送り迎えだもんな」
葵 「そうだよ、大和も乗せてこうか?」
大和 「いい、流石にダサすぎるから」
葵 「そっか。ちょっと、いや結構ダサいね」
大和 「だろ。だから絶対乗らない」
大和と葵は幼なじみであり、近くに高校がないため少し離れたところへ通学していた。
ガラガラと引戸が開き先生が入ってくる。
大和 「あ、じゃまたな」
葵 「うん」
生徒達はそそくさと自席へ戻る。
教師 「みんなおはよう。今日からテスト前期間だから勉強は怠らないように」
大和 (完全に忘れてた。いつも一夜漬けで死にそうになるからなぁ)
教室は生徒達の静かな悲鳴が響いていた。
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放課後
大和 「はぁ、くそ。恨むぜこの景色」
傍目には高みから見下ろした綺麗な街並みが映っている。夕日によってその美しさは一層ましていた。
大和 「...ん?なんだあれ、鳥居?」
大和 「こんなとこに神社なんてあったかなぁ」
西日に照らされた木々に同化するように鳥居がたっている。
大和 「へぇ...今日は帰り早いから寄っていこうかな。どうせ家にいても勉強しないし」
自転車を路肩にとめた。
大和 「こんな人気が無い場所なのに、参道はちゃんとしてんだな」
大和 「犬みたいな像も綺麗。誰かが手入れしてんのか」
??? 「君は誰?」
大和 「うわっ!え、え」
顔を大きく左右に振って声の出処を探す。すると本殿と思われる建物の手前に少女の姿があった。
大和 「...巫女服......あっすみません。入っちゃいけませんでしたか?」
??? 「そういうわけじゃないんだけど、ちょっと驚いて。ここに来る人なんてそういないから」
大和 「たしかに。朝とかすれ違う人は少しいますけど、この時間は特に見ませんね」
??? 「だろうね。私も君しか見ない」
大和 (君しか...ってことはずっとこの神社にいるのか?)
??? 「そうだ。まだ名前を聞いていなかった」
大和 「やまと。大きいに和むで大和」
シロ 「教えてくれてありがとう。私はシロ」
大和 「...」
シロ 「どうかした?」
大和 「変わった名前だなって」
シロ 「そう。生まれがちょっと違うからかな」
大和 (外国だと色のラストネームとかよくあると思うけど、そういう次元だろうか)
シロ 「怪しんでるでしょ?」
大和 「すみません」
シロ 「いいよいいよ。大和からしたら変な名前だよね。じゃあ、信用させてあげようかな」
大和 「...」
シロ 「そうだな、今日の夕飯はハンバーグ!」
大和 「俺ん家のこと?」
シロ 「そう。帰ったら楽しみだね」
大和 「...そうですか」
シロ 「うーん、そろそろ帰ったら。暗くなってきちゃうよ」
大和 「まだ明るいし、お参りもろくに出来てないんだけど」
シロ 「早いことに越したことはないでしょ。ほら」
シロは大和に歩み寄って大和の背中を軽く押した。
大和 「分かったって、もう帰ります。シロさんはいいの帰らなくて」
シロ 「私は大丈夫。心配ありがとう」
大和 「明日も時間あると思うから来るかも、じゃあ」
シロ 「誰もいないから君が来てくれると嬉しい。またね」
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翌日
大和 「はぁはぁ。シロさんいますか?」
前日と同じ時刻、同じ場所に彼の姿があった。
シロ 「今日も来てくれたんだね」
大和 「まぁね。言いたいことがあって」
シロ 「何?」
大和 「ハンバーグ。正解です」
シロ 「あぁ、たしかに昨日話してたね。忘れてた」
大和 「結構念押しで言われた気がするんだけど」
シロ 「まぁまぁ。つまり私は尊敬に値するってことで」
大和 「尊敬じゃなくて信用云々の話だったでしょ。そもそも俺はそんな疑り深い奴じゃないからいいのに」
シロ 「ありがとう」
大和 「でもなんで分かったんですか?」
シロ 「それは秘密かな」
大和 「急に信用がなくなったな」
シロ 「えー言えないものは言えないし」
大和 「だったら最初から夕飯なんて言わなきゃいいのに...逆効果ですよ」
シロ 「まーいいじゃん。私ってこんな所にいるし不思議パワーあっていいんじゃない?」
大和 「不思議パワーって...えぇ...」
シロ 「スルーされるつもりだったのにひかれた...」
大和 「はいはい。俺、今日はこれで帰ります。一応テスト前なんで」
シロ 「ちょっと待って。せっかくだしテスト問題当ててあげようか?」
大和 「マジですか?くそ助かります」
大和 (シロさんの勘すごそうだから期待できるかもしれない。最低限の勉強はするつもりだけど)
シロ 「んー今日のは君にも見返りあるからお礼が必要だなー」
大和 「お礼?お金とかあんまないですよ。そういう手法ですか」
シロ 「そういうのじゃないって。お金いらないから、ちゃんと参拝してほしい」
大和 「そんなことなら」
大和は軽い足取りで本殿の前に向かっていく。
シロ 「いい?自分のこと、やりたいことをしっかり伝えること。そして私の手を借りるって誓う」
大和 「分かりました」
大和は知っている範囲の作法で参拝をした。
シロ 「ありがとう。慣れてるね」
大和 「神社って神秘的でかっこいいから結構好きなんです」
シロ 「そうなんだ。じゃないとここまで入って来ないもんね」
大和 「そうかも。シロさんはここが好き?」
シロ 「もちろん。君にも会えるしね」
大和 「話して2日目でよくそんなことを」
シロ 「...さて、じゃ教科書見せて」
大和 「お、おう」
大和は鞄から何冊か教科書を取り出す。
シロ 「こことここは出るかな。君ってどの辺が得意?」
大和 「こっちのほうがましかな」
シロ 「じゃあそうしよ。ここね」
大和 「そうしよって...えーと、これで全部?」
シロ 「全部じゃないよ。残りは自分で勉強して」
大和 「分かりました、帰ってちゃんと勉強します。今回も葵に負けるとうざいから」
シロ 「アオイ?」
大和 「ああごめん。俺の幼なじみなんです」
シロ 「ふーん、そうなんだ。そのヒト好きなの?」
大和 「えっ...いや、違う違う。仲いいだけ」
シロ 「本当に?君はアオイちゃんと一緒にいたいと思ってない?」
大和 「一緒にいられたら楽しいけどさ、そんな関係じゃないし」
シロ 「そっか。でもこのままだといずれ離れ離れになるよ、嫌じゃない?」
大和 「それは仕方ないことです。気にしません」
シロ 「わかった。帰って勉強するんだよね」
大和 「はい、じゃあまた」
シロ 「うん、またね」
テスト期間が始まるまで大和は毎日神社に通った。そしてその都度シロから助言をうけ、珍しく一週間テスト対策を行っていた。
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テスト当日
葵 「大和、今日のテストどうだった?」
大和 「余裕。全教科問題なし」
葵 「すごい。今回は前日にテスト範囲とか聞いてこなかったもんね」
大和 「いつもがおかしかっただけ。ちゃんとやってたからな」
葵 「嘘っぽいというか違和感しかないというか。でも本当にできてそうな雰囲気...謎」
大和 「まあ、実力」
葵 「...」
大和 「...」
葵 「えっと、結果が楽しみだね」
大和 「そ、そうだね」
葵 「じゃあさ今回、ご飯おごりなしにする?」
大和 「都合が悪くなったらすぐそうするもんな...今回も変わらず負けたほうがおごり」
葵 「分かったよ。大和がハッタリ使ってきてるかもだし」
大和 「その可能性もあるな」
葵 「ま、大和に嘘つけるような能力があると思えないけど」
大和 「おい」
葵 「あはは、ごめんって」
大和 「......本当はさ、アドバイスくれた人がいるんだ」
葵 「そうなんだ。大和の友達で頭いい子っていたっけ?」
大和 「葵が知らない人だよ。シロさんって言うんだけどさ、高校から俺達の家に帰る山道あるだろ?」
葵 「大和が毎日通ってるとこ?」
大和 「そうそう。そこに神社があるの分かる?」
葵 「神社?わかんない」
大和 「チャリ通の俺でも分かんなかったからそうだよな。とりあえずそこで出会って教えてもらった」
葵 「へー神社かー。今度時間あったら探してみようかな。でも神社ってなんか怖くない?」
大和 「全然。むしろテストへの恐怖がなくなった」
葵 「そう。ちょっとずるい」
大和 「いいだろ、毎回おごってんだから」
葵 「ごちそうさまです」
大和 「うぜぇ」
葵 「ふふ、大和って今日部活ないの?」
大和 「ないよ、部長がサボり好きだから」
葵 「その人部長で大丈夫かな...」
大和 「葵こそちょっと頑張りすぎじゃね」
葵 「いいんだって。今日はミーティングだけだし私は山越え必要ないから」
大和 「うぜぇ」
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帰宅中
テスト期間は学校が早く終わり、以前よりも日が高いうちに大和は神社へ着いた。
大和 「シロさん来ましたよー」
シロ 「あっテストお疲れさまー」
大和 「ありがとうございます。お陰様でばっちりでした」
シロ 「でしょう。私を尊敬してもいいんだよ」
大和 「そうですね。シロさんの不思議パワーを尊敬したいと思います」
シロ 「...」
大和 「にしてもどうして分かるんですか。同じ学校の関係者でもないのに」
シロはしばらく考え込んだ。
シロ 「そろそろ教えてあげてもいいかな...」
自問するように小さく呟いた。
シロ 「実はね、この神社すごいエネルギーがあるんだ。それも溢れでるくらい」
大和 (そんな凄味は感じないけど、俺が霊感ないだけか)
シロ 「私ってさよくここにいるからエネルギーを浴びちゃってて感じ」
大和 (信じ難い話だけど、テスト予想完璧に当たってるし本当のことなのかな)
大和 「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」
シロ 「いいよ。はぁヒトに言ったことなくて緊張した」
大和 「じゃあお礼させてください。今日時間あるし、多分おごる金浮くんで、ご飯でも買い物でも付き合いますよ」
シロ 「いいの?アオイちゃんにも悪くない?」
大和 「そういうのじゃないんで大丈夫です。言ったじゃないですか」
シロ 「そっか、じゃあ行ってみようかな。私あまり仲がいいヒトが出来たことなくて、一緒に出かけるとかすごい嬉しい」
大和 (あっさりOKしてくれると思わなかった。けどこれは頑張らないと)
シロ 「街の案内してほしいな」
大和 「分かりました。俺の後ろに乗ってください」
大和は自転車を引っ張ってきてまたがった。
シロ 「二人乗り...大丈夫?」
大和 「大丈夫です。無茶やるの得意なんで」
シロ 「余計不安になるよ」
乗り気じゃない顔ながらシロは大和の後ろに腰掛ける。そのまま大和は静かに来た道を戻り始めた。
まだ青いそらが木々を照らし、肌で受ける風は心地が良い温度をしている。
大和たちは他愛のない話をしながら登ったり下ったりを繰り返した。
大和 (やばい。この道二人乗りは自殺行為だ)
シロ 「大丈夫?すごい辛そうだけど」
大和 「はぁ、はぁだい、じょうぶです」
シロは苦笑いを浮かべ視線を周りの風景に戻した。
すると向こうから車の音が近づいてきた。
大和 「うわ、葵の車だ。いつもこっち通らないのになんでだよ」
車は大和たちの横を通り過ぎていく。後部座席に乗っている葵が変な顔して手をふっていた。
シロ 「あーあ、見られちゃったよ」
大和 「いいっす。全然」
鞄の中から通知音が鳴った。
大和 「あいつ煽ってんな、絶対」
大和 (忘れ物?何回も上り下りして大変だね。あと後ろに乗ってる人って誰?とか書いてあんだろうな、くそ)
シロ 「疲れたよね、ちょっと休憩する?」
大和 「遅くなりますよ」
シロ 「上りだし一旦降りて歩かない?」
大和 「分かりました。助かります」
大和は自転車を押しながらシロと並んで歩き始めた。
大和 「シロさんってどこに家あるんですか?高校近くだと紹介できるのがなくなっちゃいそうで」
シロ 「私、気づいたときにはあの神社にいたの。そしてここが私の居場所なんだって思って。だからその心配はいらないよ」
大和 「ん?」
シロ 「ごめん、変だよね。大和と話してて自分がおかしいって分かってきた」
大和 「いやいやそんなことないです。何かしらの理由があってそうなってるだけで、シロさんは記憶がないだけじゃないですか?」
シロ 「そうだといいのかな、よくわからない」
大和 「...」
シロ 「...」
大和 「そ、そうだ。あの神社ってすごいんですよね。エネルギーがどうとか」
シロ 「そうだよ。神社ってのはね、お参りに来たヒトにその力を分けたりするの。でも参拝にくるヒトなんかそういないうえに、もともとの力も強大だからエネルギーが溢れてる」
大和 「へー。俺もあそこにいたら超能力が身についたりして」
シロ 「冗談じゃなくそうなると思う」
大和 (...彼女の言ってることが本気なら相当やばめの神社に通ってしまったことになるな。一週間毎日行ってたし)
シロ 「遠い記憶だけど、昔にいたヒトはシロの願いが叶うようにしておいた、とか言ってた。なんかしらの力があったんじゃないかな。けど、君はまだ大丈夫だと思う」
大和 「そうですか、よかった。超能力ってどんなのがあるんですか?」
シロ 「私みたいに未来を見たり、五分五分で起こる確率をずらせたりする力。ほかには代償的な誓いがたてれたり、悪魔と契約するとかかな」
大和 「最後のは神社じゃなくて教会の気が」
シロ 「まぁまぁ、細かいことはいいじゃん。それよりも初めて見る街が楽しみすぎて、身体が軽くなった気がするよ」
大和 (この話は彼女なりのからかいなのかな、ヒトがずっとあそこに居たら生活できないだろうし、なんかしら言いたくないことがあるのか)
大和 「着いたら俺の好きな場所紹介しますから楽しみにしてください。そろそろ街が見えるはずです」
急な曲道を過ぎると一気に視界が開け街並みが見えてきた。
大和 「どうですシロさん、すごいでしょ。景色だけは最高ですから」
...
大和 「シロさん?」
いつの間にかシロは横目で見えなくなっていた。大和は恐る恐る振り返る。しかし後方にも彼女の姿はない。だが、先ほどまでいたと思われる場所には、小さな動物の姿があった。
大和 「犬?狐?...シロさんは!」
大和は後方を見渡す。一方、動物はシロという単語に反応した。鳴きながら大和の足元にすり寄って来ている。
大和 「まさか、君が...」
大和 (どういうことだ、理解できない。いなくなるのが彼女のいたずらだとしてもこの子はなんだ。都合よくこんな...これじゃあさっきの話は)
大和の思考はまとまらない。
大和 (くそ、どこ見たってシロさんはいない。本当にこの子か。とりあえず道を戻った方がいいよな)
小さな動物、シロ(?)は焦ったように大和の周りを駆け回ると、神社の方向を見つめた。
ブー、ブー、ブー。
鞄の中からバイブレーションの音が聞こえる。
大和 「あれ、いつからなってたんだ」
大和は急いでスマホを取り出した。
大和 「葵からの着信。あっ切れた」
大和はすぐに通話アプリを開いた。
不在着信と書かれたメッセージの上には、先程予想したことと全く同じ文章が来ていた。
大和 「なんの用だ。それよりさっき俺が乗せてたヒト見てないか?っと」
送信ボタンに手をのせてたとき、葵から短いメッセージが来た。
大和 「...助けて...は?」
大和 (シロさんの姿が見えないうえに、葵から『助けて』が来てる。葵はふざけてこんなことしないはずだよな)
大和 「シロ!来い」
シロ(?)は大和が広げた腕に飛び込んでくる。大和はそのままシロ(?)を自転車のかごに乗せる。
大和 「すまんがここで我慢してくれ」
大和は先程の疲労が全く感じさせない動きで自宅方面にこぎ始めた。
大和 (山道にシロさんの姿はない。可能性としては神社?いたとしても葵も探さなきゃ。葵はどうした、事故か)
大和 「シロ、葵の場所わかるか」
シロ(?)は正面を向いて甲高くないている。
大和 「葵も神社...か」
ーーーーーーーーーー
大和たちは神社に着いた。
見た目はいつも通りの神社と変わらない。自転車を半ば投げ捨てるように飛び降りる。
大和 「神社の横に車、葵のだ!」
鳥居を走り抜けた。
大和 「葵いるか!」
??? 「君は誰?」
大和 「っ葵?」
本殿の前には巫女服を来た葵らしき少女がたっている。傍らには葵の母親と見える女性が倒れていた。
大和 「葵だよな、俺が分かるか?葵!」
??? 「誰?」
大和 「くそっ、考えろ」
大和 (シロさんはなんて言ってた。...考えろ...未来をみる?見えねぇよ、俺に力はない。あとは...悪魔と契約するとかか、そんなことできんのか)
大和 「誰でもいい!葵をもとに戻してくれ!」
......
大和 「俺にできることならなんだって差し出す。頼むよ!誰か!」
シロ 「わかったよ大和。だけどお礼してね」
大和 「えっ」
大和が振り向くと後ろにはさっき見たままのヒトの形をしたシロの姿があった。
大和 「シロさん!どうしてここに...」
シロはしっかりとした足取りで大和の横をすぎ、少女と向き合う。巫女服の少女がふたり、大和の前に立っている。
シロ 「神さま。この契約は私のもの。アオイちゃんは関係ない」
??? 「誰?」
シロ 「私はシロ。やっと思い出した。神社から溢れ出た力は私に来てた。だからアオイちゃんは関係ない、解放して」
??? 「っん...」
葵らしき巫女服の少女はふらふらし始め、しだいに意識を失って倒れた。
大和 「葵!」
大和は葵のもとへ駆け寄る。
大和 「シロさんっ葵は!」
大和はすがるような顔でシロに視線を向けた。
シロ 「大丈夫、ちゃんと間に合った。アオイちゃんを連れて鳥居をくぐって」
大和 「シロさんは?」
シロ 「私はいいの。お母さんは鳥居まで私が運ぶ」
大和は言われるがまま葵を抱きかかえた。シロも葵の母のところへ行き、難なく葵の母を抱えあげる。しばらくしてふたりは葵と彼女の母を鳥居まで運びきった。
シロ 「アオイちゃんたちはもうここに近づけないこと。いいね」
大和 「分かった。そうする」
シロ 「二人はここから出たら意識を取り戻すはず」
大和 「命に関わったり、後遺症もないんですよね?」
シロ 「うん、君が頑張って自転車をこいでくれたおかげでね。命より大切なものがかかってる感じで、行きはあんな辛そうだったのに」
大和 「はは、ほっとして力抜けてきた。シロさん、ありがとうございました。お礼しに明日また来ます」
シロ 「うん、待ってる」
ーーーーーーーーーー
翌日
シロ 「参拝ありがとう」
大和 「こんなんでお礼いいのかな」
シロ 「大丈夫だよ。お礼とか行って連れ出されると困る」
大和 「ごめん」
シロ 「君は悪くないって言ってるでしょう。悪いのは私がここを出れるようにしたあのヒト」
大和 「シロさんを思ってだよ。彼を悪く言わないでほしい」
シロ 「君が言うことかな」
大和 「いいじゃないですか。それに葵がここに来たのは俺に責任がありますから」
シロ 「そっか。でもそのヒトがさ、私がヒトの形をもらえるようにしてくれたんだ、社に印を結んでね。恩人...なのかな」
大和 「うん、シロさんにとって大切な人だと思う。けどなーシロさんの元の姿もかわいかったのに」
シロ 「あーもう、アオイちゃんに言いつけるよ」
大和 「葵はシロさんのこと何も覚えてないから全然大丈夫」
シロ 「自転車乗ってるのは覚えてるんじゃない?」
大和 「あっ」
シロ 「はーい残念でした」
大和 「やめてくれ...そもそも動物的なかわいさだから」
シロ 「聞いてません。そんなことより自分の気持ちに気づいたんでしょ、ならちゃんと伝えなきゃ」
大和 「...頑張ります」
シロ 「でも危なかったね。2日目とかかな、私がアオイちゃんと一緒にいたい?って聞いたでしょ」
大和 「あーあったかも」
シロ 「あのとき願ってたら一緒に捕らわれてたと思う」
大和 「そんな早くに!? 昨日君はまだ大丈夫、超能力的なのはないとか言ってたじゃん。もう誓いとか気安くたてられない...」
シロ 「ごめん。けどそのおかげでお礼を対価にアオイちゃんを元に戻せた」
大和 「シロさん、本当に」
シロ 「私にお礼はいいよ。それよりもアオイちゃんのとこに行ってあげなよ」
大和 「まだ病院だし」
シロ 「すぐ終わる検査だけなんでしょ、問題ないじゃん。ほーら」
シロは大和の背中を押した。
大和 「わかったって。シロさんまたね!」
シロ 「うん!」
大和は走りながら鳥居を抜けた。神社に一礼すると自転車に飛び乗ってすぐこぎ始める。
大和 「やっぱ大好きだな、この景色」
大和の目には長い山道と青々とした木々が映っていた。