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バ美肉おじさんは転生しました!  作者: 森本みつき
第1章 オークキングの花嫁
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第7話 バ美肉おじさんとデカ乳クエスト


第7話 バ美肉おじさんとデカ乳クエスト




「――オークキングを倒してほしいですって?」


 オークの巣を後にしたルジェは、アイラから依頼の内容を聞いていた。


「いや、倒すのを手伝ってほしいんだ……足手まといかもしれないが、私もいっしょに戦うから」


 なんでもアイラが暮らすポポラ村では、南から流れてきたオークキングが原因で、すでにいくつかの争いが起こっているらしい。


「キングってことは、オーク族で一番強いってこと?」

「いや、豚鬼族の頂点はカイザーだ。やつは縄張りの奥地で複数のキングたちと共に力を蓄えている。今回流れてきたオークキングは新参だろう」

「ふーん……そいつにアイラの村が狙われているのかしら?」

「いや、村というか…………私が狙われているんだ」

「ああ、なるほど」


 つまりアイラが原因で、ポポラ村がオークキングに狙われているから、それをどうにかしたいというのが依頼の内容だろう。


「……本当は私だけで始末をつけたかったのだが、オークキングを討つどころか、はぐれオークにすら勝てなかった…………どうして闇の精霊は、こんな私を戦士に選んだのだろうな……」


 自嘲気味にアイラは笑うが、その瞳の奥からは悔しさが滲み出ている。

 もしかすると、彼女は鉄砲玉みたいなマネをしようとしていたんじゃないだろうか?

 オークキングを倒せればそれでいいし、敗れて捕まっても自分が犠牲になるだけで村には被害が出ない。

 そんな自暴自棄な思考回路が、彼女の言動からは透けて見えた。


『これは喝が必要だな』


 私が促すとルジェはコクリと頷いて、隣を歩くアイラのデカ尻をスパンッと叩いた。


「痛っ……いきなりなにをするんだ!?」


 お尻を押さえて眉尻を上げるアイラに、ルジェは毅然と説教をする。


「自分を大切にしない女の子は、お尻を叩くことにしているの。あたしに叩かれたくなかったら自分を大切にしなさい?」


 真っ直ぐに瞳を見つめて話すルジェに、アイラの頬が赤く染まった。


「……ご、ごめんなさい」

「バーカ。こういう時は『ありがとう』って言うのよ!」


 叩いたお尻を撫でながら、ルジェはパチンとウィンクする。

 お尻を叩かれ撫でられたアイラは、


「…………ありがとう」


 茹でダコみたいな顔でお礼を言った。

 尻叩きに尻撫でとか、おじさんがやったら普通に捕まる説教だけれど、美少女の姿なら許されるらしい。


「それじゃあまずはアイラの村に行って、冒険の準備を整えましょう。あたしもあんたも半裸みたいな恰好なんだから、まともな着替えを手に入れないと落ち着かないもの」

「え……いや、それは……」


 建設的なルジェの提案に、予想通り勝手に村を飛び出してきたのかアイラは口ごもる。

 気まずそうに指をモジモジさせる彼女を、社会人経験のあるルジェは叱り飛ばした。


「こらっ! あんたのことを心配している人がいるかもしれないんだから、そこはちゃんと戻って叱られなさい! どうせオークキングを倒すなら、きっちり許可を得てから倒しに行ったほうが気持ちいいでしょうがっ!」


 ルジェはアイラのお尻をベシッと叩く。


「痛っ…………あ、ありがとう?」

「今のはごめんなさいでしょっ!」



     ●◇●◇●



 それから北に向かって三時間ほど歩くと、木々の合間に岩山が見えてきた。

 標高は五百メートルくらいで、硬そうな黒い岩肌には多様な植物が生えている。

 そして頂上には神々しい巨大樹が聳え立っており、陽光を反射して枝に茂らせたエメラルドグリーンの葉っぱをキラキラと輝かせていた。


「?」


 その時、ふと背後から気配を感じて、ルジェは振り返る。


「どうしたんだ?」


 しかし背後にはなにもおらず、


「ううん……なんでもない」


 すぐにルジェは岩山へと視線を戻した。

 神秘的な岩山を眺めながら、アイラの自慢気な解説を聞く。


「あの岩山の中腹にポポラ村があるんだ。いちおう国家としては大森林の北側を統べるアルカディア共和国に所属している。まあ、アルカディアの本体は大結界の中だから交流はほとんどないけれど……東にある迷宮都市への交易路として使われているから、ルジェのような吸血種が通ることもあるぞ!」


 なんでもアルカディア共和国というのは、エルフや吸血種などの長命種が集まってできた国で、ここから西側への移動を通せんぼしている【大結界】の向こう側に本国はあるらしい。

 西側が行き止まりになっている理由を知れたので、私としては有り難い情報だったのだが、しかし解説の最後に【吸血種】と言われたルジェは、アイラの乳房を叩きながら訂正を求めた。


「あたしの種族は吸血種じゃなくて、吸血姫よ! オンリーワンな存在なんだからっ! そこんとこ間違えないでっ!」

「……いや、吸血種にも姫はいるから……勝手に姫を名乗るのはやめたほうがいいと思うのだが……」

「あたしのほうがもっと姫なのっ! ナチュラル・ボーン・プリンセスなのっ! おわかりっ!?」

「わかった! わかったから……乳をペチペチするな…………どうしていちいち触ってくるんだ……」

「そこに触れる乳があるからよ!」



 ついでに。

 吸血鬼って恐れられているイメージがあったから、そこらへんのことを岩山へと向かいつつアイラに訊いてみたら、まったく見当はずれの答えが返ってきた。


「え? 吸血鬼をどう思うかって……? 普通にぶっ殺せばいいのでは?」

「……あたしを吸血鬼とは思わないの?」

「? 思うわけがないだろう? そもそも見た目が違うし……やつらはオークに捕らわれたエルフを救ったりしないから」


 詳しく話を聞いてみたところ、この世界の住人にとって吸血鬼と吸血種は別物で、青白い肌と赤い瞳を持つ凶暴な種族を【吸血鬼】と呼ぶそうだ。

 だから【吸血種】を吸血鬼と呼ぶのは最大のタブーらしい。


「そんなことを聞くなんて……ルジェは本当に記憶を失っているのか?」

「最初からそう言っているでしょう? だからアイラはあたしに常識を教えなさい! 手取り、足取り、ナニ取りね!」

「お前にナニは生えていないだろう!?」




 そしてルジェの下ネタにアイラが真っ赤になったころ、ようやく二人は岩山の麓まで辿り着いた。

 そこには岩山を削って作られた階段があり、階段の下では数十人のエルフと数匹のオークが対峙して、剣呑な雰囲気で言い争っている。


「あれは……オークキングの側近だっ!」


 異変に気づいたアイラが駆け出そうとしたので、


「待ちなさい」


 ルジェは彼女の手を引いて巨木の後ろに隠れた。


「なっ!? どうして止めるんだ! あいつらが来ているということは、私は一番の当事者かもしれないのにっ!?」

「だからこそ慎重に行動するのよ。ここであんたが出て行ったら、話しがこじれるかもしれないでしょ?」

「ぐっ……」


 ルジェの言い分に理があると悟ったのか、アイラは唇を噛んでオークたちの動向に注目した。

 私とルジェも耳を聳たせて、エルフとオークの会話を拾う。

 主に会話をしているのは、薄汚れた衣服と装飾品でゴテゴテに着飾ったデブオークと、真っ白な肌を持つ金髪のエルフだった。


「――何度言えばわかるのですか? アイラは今、この村には居ません」


 金髪緑眼のエルフの美女が、きつい口調でオークに告げる。


「ブゴォッ! ウソを吐くな! ウソをっ! 偉大なるオークキングのジャギル様が他ならぬアイラを所望しているのだ! アルカディアと我らがオーク帝国の友好のためにも、ここは小娘を差し出すのが礼儀というものだろう!」


 対して唾を撒き散らすデブオークは、意外と流暢な言葉を操っていた。


「……オークってしゃべれたんだ」

『……しかも意外と口が上手いぞ? 国際関係を盾に女を要求していやがる』


 ポツリと零れたルジェの呟きに、隣でアイラが答えてくれる。


「言語を操れるのは知能が高い上位種だけだ。あのデブオークはああ見えて魔術師でな、そこそこ弁が立つだけではなく厄介な魔道具を持っているから、ジャギルの交渉役に就いているのだ。しかし私を得るために、国家間の関係まで持ち出してくるとは……」


 まあ、仲良くして欲しければ女を寄越せとか、完全に言動が蛮族だよな。

 デブオークの要求に、しかしエルフの美女は毅然と答えた。


「私は嘘など吐いておりません! 今現在、この村にアイラはいない、だからアイラを渡すことはできない……オークにはそのような簡単なこともわからないのですか?」


 煽るような言葉に、周りのオークたちがブヒブヒと喚き立てる。

 どうやらデブオークの取り巻きも、言葉を理解することはできるらしい。

 喚き立てる取り巻きを、片手を挙げて黙らせて、デブオークはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。


「ブヒヒッ……そこまで言うのなら、我が輩が持つ【虚実の宝珠】にそれを証明してもらおうか……」


 そして重ね着した服の内側から、ひとつの水晶玉を取り出した。


『ウソ発見器みたいなやつか……?』


 虚実の宝珠とかいう名前からして、そんな感じの魔道具なのだろう。

 自信満々なデブオークが持つ水晶にエルフの美女が同じ内容で語りかける。


「――今現在、この村にアイラは居ません。彼女はひとりで村を出て、ひとりで南へと向かって行ったのですから」

「ブゴッ!?」


 その発言に、デブオークは目を見開いた。

 エルフの顔と水晶を交互に見て、嘘を吐いていないと判断したのか、慌てて部下たちに指示を出す。


「ブギィイイイッ! アイラを探せっ! 他の同族に見つかる前に、我々の手でジャギル様の花嫁を捕まえるのだ!」


 そして南に向かって走ってきたオークたちを、ルジェとアイラは巨木を回ることでやり過ごす。

 バタバタと砂煙を上げて走り去るオークたちを見送り、二人が村の入口へと振り返ると、そこではエルフの美女が底知れぬ笑顔でこちらを見つめていた。


『……気づかれていたみたいだな』

「やるわね、あのエルフ」


 魔道具の性質と現状を逆手に取って、上手いことオークたちを退けたエルフの美女に、ルジェは素直に称賛を贈る。

 身内を褒められて嬉しかったのか、アイラはその言葉に破顔した。


「ああ! 神樹守様は凄いんだ!」


 彼女はアイラにとって信頼のおける人物らしい。

 アイラに手を引かれ、ルジェも彼女の下へと歩いて行く。

 近づくと、周りにいたエルフたちもアイラに気づいて騒ぎ出したが、神樹守様とやらが進み出るとすぐに黙った。

 彼女は二人の前へと静かに歩み、魂が安らぐような声音で語りかけてくる。


「おかえりなさい、アイラ」

「神樹守様っ! さきほどのオークたちは――」

「その話は後です」


 切実な顔でオークたちのことを訪ねようとしたアイラを遮り、彼女はアイラの後ろに立つルジェへと視線を送った。

 彼女はしばしルジェを見つめ、丁寧に頭を下げる。


「尊き吸血種のかた……この度は我々の同胞がお世話になりました。私の名前はエリアス。この村の代表をしている者です」


 エリアスさんは礼を述べると頭を上げ、まるで全てを見透かすようなエメラルドグリーンの瞳でルジェのことを見つめてきた。


「あー……あたしはルジェ。ただの記憶喪失な美少女だから……それほど畏まった態度は取らなくてもいいわよ?」


 なんとなく居心地が悪くてルジェが視線を逸らすと、彼女は穏やかに微笑んでアイラと似たようなことを言ってくる。


「……なにかしらの事情があるならば、詮索はしないように致しましょう。しかしルジェさんが恩人であることに変わりはありません。もう直に日も暮れますし、よろしければ今日はこの村にお泊りください。もちろんお代は不要ですので」


 アイラといい、エリアスさんといい、エルフという種族は義理堅いようだ。

 まあ、こちらも泊めてもらう予定だったので、渡りに船である。


「タダで泊めてくれるってんなら、お言葉に甘えようかしら?」


 答えを聞いたエリアスさんは再び頭を下げ、


「正式なお礼は、アイラに話を聞いてからさせていただきます……」


 続けて般若のオーラを浮かべてアイラへと向き直った。


「だからアイラ……私たちにあなたの話を、じっくり聞かせてね?」

「ひっ!?」


 そして逃げようとしたアイラを捕まえて、エリアスさんたちは岩山の上へと引き上げていく。

 ドナドナされていくアイラが助けて欲しそうに振り返っていたが、これから彼女には説教大会が待っているだろうから、賢明なルジェは知らんぷりした。

 アイラを見送ったルジェのもとにはスレンダーなシャドウエルフの美女が近づいてきて、宿への道案内を買って出てくれる。


「ようこそポポラ村へ。戦時中ゆえたいした持て成しもできませんが、どうぞ旅の疲れを癒していってください」

「ええ……ゆっくりさせてもらうわ。流石に今日は疲れたから……」



 そして私たちは、異世界で初めての人里へと辿り着いた。


エルフ村のイメージに苦戦した。

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